「戦頭(いくさがしら)、完全に囲まれてます」

坂の中腹できが取れなくなっている山岳民族の部隊の中心にいる男が、老練な指揮に向かって呟く。

彼等は一人飛び出していったマクスウェルの援護及び回収をしつつクリストファー伯の小規模部隊を殲滅する心積もりで用兵をしていたが、そのきはクリストファー伯に掌握されおり逆に包囲されるという事態になってしまった。

「まさかクリストファーの本隊がこの場に現れるとはな……。誰も彼奴等(きやつら)の本隊の移に気付かなんだか？」

戦頭(いくさがしら)と呼ばれた白髪頭の指揮はイラついたように自の髭をなぞりながら、冷靜を裝いつつ脇に控える槍を持った男へと聞く。

「伝令によれば、クリストファーの本隊は一部を我等の本陣へと睨みを利かせるために分隊として殘し、他は退卻したという話でした。まさかクリストファー本人が分隊を率いているとは……」

「それはワシかて同じことじゃ。本陣を差し置いて戦頭(いくさがしら)のワシがこちらを率いているとは思わなんだろう……」

そんな二人の男がコソコソそんな會話をしていると、二人からはやや遠方にいるクリストファーが馬から降りてきて坂の中腹を見據えて何やら手を振りながらんできた。

「おーーーい、戦頭(いくさがしら)ーーー。いるんでしょーーー？　いるならお話があるから手を振ってくれーーーぃ」

巖だらけの崖によくこだまする大聲は、いつものゆるいじの中に地方領主の伯爵たる相応の威厳がめられている。

「戦頭(いくさがしら)、完全にバレちまってますね」

「恐るべきは當代のクリストファーよ……」

山岳民族の戦頭(いくさがしら)はそう呟くと、集団を掻き分けて前へと出て、クリストファーに対してしわがれた聲でぶ。

「クリストファーよ、この場にお主自ら出てくるとはのう。……いったい何が目的じゃ」

「おーやっぱりいたいたー、ひっさしぶりー。あのねー、ちょっと前から棚上げになってしまってる和平協定を再開したいと思ってさー」

「協定の……続きじゃと……？」

クリストファー伯の言葉に若干の思案をした後、戦頭(いくさがしら)は疑問形で返した。

「そうそうー。おっけーなら何もせずにこの場は引き下がるよーん。一部の人達は捕虜として此方(こなた)達が引きけるけどねー」

「斷ると言うたら？」

「その選択肢はないよー。はっきりしっかりちゃっかり言えば、此方(こなた)達にとって厄介な相手は戦頭(いくさがしら)と魔達だからねー。その二つを今この場で手中に収めた今、そっちの制圧なんて容易(たやす)いにゃんにゃん」

多勢の騎士団と鋭部隊による武力を背景にクリストファー伯が強気の姿勢を崩さぬまま、戦頭(いくさがしら)に対して取引を持ち掛ける。

「戦頭(いくさがしら)、我等はクリストファーの言いなりになるくらいなら、玉砕も覚悟の上です。ご指示を」

「いや……ある意味でここが時なのかもしれん……。魔の集団を増強したことによって夢を見たとはいえ、遅かれ早かれクリストファーには屈する運命だったのじゃろうな……」

副の男に対してそう呟きながら、自の持っている大槍を強く握りしめクリストファー伯に向かってんだ。

「先の和平協定の折に出たとおり、ワシ等の所領や生活の在り様(よう)に口は出すまいな？」

「変わんないよー。そっちの生き方にはあんまし口出ししないよー」

そして、クリストファー伯のその言葉を聞いた戦頭(いくさがしら)は自が持っていた武をその場に投げ捨てて、クリストファーに対し投降の意思を示す。

「よかろう。和平協定の再開、ワシが直々に族長へと進言する」

「あんがとねー。そいじゃ、今日はここで解散！　ひとまずこの男と杖は此方(こなた)達で預からせてもらうねー」

クリストファー伯のその言葉に騎士団員がき、拘束したマクスウェルを立ち上がらせる。

そして兵士の一人が大地に落ちたマクスウェルの杖を取ろうとしたその時だった。

「ぐあ！」

「うぐ！？」

包囲されている山岳民族の集団の中で大人しくしていた魔達が突然暴れ始め、山岳民族の戦士達に牙を剝き始めた。

「きゅ、救世主殿！　どうして！？」

「い、いや違う！　オレじゃない！！」

魔達が山岳民族の戦士に対して危害を加えている様子を眺め首を振りながら、マクスウェルが愕然とした表を浮かべてんだ。

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

「なんだ……？　何が起こっている！？」

ネシュレムとの再會を喜びクリストファー伯と相手の戦頭(いくさがしら)とのやり取りを靜かに見守っていたロノム達一行であったが、突如魔が暴れ出したのを見てそれぞれ武を構える。

