「よくきてくれたよ。オレの方から出向いてやる予定だったんだけどな、手間が省けたよ」

「託はいい。単乗り込んでくるとはいい度だ、無駄な抵抗はせず大人しく捕縛されろ」

隆起した巖の高臺から見下ろしてくるマクスウェルに向かって、エクスエルが銀製の錫杖を構えながら言う。

「まあまあ慌てなさんな。確かにあんたにも用はあるよ？　だがしかし、まずはあんたの後ろの二人からだ」

そう言うとマクスウェルは兵士達に囲まれている元冒険者の民間人二人に目を移した。

「あんた等、よくもあの時あんな場所でオレのことを追放してダンジョンの中に置き去りにしてくれたよな。あの時の恐怖、オレはいつまでも忘れることはないぜ？」

マクスウェルの言葉と共に人の頭ほどもある大きさの寶珠が妖しいを帯びる。

その不気味さに若干気圧されながら、元冒険者の二人は反論をした。

「冗談じゃない！　俺達はお前が一人で突出した後、ダンジョンの中を散々探し回ったんだ！　そのせいで……リーダーのエニンを失った……。許せないのはこちらの方だ！」

「ふん、自分の過ちすら認められず都合のいいストーリーだけを追い続けるのか。まあいいよ、あの時お前達に追放され見捨てられたおで、オレは新たな力に覚醒したんだ！」

そう言いながらマクスウェルが禍々しい寶珠を戴いた杖を天へと掲げる。

その作と同時に、ロノム達一行の前に陣取り大人しくしていた魔の集団の中から二ほど襲い掛かってきた。

「無駄です！」

「はっ！」

突っ込んできた犬型の魔とトカゲ型の魔は、メルティラの片手剣とロノムのハンドアックスによって打ち倒される。

魔二はしばらく痙攣をした後、砂へと還っていった。

「今のはただの挨拶代わりだよ。分かるか？　この能力が……。オレは、オレはな！　全ての魔をる力に覚醒したんだ！　自分の意のままにな！！」

「待て、マクスウェル！　お前が持っているその寶珠はダンジョンコアなんだろ？　ダンジョンコアはアンサスランでも解明が進んでいない得の知れない力なんだ！　まだ人の手に負えるものじゃない、今すぐ手放した方がいい……！」

ロノムの言葉に対してひとしきり高笑いをした後、マクスウェルは続ける。

「知ったことかよ。あんたが言うように人の手に負えるものじゃないとしたら、それをれるオレは神かなんかじゃないのか？　そうだ、そうだよ。オレが神だ……！　オレは神だったんだ……！！　だとしたら、まずやることがある……。オレのことを追放したあんた等二人に生き地獄を味わわせてやろう。オレがどんな目に遭ったか知ってもらうためにな」

