《【書籍化&コミカライズ】追放悪役令嬢、只今監視中!【WEB版】》23:神の力
客室から回収したシーツや服を、今度は井戸の側で洗濯する。孤児院の視察で見た事があるが、盥と洗濯板と石鹸を使い一枚ずつ洗っていくので手も荒れるし手間がかかる。クロエはしい手をしていたので、てっきり他の者にやらせていたのかと思いきや、手荒れクリームでケアしていただけだった。こんな山奧で高級品など手にらないので、これからガサガサになっていくのだろう。
井戸から水を汲み上げたクロエは、水質を確認している。
『…ダメね。私の結界じゃ、底の地下水までは及ばないわ。掃除や洗濯に使う分はまだしも、飲んだりしたらたちまちやられちゃう……早いとこ聖石を手にれないと』
『既に料理に使っている分は平気なのですか?』
『澱んだ魔力はじなかったから、恐らく牧師様が浄化してるのよ』
そんな話をしていると、ロックが裏口から鍬と籠を持って出てくる。
『洗濯が干せたら、次は畑仕事だ。將さんに畑まで案してやってくれってさ』
『結界の外に出るの? 魔獣に襲われないかしら』
『魔道(マジックアイテム)で罠をしかけてあるから。でも絶対一人で行くなよ』
ロックに案されて山をし降りると、拓けた場所に出た。ゴーグルを持たされ、に著けると二人は驚きの聲を上げる。どうやら眼では斜面のきつい、木々が集した景に見えていたようで、魔道(マジックアイテム)を使わなくては素通りしてしまう仕掛けだったらしい。
そこには小さな畑があった。宿の食事に使われる野菜はここで収穫されていたとか。井戸も掘られており、クロエが水質を調べたところ、問題はなかった。
『畑周辺の聖石は無事なようね。あとは聖教會から宿の分だけ屆けばいいんだけど』
『なあ、あんたひょっとして神なのか? 結界や聖石に詳しいようだが』
ロックに問われ、クロエはこちらを見てしばし悩む様子を見せた。だが言える範囲までは教える事にしたようだ。
『モモ様が現れるまでは、私も見習いとして聖の修行を積んでいたの。だから神聖魔法もある程度は使えるわよ』
『そうなのか。いや、俺も覚醒したとか騒がれてたのは知ってるけど、どの程度かまではさっぱり分からなくて』
『ふふ……高貴な殿方たちが皆メロメロになるくらいよ』
『その言い方だとモモって何か、魔みてえだな』
「訂正しろ、魔はそのだ!!」
聞こえないのも忘れ、激昂して口々に鏡に映ったロックに詰め寄る。橫でそんな彼等を見て、おかしそうにニヤニヤするイエラオが何とも腹立たしい。
「落ち著きなよ、みんな。別に彼はモモ嬢を悪く言った訳じゃないでしょ」
「どこがだ、あいつは馴染みを、モモを魔と罵ったのだぞ」
「はあ……あのね、それはクロエ嬢が殿方をメロメロとか何とか言ったのを揶揄しただけでしょ。僕の見たところ、ロックもモモ嬢が好きだったみたいだし」
「それは……」
「そうだな、あれはクロエ嬢の言い方が悪い!」
「ああ。我が妹ながら、妬みがけていて見苦しい」
つい頭にが上ってしまった事が恥ずかしくなり、レッドリオは口籠る。言い訳なのか、怒りをクロエに向けるダイとダークを見遣り、再び視線を鏡に戻す。
自分たちはモモを清らかな乙として崇拝していた。無論、の対象でもあったが、どこか神聖な存在として線引きしていたのかもしれない。だがロックは純粋に、馴染みと言う立場でモモを見ている。その事に仄暗い嫉妬を覚えるが、それを認めてはクロエと同類だ。レッドリオは元婚約者の今までの所業を思い返し、あんなと一緒にだけはなるまいと誓った。
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