「ロッさん！　あれ、あれを見て下さい！　魔が作られていきます！」

アイリスの指し示した方を見ると、大地の土が隆起し何らかの形を作り始めロノムが今まで戦ったことのある魔へと姿を変えていった。

「ロノム隊長、マクスウェルさんの持っていた杖が……！」

そしてルシアの見ている方では人の頭ほどもある寶珠を戴いた杖は誰にもれられぬまま宙に浮き、一層禍々しいオーラを放ち始める。

「ロノム、知魔法だ！　知魔法を展開しろ！！」

「お、オーケー！」

何が起こっているのか狀況をあまり把握できていないまま、ロノムはエクスエルに言われ生知と罠知の魔法を同時に展開した。

「罠は……確かにいくつか発生しているが大したものじゃない……。だが魔が周辺一帯に次から次へと発生している……！」

「やはりか。お前の見立てではあれはダンジョンコアなんだろう？　だとしたら、どういう原理か知らんがあれによってこの一帯がダンジョンとなったわけだ」

エクスエルの言葉にロノムが驚愕しながら息を飲む。

「そんな！　舊文明の跡でない場所がダンジョンになるなんて、あり得るのか！？」

「知るか。お前との再會に始まってダンジョンコアとか魔をる男とかこの地に來てから想定外だらけだ。だったら、私達も想定外を想定してくしかなかろうが」

そう言ってエクスエルは魔法の詠唱を始め宙に浮く寶珠へと狙いを定める。

「どうなるか知らんがやってみるぞ。白刃(はくじん)は水(みず)より出(いで)でて明(あ)けの星(ほし)に形(かたな)す。貫(つらぬ)け！　アイシクル・レイ！」

エクスエルによって生された氷の大槍は一直線に寶珠へと向かっていく。

しかし寶珠は黒とも紫ともつかぬオーラを放ち、襲い來るアイシクル・レイを弾き飛ばした。

そして周囲で生され活化した魔達はエクスエルへと向かい狂さながらに襲い掛かってくる。

「はっ！」

「無駄です！」

「エクスエルさん、危ない！」

その襲撃をロノムのハンドアックス、メルティラの大盾、そしてルシアの銃によってそれぞれ返り討ちにし、數の魔を葬り去った。

「なるほどな、自分に害をなす相手を判斷して反撃する能力をお持ちのようだ。さてロノム、どうする？」

「ああ。意思か反か分からないけど、あの寶珠は一定の判斷力と防衛機構を持っている。そうだな……魔がどれくらい湧き出てくるか分からない以上、殲滅作戦は取れない。ならば先にあの寶珠を何とかしたいところだけど、エクスさんの破壊をはじく辺り生半可な攻撃は効かなそうだ……と、グズグズしてる暇はなさそうだな……！」

ロノムとエクスエルが話し合っていたところに、魔は群れをして襲い掛かってくる。

それをメルティラとネシュレムがそれぞれの手段で対応した。

「魔にやられて負傷している人員も多い、アイリスさんとネシュレムさんは治癒を作って救護活をしてくれ！　ルシアさんは二人に魔が寄り付かないように援護を！　それと、俺達のきをクリストファー伯に伝えてくれ！」

「りょーかいしました！」

「わかった……」

「はい、頑張ります！」

ロノムの言葉にアイリス、ネシュレムの二人は戦場指揮を執るクリストファー伯の近くへと向かい、治癒の準備にる。

ルシアはその手伝いに回った。

「俺とメルティラさん、そしてエクスさんは魔を倒しながら隙を見つけてあの寶珠に攻撃を叩きこむ！　何が効くか分からないから試せるものは全部試す心積もりでいくぞ……！」

「承知いたしました！」

「心得た！」

ロノム達一行は治癒班と攻撃班の二手に分かれると、それぞれ自の仕事へと向かっていった。

ここまで読んで頂きありがとうございます。

しでも面白いとじて頂けましたら、評価・ブックマークをして頂けると大変嬉しいです。