《【書籍化&コミカライズ】追放悪役令嬢、只今監視中!【WEB版】》26:錬

何とも言えない空気が漂う中、將はそれを振り払うように、パン! と威勢よく手を叩く。

『ほらほら、あんたたちそんなっぽい面すんじゃないよ。うちの亭主がここに教會を建ててくれたおかげで助かったって奴が何人もいるんだからね。ロック、あんたもそうだろ?』

『あ、ああ…』

視線が集まると、ロックは気恥ずかしそうに頭を掻く。

『モモが王都へ行った後、俺は隣國の伯爵に引き取られた。何でも死んだ息子に似ていたとか、子供が生まれなくて跡取りが必要だったとかでさ。まあすぐにお役目免になったけど、籍は置いてもらえたから冒険者になって名を上げれば、いつかあいつを迎えに行けるかなって……けど上級者の壁はなかなか越えられなくてさ。やっとこダンジョンを出して瀕死で行き倒れてたのを、おやっさんに拾ってもらったのさ』

『牧師と呼べ。聖教會から除名はされてるが、一応聖職者だぞ』

ゴホン、と咳払いをすると、グレース牧師はクロエを見つめる。

『聖石にヒビがっているのをよく見つけたな。相當レベルの高い神でもない限り、神力の質などじ取れん。とは言え、小さな魔獣が侵し出してからは薄々気付いてはいたがな』

『それで、どうするおつもりですか? ついさっきまでは魔水晶を錬士に依頼して聖石にしてもらおうと考えていたのですが、聖教會から拒否されてるとなると……』

クロエが顔を曇らせる。素(一部)を明かしたのは、いよいよ今ある聖石だけでは結界が限界に來ているため、主人の承諾なしに勝手にける段階ではなくなってきているからだが、教會の主からして國が正式に任命した者ではなくやくざ同然だった。

『そうさなあ、魔師に高い金払って魔石で結界を張るか、いっそこれを機に宿ごと畳むか迷っていたところだ。お嬢ちゃん、もしも魔水晶を持って來られたらその先は心配いらない』

『え?』

『俺は聖教會にいた頃、その錬士ってやつをやっていた。昔取った杵柄ってやつだよ』

ここに來て明かされた牧師のもう一つの顔に、一同はぽかんと口を開けて呆気に取られた。聞けば元々ここに教會を建てたのは魔水晶が獲れるからだが、冒険者ではないグレース牧師ではダンジョンにれない。泊まりに來る客に頼もうにも、ボランティア同然で命を懸けられる者などいるはずもなく、魔水晶を持ち帰った者たちは牧師に渡すよりも聖教會に高値で買い取らせる事を選んだのだった。

『まさか無償で聖石を取り替えるなんてお人好しに出會えるとは……何十年ぶりに神の存在を信じたくなったよ』

『呆れた、仮にも牧師やってる奴が言うセリフじゃないね。ま、そう言う事だよ。あんたも変な気回さなくていいから、ここで困った事があればまずあたしらに相談しなよ』

カラカラ笑いながら、將はバシンとクロエの背中を叩く。無禮者! と激昂して社會的な死を與える暴君はそこにはおらず、痛そうにしながらも苦笑いを浮かべる一人のだけが居た。

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