カラフレア王國では、數十年に一度の割合で國の瘴気が濃くなり、國家を危機に陥れる魔獣を生み出す。その都度、討伐が行われるのだが、際限なく生まれ続けるのできりがない。

だがある時、魔獣に呼応するかのように現れた一人のが、瘴気を全て浄化したのだ。

聖教會は彼を聖と認定した。以降瘴気が濃くなる兆しがあれば聖を探し出し、見つからなければ育すると言う決まり事が生まれた。

聖教會だけではなく、王家もまた聖に関して決定を下す。それは、國を救う聖を王家で囲い込む事だった。実際、後にそのは王妃となっている。

レッドリオたちの世代がまさにその瘴気が立ち込める時期と重なったのだが、國を挙げて探し回っても、殘念ながら聖に該當する児は発見できなかった。だからこそ聖教會は聖の育を掲げたのだし、政略のためにセレナイト公が娘のクロエを逸早く聖教會へれたのも無理からぬ事であった。

そして彼が十歳になる頃、正式ではないものの仮の聖として認定され、同時に第一王子との婚約も決定したのだ。

だがレッドリオは、クロエを到底聖とは認められなかった。無論、將來の伴としてもだ。

何故なら彼は傲慢で嫉妬深く、婚約者の王子の事すら自分を飾り立てるアクセサリーのようにしか考えていない。そしてお気にりの『裝飾品』が自分をさず、橫から掻っ攫われるのが、とてもとても我慢ならない分なのだ。

そんな彼に婚約者面をされて隣に立たれる苦痛も、いい加減限界に達していた。地方から後天的に覚醒し、真の聖として王立學園に通う事になった、モモ＝パレットと出會ったのは、その頃だった。

素直で明るく、誰に対しても分け隔てなく優しい心の持ち主。そんなモモの姿を目で追い、気を抜けば彼の事を考えてしまい、いつか自分だけを見てくれはしないかとむようになったのは、いつからか。

激しく嫉妬し、モモへの嫌がらせを激化していくクロエを疎ましく思う一方で、モモへの想いは日に日に募るばかりだった。

そして真の聖を見定めるべく聖教會にて行われた試練の最中、大勢の信徒たちが見守る中で斷罪はなされた。

魔法のブローチで記憶させていた數々の証拠を突き出されたクロエは真っ青になり、背後にを庇うレッドリオに縋り付こうとした。

「違うのです、違うのです殿下！　そのが、婚約者のいる高位の殿方とばかり親しくするから私は……」

「俺にれるな！　貴様など、聖を名乗るのも烏滸がましい……もう、貴様との婚約も考え直すよう父に提言するしかあるまい」

「そんなっ！」

項垂れて床に手を突くクロエ。そんな彼を冷たく見下ろし、レッドリオはモモの肩を抱き寄せる。

「沙汰は追って公爵家に伝えておく。それまで大人しくしているんだな……では皆の者、これより真の聖モモを認定するための儀式を――」

大広間からぞろぞろと信徒たちが出て行く。床に伏すクロエは、誰からも顧みられなかった。