《【書籍化&コミカライズ】追放悪役令嬢、只今監視中!【WEB版】》28:クロエの手料理

『おはようチャコ、シン』

スクリーンの中では、昨日宿に泊まったロックが階段から下りてくる。今日の配達は別の人間に頼んだので、彼は今純粋に客としてここにいる。

挨拶をわした後、ロックは自作の地図を広げた。

『そこのダンジョンの地図を作ったんだが、今のところはここまで攻略できている。魔水晶のある域となると、仲間集めと準備が必要だな。ちなみに上級者向けダンジョンは誰かがクリアすれば構造が変わるようにできている。言ってみれば化の腹の中みたいなもんだ』

『頼んでおいてなんだけど、こんな危険な事させて本當にごめんなさい』

『いいよ、俺だっておやっさんに恩返ししたいし。それにモモの現狀も教えてもらえたから、禮代わりだ』

『あの、これお弁當作ったの。よかったらお晝にどうぞ』

そう言ってクロエが包みを差し出したので、ロックは目を丸くする。シンは仰天してカウンターへ駆け寄った。

『チャコ、朝から作っていたのはそれだったのですね! ですが貴は料理が…』

『ちゃ、ちゃんと將さんに見てもらったし、味見だってしたわよ! 疑うなら今ここで毒見すればいいじゃない、兄さんも!』

弁當とは別にクロエが出した皿には、サンドウィッチが盛られていた。分厚く切った二枚のパンに、胡椒を振ったベーコンと卵、畑で採れたレタスが挾まれ、ソースがかけられている。じっと見つめられて躊躇していると、さっと手がばされる。

『なあ、俺も貰っていい? 他ならぬ俺の晝飯になるんだし、先に食っても問題ねえよな』

『えっ』

反応が遅れたシンを余所に、ロックはあっと言う間にサンドウィッチを平らげた。クロエはそんな彼を呆気に取られて見ている。

『うん、うまい。初めてでここまで作れるなんて、チャコは料理上手なんだな』

『ほ、本當に…? チャコは菓子作りは苦手なんですが』

『そりゃ向き不向きくらいあるだろ。なくともこれは、俺が昔食ったモモの飯とそう変わらないと思うぞ。こりゃ弁當も楽しみだな』

『あ、ありがとうロック…』

ニカッと笑うロックに、クロエは照れて微笑み返した。

冷靜でいられないのは鏡に隔てられた男たちである。

「あ、あり得ない……クロエが料理を作れるなど。まだ始めて三日目なんだぞ!?」

「しかし、失禮な男ですね。モモ嬢の手料理を昔から味わっておきながら、言うに事欠いて、クロエ嬢などと一緒にするとは」

「よっぽどの味オンチなんじゃねえの? もしくは……本當にうまかったとか」

「そんな訳あるか!!」

レッドリオの一聲に、部屋の中が靜かになる。一番驚いているのは彼自だった。いつものように、クロエをモモと比べて嘲笑うつもりだったのだが、思った以上に大聲が出てしまった。しかし幾分か冷靜さを取り戻す。

「あ、あのロックとか言う男は冒険者なんだ。通りすがりにを引っ掛けるに長けているんだろう。クロエのような男を知らん奴は、あんな世辭にも簡単に騙されるんだ。馴染みとは言え、やはりモモに近付ける訳にはいかんな」

何故か言い訳がましく聞こえてしまうのに苛立ちながらも、止められない。幸い彼の部下たちは皆、そうだそうだと同調してクロエやロックの悪口に戻った。

そこへ、イエラオがただ一人水を差す。

「でもさ、義姉上…クロエ嬢をシンに惚れさせるって計畫はどうすんの。どっちかと言えば今のクロエ嬢、ロックといいじになってるよね」

盛り上がっていた面々は、一斉に固まった。

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