馬車で行けば何日もかかる距離を、ドラゴンはあっと言う間に飛び越えて、クロエたちを王都まで運んだ。そこで待っていた者を見て、彼は驚いて目を丸くする。

『貴は……』

『私の顔を覚えてらしたのですね。クロエ＝セレナイト公爵令嬢』

『え、ええ……たまにモモ様と一緒にいるところを見かけましたので』

『栄です』

ニコリと微笑んでクロエの前に立ったのは、チャコ＝ブラウンだった。クロエがその名を騙った張本人と引き合わされたので、気まずい事この上ないだろう。しかしチャコはその事にはれず、クロエの手を取って聖教會へとう。

『そう固くならないで下さい。話は伺ってますので』

『え、えっと……どこへ』

戸うクロエに答える者はおらず、ずんずんと奧へ連れて行かれる。途中ですれ違う神たちはぎょっとした顔をしていたが、チャコもイエラオも気にしていない。やがて控室に四人がったところで、ドアがガチャリと閉じられた。そこには聖誕祭で聖が著るための裝が用意されていた。

『クロエ様。これから貴にはこの…』

『ごめんなさい！！』

初めて振り返り、口を開きかけたチャコの言葉を、クロエは大聲で遮る。突然頭を下げた彼を、部屋にいる者たちはきょとんとして見つめた。

『頭を上げて下さい。貴に謝られる事は、何もありませんよ』

『いいえ、わたくしはつい先日まで、モモ様に酷い事をしてきました。それは決して許される事ではありません。偽聖と蔑まれても、仕方のない事です』

『どうやら心底悔いているようですが…貴が私に謝るのは、モモが國を救う真の聖だからですか？』

どこか他人事のように訊ねるチャコに、顔を上げたクロエが首を振る。

『貴がモモ様の、親友だからです』

『ッハ！』

何故かおかしそうにチャコが息を吐き出すと、無造作に床に置かれた鞄から紙束を取り出し戻ってきた。そしてそれを突き出されたので、おずおずとけ取ったクロエは紙束を読みながら捲っていく。見る間に、その顔に驚愕が浮かんだ。シンが覗き込んだところ、どうやら學園新聞部が発行した、クロエの足跡と聖のその後を追った記事のようだった。イエラオが面白いものを見る目で彼に語りかける。

『義姉上…いや、クロエ嬢。貴が監視されていたのは、もう知っていますね』

『え、ハイ……最初はてっきりお父様の差し金かとも思っていたのですけれど、ダイ様が來られた辺りからもしやと…あの方が追放したわたくしの事など、気にかけるはずもありませんけども』

「當然だ、誰が貴様の事など」

実に可くない返しについ憎まれ口を叩いてしまったが、モモもダークも何の反応も返してくれなかった。唯一、この場にいる弟だけがブッと大袈裟に噴き出していたが、そちらには睨んでおく。

スクリーンの中のイエラオはと言えば、クロエの言葉を否定する事なく頷いていた。

『まあ、あの人の意向だけでどうにかできる問題でもないよ。何せ貴は仮の聖であり、王子妃候補だったんだから。それが聖教會からの圧力で降ろされたともなれば、そう簡単には挽回できない……分かるよね？』

『仰る通りでございます』

『だから今からクロエ嬢には、贖罪の一環として降臨祭で舞臺に立ってもらう。チャコ＝ブラウンとしてね』

『え…「ええ――！？」

クロエとモモの、びが重なった。