《【書籍化&コミカライズ】追放悪役令嬢、只今監視中!【WEB版】》25:グレース牧師の正

魔水晶――上級者向けダンジョンの、兇悪な魔たちの住処のさらに奧深くにしか産出されないと言われる鉱。聖石はこの魔水晶を錬したものになる。

『本気ですか、相當な手練れでないと生きて帰って來れないダンジョンに……』

『でも、この宿に泊まる人たちはそのダンジョンを攻略しているのよね?』

『それはそうだけど……持って帰れたとしても、どうやって聖石にするつもりだ。グレース教會の結界に使いたいなんて言っても、教會は錬士を貸し出しちゃくれねえだろう』

こそこそ話し合ってると、そこへ將が來てパンパンと勢いよく手を鳴らされる。

『ほらほら、休憩時間は終わりだよ。あんたらさっさと持ち場へ帰んな』

慌ててカウンターから離れようとするクロエを捕まえると、將は教會へ通じる扉を見遣る。

『詳しい話は、仕事が終わってから教會で聞くよ。ついでにバカ亭主にも話してもらうからね。

――どうして聖教會を追い出されたのかも』

聲は潛めていたがしっかり聞いていたらしい。いつまでも隠し通すのは限界のようだ。

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そして深夜の禮拝堂で、グレース牧師と將を前に、クロエ、シン、ロックが座らされる。薄暗い中でランプのだけが照らされ、ミサか何かのようで不気味だった。

クロエが夫妻の前に跪く。

『まず、素を黙っている事をお許し下さい。私は王都にて罪を犯し、搬送される。目的地へ送られるための手段が確立するまでは追い出される訳にはいかなかったのです』

『よしとくれよ、ここに來るのなんてみんな訳ありだって言ったろ? うちはそう言うのは詮索しないのさ。でも結界の事を気にして留まってくれたのは驚きだったけど』

『行きずりの私が心配してもしょうがないのかもしれませんが、聖石にヒビがっていたなど誰も気付いていなかったようでしたし、見過ごせなかったのです』

將にそう弁解するクロエだが、修道院行きをしでも延ばすための方便じゃないかという疑いもあった。だが今日一日の過酷な労働から言って、向こうとそう変わらないのではとも思えてくる。

(…いや、クロエが家事に慣れていたのは王都の聖教會での経験があったからだと言っている。ならばやはり、修道院はさらにきついんだろう)

レッドリオがそんな推測をしている間に、普段は寡黙なグレース牧師が前に出る。

『恥ずかしながら、私も結界の異常には気付かなかった。神でありながら神力はそれほど備わってなくてね。聖石も聖教會を抜ける時に持ち出した古いなんだ』

『どうしてお辭めになられたんですか?』

聖教會が協力できないのは、かつてグレース牧師を除名したからだと言う事だったが。牧師は溜息を吐くと、嫌な事を思い出すように顔を顰めた。

『私がまだ若い頃、聖を育するため多くの孤児が聖教會に引き取られた。そして才能の芽は出ないが見目の良い見習いは、個人指導の名目で……あれは地獄だったよ。逃げ出したり命を絶つ者も何人かいた』

突如聞かされた聖教會の闇に、その場――グレース牧師の話を聞いている面々は絶句した。聖教會はカラフレア王國と同じぐらい歴史が長い。瘴気がそれほど濃くはなく注目されない時期であれば、腐った連中に牛耳られる事もあるんだろう。いや、その事実を隠蔽している時點で今もどうか分からない。なくとも貴族であるクロエと真の聖と認定されたモモは知らずに済んだ。

『何人か、私は彼らを庇い走を手引きした。それが発覚してね……あろう事か、全ての罪を背負わされ私は追放された。有り難い事に私に恩をじてくれた聖見習いの家族たちに匿ってもらい、今じゃこんな辺鄙な山奧で野良牧師なんてやってる訳だ』

『ちなみにあたしの妹がその見習いの一人でね。マスラットを家に泊めた縁で一緒になったんだよ』

最後は將が明るく馴れ初めで締めたが、三人はどう答えればいいのか戸い、お互いの顔を見ていた。

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