《【書籍化&コミカライズ】追放悪役令嬢、只今監視中!【WEB版】》セイ=ブルーノ①~許されぬ

左宰相アラン=ブルーノ公爵の次男、セイ――それが私の名前。自分で言うのも何だが家柄、學力、ルックスに恵まれ、おまけに長男と違って跡を継ぐ必要もない。んだものは大抵手にり、それでいて何も背負わずにいられる気楽な立場。私は誰よりも幸せな男、のはずだった。

こんな私を令嬢方は當然放っておくはずもなく、い頃から遠巻きに熱い視線をじる日々だったが、何もかも恵まれている人間なんて存在しない。天は帳を合わせるが如く、面での試練を科した。

私が初めてしたは、兄の婚約者だったのだ。

右宰相ブラキア=セレナイト公爵の歳の離れた妹、マスミ=セレナイト。先代公爵の晩年に生まれ、されて育ったせいか、のんびりした気質でらかい笑みが何とも癒される令嬢だった。い私はこの年上のにすっかり心を奪われ、同時に失も味わっていた。

兄ソーマは私よりも十歳上だったが、真面目なだけが取り柄の冴えない男だった。才能も容姿も、私には圧倒的に劣る。兄の私だって、私が強請れば苦笑いしながらも譲ってくれたものだ。

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だが子供の私でも分かってしまう。婚約者だけは、このしいだけはどれだけ強請ろうと譲ってはくれない。當たり前だ、マスミ様は心を持った人間なのだ。弟がんだからと言って易々と下げ渡すようでは私は兄上を見損なうだろう。

それでも……どうしてマスミ様は私を男だと認めてくれないのか、そこは何とも納得し難かった。対象はまだしも、異として意識ぐらいしてくれてもいいだろう。部屋に平気で二人きりになったり、寢る時に傍らで本の読み聞かせをしようかと聞いてきた時には、耳を疑った。完全にの繋がった弟のそれだ。末っ子の彼は、兄と結婚する事で義弟ができる事にはしゃいでいた。

冗談じゃない、私の男としてのプライドはズタズタだ。二人の結婚を機に、私は実家から距離を取った。兄に笑いかけるマスミ様も、それに鼻の下をばす兄も見たくはなかった。何もかも劣っているはずの兄の幸せを見せ付けられる、慘めな自分も。

ただ、思うだけなら自由でいたかった。口には出さないから、好きでいる事は許してしい。私は一生、マスミ様以外をさない。

だが左宰相の息子には、たとえ次男であっても一人でいる事は許されなかった。私にも婚約者が決められたのだ。相手は先祖代々の貿易商人である大富豪貴族、ミズーリ=ウォーター伯爵令嬢。輝くような空の髪と瞳を持つだったが、心にマスミ様のいる私には響かなかった。格も大人しく、聞き分けが良くて従順。人形のようでつまらない。いや…政略結婚の駒である私には、実に似合いの相手なのだろう。私自り人形だと言われているようで気分が悪かった。

「これは親同士が決めた結婚だ。私は君を絶対にさない」

「左様でございますか」

「私には好きながいるんだ。一生振り向く事はないだろうが……それでも」

「かしこまりました」

他にするがいると聞いても、ぴくりとも表かさない。將來仮面夫婦になる事が目に見えて憂鬱だった。

年頃になると私は荒れて、片っ端から近寄って來るの相手をした。部屋に連れ込む日もあれば、彼等の家に泊まり歩く時もある。父はもちろん、兄やマスミ様からも嫌な顔をされたし、何度も苦言を呈されたが、ミズーリだけは何も言わずに全てをれていた。

私は次男だ。國の事もブルーノ公爵家の事も、兄上が考えればいい。するは兄上ので、與えられたは人形も同然で。その他のは皆、甘い聲をかければ簡単に靡く。つまらない…つまらない…

學園に學してからも空虛な毎日を送る中、いつもの調子で通りすがりの生徒をからかった。すると、こちらを一瞥しただけで無視された。こんな事は初めてだったから肩かしを食らったが、自分に呼びかけたと気付かなかったのだろうと、それから事あるごとに口説いた。さすがにしつこくし過ぎたか、ついにビンタを喰らってしまった。

「誰にでもそんなんじゃ、本當に好きな人には振り向いてもらえませんよ!」

私が打たれた事に周りの子たちは激昂したが、彼の言葉は頬の痛み以上に強く心に刺さった。家族からどんなに窘められても屆かなかった言葉が、ビンタ一発で。とても痛かった…と同時に、彼に興味が湧いた。

それが、モモ=パレットだった。

に惹かれているのは、レッドリオ殿下も同様だった。私の兄弟で、婚約者はマスミ様の姪にあたる、クロエ=セレナイト。殿下はクロエ嬢の我儘ぶりに辟易し、モモ嬢の庶民臭い振る舞いに新鮮さをじているようだった。

私はクロエ嬢が嫌いだ。見た目こそマスミ様との繋がりをじさせるが、中は正反対。むしろ似ている事が余計に彼を穢されているようで不快だった。殿下はクロエ嬢が仮の聖に選ばれた事が不可解だと仰っていたが、全く同だ。聖と言うのはマスミ様のような方でなければならない。そんな彼も、もうすぐ一児の母になるのだが……思い出して気が沈んできた。

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