《【書籍化&コミカライズ】追放悪役令嬢、只今監視中!【WEB版】》27:苦い記憶

次の日、クロエはシンよりも早起きして部屋を出ていたようだ。一階に下りると廚房から顔を覗かせる。

『おはようございます。起こして下さればよかったのに』

『あ、おはよう兄さん。下拵えをちょっとね……さ、お掃除お掃除』

まだ日も昇らず誰も起き出していないから、クロエはシンを兄と呼ぶ。まるで心から本當の兄妹のように振る舞う彼にシンは溜息を吐いた。

『勝手に廚房を使ったのですか? 將に怒られますよ』

『もちろん昨日のに許可は取ったわ。調理する時は見ててもらうし』

『調理!? 準備だけでなく廚房に立つのですか、お嬢…』

言いかけるシンの口をクロエの指が封じる。外に出て掃除道を取り出したあたりで將が起き出し、二人に笑いかけてきた。

『おはよう、あんたたち。朝早くに辛くないかい?』

將、チャコに調理を任す気ですか? 妹は失敗した焼き菓子の処理を私によく頼んできて、結局相手に渡せなかったような腕前ですよ』

『ちょっと、恥ずかしいからやめてよ。昔の話じゃない』

「焼き菓子? 何の事だ」

「聞いての通りです。あいつはモモに対抗して殿下に手作りの菓子をプレゼントして気を引こうとしたのですよ。私にまで味見させてきたので、はっきり不味いと言ってやったら癇癪を起こしてくずかごに叩き込んでましたがね」

初めて聞いた話に眉を寄せるレッドリオに、ダークは吐き捨てるように嘲笑う。プライドの高いクロエのがツボにったのか、ダイは噴き出した。

「ぎゃははは、あのクロエ嬢が、手作り! 似合わねー!!」

「殿下には同しますよ、危うく消し炭を食べさせられるところでしたね」

セイの憐れむような眼差しに舌打ちし、レッドリオは言い返してやる。

「たとえ功作だったとしても、あんなの手作りなんぞ口にはせん。モモの心のこもったクッキーだからこそいいんだ。…人の事ばかりだがセイ、お前の婚約はどうなってる。そっちもめていると聞くぞ」

「ご心配頂かなくとも、穏便な解消に向けて協議中ですよ。心にモモ嬢と言う天使を住まわせたまま婚約を続けるなど、彼にも失禮だ」

レッドリオだけでなく、セイとダークの婚約も暗礁に乗り上げていた。もしも第一王子とモモの婚約が正式に決まれば、二人の我儘など通るはずもないのだが、モモ本人は彼等との関係は友人だと公言しはっきりさせなかったため、誰もがいつか自分こそはと牽制し合っている。

そんな男たちを、イエラオは冷めた目で見つめていた。

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