《【書籍化&コミカライズ】追放悪役令嬢、只今監視中!【WEB版】》シン=パープルトン①~生い立ち~

俺の名は『シン=パープルトン』――と言う事に便宜上なっている。

スラム育ちで親はいない。この國では孤児院の數が限られていて、またそこも劣悪な環境でスラムに逃げ出してきた孤児も多い。俺はそこでスリや萬引きを繰り返して食い繋いできた。たまに失敗して半殺しにされたりもしたが。

ある時、俺は後の主人となるお嬢様『クロエ=セレナイト』に拾われた。彼の父で右宰相のブラキア=セレナイト公爵はスラムの実を視察するためにクロエを連れて訪れていた。こんな汚い場所を娘に見せるなんてと思うが、クロエは將來の聖で王妃にもなるため、から國の事は知っておくべきだと言う考えらしい。

そんな事とは知らず、俺は金持ちの道楽だと決め付けて仲間と共に馬車を襲った。あっさり護衛に返り討ちにされたが。

仲間もろともしょっぴかれそうになった俺を、クロエは見初めた。俺の髪と目のが気にったらしい。どうも外の國ではアメジストの髪と目は王族の証だとか。何だそりゃ、だとしても俺には関係ない。何で王族がわざわざ外國のスラムにまで來て子供を捨てるんだよ、偶然の一致だ。

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とは言え、俺を気にって引き取ったのはクロエが初めてではない。何人か貴族に屋敷まで連れて行かれた。ただし、玩としてだ。世にもおぞましい目に遭わされた俺は逃げ出して再びスラムに戻る事を繰り返していた。この國の貴族はみんなクズだ。

最初は俺も反抗したが、右宰相の馬車を襲った罪で普通ならその場で斬り捨てられても仕方がない。生き殘るために俺はクロエの犬になった。仲間たちを見捨てて……

クロエは俺に『シン』と言う名前を付けた。死んだペットの名前らしい。言葉を覚える賢い鳥で、紫の羽がしかったと話していた。俺は上等な服を著せられ、読み書きとマナー、護衛を叩き込まれた。『パープルトン』の姓は俺の師となった執事長のものだが、親だと思った事はない。あいつはセレナイト家を盲目的に心酔し、クロエの我儘にも何も言わない。

クロエは俺を拾った事で助けた気になっていた。

謝しなさい、貴方は私に恩があるのよ」

「小汚い貴方を拾ってあげたのは、磨けばしいと気付いたから」

「貴方は私の可いペット。決して私を裏切ってはダメよ。一生私だけのでいなさい」

「でも勘違いしないで。私は將來の王妃様なの。も心もレッドリオ殿下に捧げるのだから」

気持ちの悪い手付きで俺にれながら戯言を垂れ流すクロエに、を押し殺して俺は淡々と答える。

「分かっております、お嬢様。私は貴方の忠実なる僕ですから」

最初から、期待なんてしていない。貴族なんてどれも同じだ。一見すると今までの生活と比べて格段に恵まれている。だが俺は所詮、クロエにとってお気にりの人形でしかないのだ。飽きたら捨てられるのでしがみつくためにを売らなくてはならない。恩とやらも、俺が逃げ出さないよう縛り付ける鎖でしかなかった。

生きるためにその手を取ったはずなのに、クロエに尾を振る度に心が死んでいく。こんな所、早く抜け出さなくてはと思うのに、その先の居場所がない事も分かっていた。右宰相がスラムの解に乗り出したからだ。仲間たちがどうなったのか、今は知らない。再會できたとしてもあいつらを見捨てた俺は許されないだろう。

今日も明日も、貴族にを売る地獄は永遠に続くかと思われた。

転機となったのは、婚約者に纏わり付く悪い蟲を監視しろと言うクロエからの命令だった。悪い蟲の名は『モモ=パレット』。平民だが聖の力に覚醒し、王都の學園に呼ばれただった。

モモ嬢はクロエと何もかも正反対だった。桃のふわふわの髪、澄んでいて無垢な瞳、天使のような慈に満ちた微笑み。彼は俺と會う度、眩しい笑顔で挨拶してくれた。卑しい出の、クロエの忠実なペットであるこの俺にだ。

「でも、それは本當の貴方じゃないでしょう?」

「クロエ様に命令されて心を痛めている、貴方は優しい人よ」

「確かに珍しい鳥は近に置いて飼いたくなるでしょうね。でも、鳥籠に閉じ込めるより自由に空を羽ばたく姿こそしいと思うわ」

の言葉の一つ一つが俺の頑なだった心を溶かし、俺は涙を流していた。俺は人形じゃない。だが公爵家に恩があるのも事実で抜け出せないんだと打ち明けた。俺はいつの間にか、モモ嬢…いや、モモ様に惹かれていたのだ。

ある時、モモ様の紹介でレッドリオ殿下と引き合わされる。クロエの事は疎んじていた彼も、モモ様とは互いに心を許し合う仲のようだった。クロエの敗北を確信すると同時に、俺のも終わったとじた。だがそれでも俺はモモ様をしている。俺を救ってくれたモモ様の力になりたい。地獄から抜け出すため、する人のために俺はレッドリオ殿下のスパイになった。

殿下は最初、公爵家ごと沒落させる事をんでいたが、モモ様はクロエの腹違いの兄ダーク様とも仲が良く、また実際沒落させるほどの不祥事も見つからなかったため、クロエ一人を斷罪する事にした。

クロエは取り巻きや個人で雇ったごろつきを使ってモモ様をめていた。その中には俺も含まれていたが、モモ様の心のしさにとても彼を傷付けられず、今まで誤魔化したりフォローをれたりしてきた。モモ様はそれを優しさだと言うけれど、今から思えば彼に嫌われたくないと言うただのエゴだ。たとえ首になったとしても構わなかった。

そして俺の集めた証拠によってクロエは斷罪され、婚約を破棄された末に王都を追い出された。

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