《【書籍化&コミカライズ】追放悪役令嬢、只今監視中!【WEB版】》ダーク=セレナイト⑤~真実の姿~

「お茶のおかわりはいかが?」

シィラはのんびりとポットの湯を茶に注いでいる。その全的に橫に長い型は癒し系だと言えなくもない。僕は彼に対して婚約者である事以外、何も思うところはなかったが、とにかくクロエの暴言がひどくて、いつの間にか恥ずかしいとじるようになってしまったのだ。

「すまないシィラ、私の自分勝手な家族のせいで……君が人生を犠牲にしてまで、愚直に約束を守る必要なんてない。私に嫁いだって、何のいい事もないんだ。周りに迷をかけたバカ男のが流れていて、人の子で……何より、あ(・)の(・)クロエの兄なのだ。君だって散々傷付けられただろう」

シィラはいつだって僕に合わせてくれていた。本の趣味も、好きなお茶も、何もかも。手紙のやり取りでも毎回その人柄と気遣いが滲み出ていて、良き友人にならなれると思っていた。だからこそ、傷付けたくはなかった。

「問題ありませんよ」

「……えっ」

「わたくしはこんな見た目ですから、クロエ様ならそう仰るだろうとは、予想しておりました。言われると分かっている事を言われたところで、何とも思いません。傷付いているのは貴方でしょう、ダーク様」

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「……」

微笑みを浮かべながら、砂糖も何もっていないお茶を飲むシィラ。そしてお茶請けに二枚だけ置かれたクッキーのの一枚を齧る。もうこの部屋にって結構経つが、それで足りるのだろうか。私の皿にはクッキーが十枚だと言うのに……違う、現実逃避している場合じゃない。

「そうかもしれない。私はもう、クロエに大切な人を傷付けられるのに疲れたんだ。彼たちを不幸にするぐらいなら、ずっと一人でいる。ただ、モモの事だけは……」

「『彼たち』と言うからには、お母様の他にもいらっしゃるんですよね」

モモの名を出すのを遮り、シィラが別のところに反応する。ツキリと古傷が疼いた。それはクロエとの確執が決定的になった、苦い思い出。

「あ、ああ……もう公爵家にはいないが、十四の頃にマゼンタ伯爵夫人が家庭教師として雇われていた。それを気にらないクロエに、彼は追い出されたんだ」

「ダーク様、夫人が現在どこにいるかご存じですか?」

の人とも言える夫人について語ると、シィラが意味深に問いかける。何なのだ……まさか、何か知っているのか?

「……いや、伯爵家に戻ったんじゃないのか」

「彼、家庭教師をクビになってからすぐに離婚しているんですよ。今はナンソニア修道院にいます」

「は……何だと!?」

思わず、頭にが上って立ち上がる。クロエめ、まさかそこまでするとは! 自分が同じ場所に行くはめになるとはまさに因果応報だが、あまりの仕打ちにはらわたが煮えくり返る。

「何故そんな場所に!? 彼が一何をしたって言うんだ!」

「あの方、セレナイト公爵家以外にも何件か家庭教師をしていたみたいですね。そこで年若い年にらな行為を強要していたとか」

僕が怒鳴ると冷靜に切り返すシィラ。時が止まった……いや、思考が停止した。何を言っているんだ? 彼らな行為? 年と? バカな、あり得ない!

「彼を侮辱するな! 僕は斷じてそんな事はされていない!」

「本當に? 何の接もなかったのですか? キスや抱擁も?」

「……っぐ」

「二年前の貴方の誕生日からでしょうか……いただいた手紙から妙な香りがするようになったので調べたところ、依存の高い薬分が見つかりました。時期が全然違うので本人ではないでしょうけど、元マゼンタ伯爵夫人も年たちに薬りの香水を嗅がせ、言いなりにさせていたようです」

「薬!?」

そんな……あの優しい夫人が、そんな……! 待て、あの香水はどうやって手にれたんだった? モモが誕生日プレゼントだと言って、王都の店で……

「そうですか、どの程度の影響があるかは知りませんが、一度製造元に問い合わせた方がいいでしょうね。叔母上に報告しておきますので、ダーク様は殘りの香水を送っていただけます? もうお使いにならない方がいいですよ」

「……ああ」

心配そうに見つめるシィラの後ろで、鏡の中の僕がけなく項垂れている。しい思い出は音を立てて崩れ去り、後に殘ったのは不快だけだった。思い返してみれば、やたらと意味深な手付きでる事が多かった気がする。孤獨だった自分には救いだったが、好意の種類を見分けられず、かなり危険なところにまで足を踏みれていたのだろう。あの頃のクロエの、おぞましいものを見るような目が、今では理解できてしまった。

「彼は彼なりに、貴方を守ろうとしたのでしょう」

「自分の居場所を奪う、厄介者の私をか」

「それでも、クロエ様のお兄様は貴方一人です」

クロエの、兄……そうだ、縁上は従兄妹なのだが、今となっては兄妹なのだ。不用で癇癪持ちで堪えがない。おまけに最高に口が悪い妹だが、だからと言って――魔として封印してしまってもいいのか。自分たちはただ、歩み寄りが足りなかった。このまま話し合う事もなく、二度と會えなくなっていいのか。

「クロエは本當に……魔、なのか。モモが噓を言っているとは信じたくないが……もう、何が真実なのか」

「今はそれでいいんじゃないでしょうか。貴方が『気付いた』のなら、そこから何かが変わるのかもしれません」

そこまで話すと、シィラは殘り一枚のクッキーを口に放り込んでお茶で流し込む。そして空になったポットを抱え、お湯を沸かしてくると言って立ち上がった。

「ダーク様、わたくしも同じです。婚約者になったのは、もちろん親の意向もありますが、貴方を守り支えたいと、自分の意思で決めたのです。わたくしの力で、わたくしなりに」

「何故あなたのような恵まれた人が、私などを……同からですか」

「いいえ、興味です。貴方を知りたいと思ったから。境遇については報として知っていても、心の痛みは本人にしか分からない。だからどうすれば理解できるのかを考え――ほんのし、傷を負ってみる事にしましたの。痛みとはどのようなものなのか知るために」

意味の分からない事を呟きながらシィラが後ろを向いた時、彼の正面からの姿が一瞬だけ鏡に映った。

「えっ!?」

今のは一……シィラは王妃の姪にあたる。レッドリオ殿下とイエラオ殿下とは従兄妹同士なので、顔立ちが似ているとは思っていたが……あの雪のように白く、花のようにたおやかな姫は、誰なんだ?

僕の婚約者は、恥と言われるような外見をバカにされる、かわいそうな娘……だと思っていた。だが彼はさっき、何と言った? 自ら傷を負った? ……僕の痛みを理解するために?

ここは魔法特化區域ホワイティ辺境伯領。シィラはその領主の娘。だからアイテムがなくても、自に魔法をかけるなど朝飯前の事なのだろう。そう、例えば――認識阻害魔法。

「何だ、僕もバカじゃないか……何も、何も見えていなかった」

自嘲での震えが止まらない。とにかく事態が落ち著いたら、話が必要だと思った。クロエとも、『彼』とも。

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