《【書籍化&コミカライズ】追放悪役令嬢、只今監視中!【WEB版】》62:會
酒場ではロックたちが魔水晶を見つけてきた祝いに、宴が開かれていた。早くも酔ったのか、ダイが上半でサムと腕相撲を始めてキサラに呆れられたりしていたが、クロエも休息のために奧に引っ込んでいたので、あとはカットされた。
次に映された映像では、シンが一人でイエラオを見送っていた。
『もう行ってしまわれるのですか』
『うん、やる事があるから』
おしそうにシトリンをでながら、上空を見上げている。やる事とは…今こうして、レッドリオたちの所に居るのがそうなんだろう。
『ダイ様は連れて帰らないのですか』
『うーん、本人がもう戻る気なさそうだし……見た所、惚れてるねあれは』
『えっ! ……キサラとですか!?』
最初、何の事だか思い至らなかったシンが、驚きのあまり聲が裏返っている。彼が記録した映像においては、酒場でもいつも喧嘩ばかりだったし、ダイのタイプはモモのような守ってあげたくなるタイプのはずだ。もっとも、ダンジョンでの出來事までは窺い知れないが。
『將軍の子息が、他家のメイド…しかもスラム出なんて、問題しかないのですが』
『あいつはそんな事気にしないよ。それを言っちゃ、モモ嬢だって聖と認められる前は平民だったんだし。ダイはね、縛られるのが大嫌いなんだ。下手に押さえ付けようとすれば、家出するんじゃないかな』
『……そうですか』
し前までは同じを巡る敵だったのが、気心知れた仲間とそう言う関係だと知り複雑なのだろう。聲に疲れを滲ませるシンにクスリと笑うと、イエラオはシトリンの背にった。
『じゃあ、クロエ嬢を頼むよ。そろそろ起きてくる頃合いだから』
そう言って上空に飛び去ったイエラオを見送り、シンはしばらくそこで立ち盡くしていたが、教會の裏手から誰かがぼそぼそ喋っているのに気付き、足音を立てないようそっとから様子を窺った。
そこにいたのは、クロエとロックだった。彼等は新しい結界のおかげで仄かに明るい地面の上にたち、言葉をわしている。シンはブローチを弄り、音聲を拾った。
『もうし橫になっていた方がいい。まだ顔が悪いぞ』
『結界を張っていた分の力は戻ってきているから大丈夫。心配してくれてありがとう…こんな私のために』
弱々しく微笑むクロエに、ロックは照れたように頬を掻く。
『馬車の手配ならいつでもできるが……もう行ってしまうのか』
『ええ、元々そのために王都を出たのだから。準備ができたらすぐに出発しないと』
どうやらクロエは、ロックに街で馬車を調達するよう頼んでいたらしい。この時點から明日か明後日あたりにでも、ナンソニア修道院に向かうのだろう。緑の髪が風でれ、彼は名殘惜しげに眉を下げた。
『今のあんたなら、厳しくともすぐに出て來られる。そしたら貴族に戻って…王子でなくとも地位の高い者との婚約が待ってるんだろうな…』
『そうね』
クロエがを込めずに一言だけ返すと、ロックの瞳が揺れ、そっと視線が外される。
『でももし、どこにも居場所がない時は、またここで看板娘やればいい。おやっさんも將さんも…いつでも待ってるから』
『ロック……』
クロエとロックがじっと見つめ合う。監視しているレッドリオは、何故かこの景にイラッとした。クロエが誰をそうが、どうでもよかったはずだ。もう自分には関係ない。本當にクロエは、ロックの方を好きになったのか? こんな冴えない男が、自分より上だと言うのか。様々なが絡み合って、自分でも理解できない苛立ちが募る。
「妹はこれから……分を捨ててこの冒険者について行くつもりなのでしょうか」
「さあ? だけど今まで彼には重責を背負わせてきたから、お務めが終わればある程度の融通は利かせようと思ってる。まだ若いんだもの、ぐらいさせてあげたいよ」
『俺はまだ若いんだ、決められた結婚の前にもできないのか!』
いつだったか、モモの事でいちゃもんをつけてきたクロエに反論した時の事を思い出す。何故それを弟が知っているのか……と、いつもなら薄気味悪く思うところだが、この弟に関しては今更だったと気付く。自分が目を背けてきた事、気付かないふりをしてきた事を、イエラオは大局から見ていたのだ。
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