「それは、監視を始めてからずっと思っていた事だ。どう見てもクロエそのものであるのに、中だけが知らない誰かとれ替わってしまったのではないかと……まさか！？」

今までの不可解さが、一瞬で腑に落ちる。別人、そう考えた方がしっくりくるのだ。

クロエがあんなにも素直で、謙虛で、誠実で……己の罪を認め、聖として相応しい振る舞いをする人間のはずがない。では、あれは誰だと言うのだ。本のクロエは、どうなってしまったのだ。

「信じたくはないのですが……クロエ様のを乗っ取り、なりすましているのは恐らく――魔」

「バカな！ 封印されたはずの古(いにしえ)の存在が、どうやって妹に乗り移ると！？」

疎んじていた妹であっても、得の知れない何かになってしまっていると聞いて、ダークは激しく揺していた。だが突拍子もないと思えないのは、これまでの監視において見てきた、クロエの聞き分けの良さだ。散々、あれは演技だ貓を被っているんだと、自分たちも言い聞かせてきたではないか。

「強い想いと言うものは惹き合うものです。特に同質の、暗い念は…ね」

そう締めくくり、モモはパタンと書を閉じた。しん、と靜寂が訪れる。驚愕のあまり、聲にならないのだ。

そんな中、し離れた場所で見守っていたイエラオは、もたれかかっていた本棚から背を起こした。

「それが本當なら、王家としても放置できないんだけど……兄上は、これからどうする？」

「決まっている。クロエが魔である事が確定すれば、奴を倒す。それしかないだろう」

「それを確認するには、直接出向いて神力の質を見る必要があると思うけど……モモ嬢がイーリス山まで行くの？　あそこはダンジョン周辺に出沒する魔もかなり強いよ。モモ嬢は確か、まだ中級者向けダンジョンまでしか攻略できてないよね」

今までは、そんな危険な場所にモモを行かせるなど許さなかった。だが聖の役割は、この國の瘴気の浄化だ。その権化たる魔と対峙するとなれば、モモも安全な場所で一人ぬくぬくと護られている訳にはいかない。

「神長に頼んで、ダンジョン攻略を再開したいと思います。まずは中級者向けダンジョンから…」

「よし、俺もついて行って説得してやる」

「頑張ってね～」

セイやダークも後に続こうとする中、イエラオだけは彼等を見送る。王太子に決まった彼には、これからやらなくてはならない事が山積みなのだ。だが呑気そうにしているが、聖と共に王子が魔を倒したとなれば、その武勇伝がもたらす國民からの支持は計り知れない。その時は再び、王位継承権爭いが浮上するだろう。今は々、高みの見をしていればいい。

中で弟にそう毒づきつつ、レッドリオたちは書庫を後にした。