マクスウェルの言葉に寶珠は妖しく呼応しながら、禍々しいオーラを放ち続けている。

「そして次は、あんた等冒険者とクリストファー領の奴等だ。あんた等はオレの真の実力も分からずに蔑み迫害し続けた。その報いをける時が、今來たんだ！」

マクスウェルは最後まで言い切ると、再び高笑いを始めた。

一方その様子をずっと眺め続けていたアイリスとメルティラは、半ば呆れながら二人で顔を見合わせる。

「まーったくなにを言っているのか思いのほか分からないですねぇ。そこはかとなく狂気をじます」

「思想としては稚そのものですね。そんな格の方が途方もない力を得てしまったのですから、恐ろしいものです」

そして二人で辛辣な評価を下した後、避けられぬ戦いに備えた。

「ルシア……。貴の……撃武で……、あの……臺所によく出る……黒い不快な蟲のような……男を……今すぐ……抜けたり……しない……？」

「ええと……できなくもないと思いますが、外した時のリスクを考えるとやらない方が無難かもしれません」

「そう……だよね……。殘念……」

心底殘念そうなネシュレムを橫目に見ながら、何とも言えない苦笑いを浮かべながらルシアも銃を構える。

「それじゃあ、いくぞ！　神の裁きの時間だ！」

そんな子組四人の様子など知ることもなく、マクスウェルは満面の笑みを浮かべながら杖を掲げ魔達に指令を出した。

「來るぞ！」

ロノムの言葉と同時にメルティラが前方へと駆け出し襲い來る魔と対峙する。

遅れてロノムとルシアも前へと出て、その後ろでアイリス、エクスエル、ネシュレム達師組は詠唱を始めた。

「我等も冒険者に後れを取るな！　魔を抑えマクスウェルを捕縛する！」

「「「おおー！」」」

一方の兵士達も兵長の號令に従い陣形を保ちながら前進してく。

兵士達に呼応して元冒険者の二人も兵士達と共に前進を始めた。

「お前達二人はもう役目を果たした。隙を見て逃げろ」

そんな元冒険者に対して兵長が撤退するように促す。

「何をおっしゃいます。伯爵様のお役に立てるのであれば、このを投げ出す覚悟でございますよ。我々とて魔と戦ってきた元冒険者です。遅れは取りません」

しかし、元冒険者の二人はそう言ってそれぞれ武を取り、兵士達と共に魔との戦いにを投じて行った。

「氷晶(ひょうしょう)は連(つら)なる牙突(がとつ)、常闇(とこやみ)の風(かぜ)は狂気(きょうき)を宿(やど)し吹雪(ふぶき)と(な)す。吹(ふ)き荒(あ)れろ！　ブリザード！」

エクスエルの魔法によって魔は次々と倒されていく。

洗練された破壊師にとって対多數の戦いはもっとも得意とする狀況であり、エクスエルにとっても十八番と呼べる場面であった。

戦局はエクスエルを現在中心に進んでいる。

「ロノム！　ここは私がけ持つ！　あのうすらバカを何とかしに行け！」

「オーケー！　ルシアさん！　ここはエクスさん達に任せて、俺達はマクスウェルだ！」

「了解しましたロノム隊長！」

魔と人による戦の中、ロノムとルシアは魔の間を抜け出しマクスウェルが陣取る高臺に向けて駆け上がる。

「ネシュレム！　ロノムを援護しろ！」

「エクス……分かった……！」

エクスに命じられ、ネシュレムも防の魔法を使いながらロノム達についていった。

「は！　させるかよ！」

一方のマクスウェルは杖を左右に振り、自分へと迫るロノムとルシアに対して魔の群れを差し向ける。

「この世界(せかい)は……涙(なみだいろ)に染(そ)まる……冷(つめ)たい牢獄(ろうごく)……。かつて(あい)しあった二人(ふたり)も……今(いま)は互(たが)いに……拒絶(きょぜつ)して……、鎖(くさり)に繋(つな)がれ……心(こころ)を……閉(と)ざす……。孤獨(こどく)と共(とも)にあれ……、グリーフ・プリズン」

しかしロノムとルシアの周囲には球上のバリアが張られ、僅かな間ながら魔を寄せ付けない。

その猶予時間を使って二人はマクスウェルへと距離を詰めていく。

「ちっ！　どいつもこいつも鬱陶しい！」

ロノム達が目前へと迫ってきたところで、マクスウェルは鳥型の魔の背に乗り込み空中に飛び立とうとした。

「ルシアさん！」

「はい！」

しかし鳥型の魔が大地を蹴ったまさにその瞬間に、ルシアが高臺を駆け登りながら狙いを定め発砲する。

弾丸はマクスウェルにこそ當たらなかったが彼の騎乗する鳥型の魔の腹部へと命中し、魔は地上から僅かに飛び上がったところでバランスを崩した。

「うわ！？」

マクスウェルも魔の背から振り落とされ、巖だらけの山へと投げ出される。

「たっ！」

他方、ロノムは鳥型の魔がバランスを崩した際に生まれた隙を逃さず一足飛びに迫り、その首を落として砂へと還した。

「あんた……！　よくもやってくれたな！？」

マクスウェルは何とか勢を整え立ち上がると、何かの魔を自分の周囲に呼び防を固める。

高臺の上でロノムとルシア、そしてネシュレムが対峙し、今まさにマクスウェルとの間で戦いが始まろうとしたその時だった。

「！？」

突如ロノム達の足許が鳴し、高臺となっていた巖場が崩壊する。

高臺は地りを起こし、巨大な巖場はロノム、ルシア、ネシュレムとマクスウェルを乗せたまま山をり落ちていく。

四人と數の魔は巖場と共に山の中腹に口を開ける崖下へと崩落していった。

「ネ……ネシュレーム！！」

僅かに離れた場所でその様子を見ていたエクスエルが、自らの持ち場を放り出しロノム達を追いかけようとする。

しかしエクスエルが職場放棄をしようとしたところで、メルティラとアイリスが彼のことを引き留めた。

「エクっさん！　ネシュちゃんもルシアちゃんもきっと大丈夫です！　ロッさんがついておりますから！　ロッさんのことを信じて下さい！」

「私達はこの狀況を切り抜けることの方が先決です！　魔の群れの殲滅は、エクスエル様が頼りなのですから！」

二人の言葉にエクスエルは我に返り、魔達へと対峙する。

「あ……ああ……取りして済まなかった。そうだ、これほどの數の魔を何とかできるのは、私達冒険者だけだったな……。ロノム……ネシュレムのことを頼んだぞ……！」

エクスエルはそう言うと、迫り來る魔の群れに対して再び破壊の詠唱を開始した。