宿の外に出て、木の枝で地面にガリガリと何かを描き出すモモ。最初は〇、そして中に☆――五芒星の魔法陣であった。円と接する五つの點の上に、それぞれ羽を置いていく。

「真の聖の名において、我ここに道を示す。の如く照らせ、海の如く満たせ、炎の如く燃やせ、闇の如く沈め、毒の如く侵せ……五の魂をもって、よみがえれ！」

魔法陣の真ん中で水晶玉を掲げ、モモが呪文を唱える……そう、神聖魔法ではない。あれは召喚だ。『聖』とは職業で言うならば神にあたり、系統の違う魔法も同時に扱えるのは極めて稀だ。そのモモが何故……？

「どうやら、あの羽にがあるみたいだね。伝説でも聖は、通常魔法を使ったと思しき描寫がある。それが、『聖鳥召喚』だよ。水晶玉で魔力を増幅しているとは言え、腐っても聖ではあるんだろうね」

イエラオの推察に、レッドリオが目を見張る。聖伝説に登場する聖鳥は、最初から聖に付き従っていた。いつ現れたかなど、細かくは伝わっていない。記述があるとすれば、聖教會の書だ。

「何故お前がそこまで知っているんだ！？　まさか神たちに古書を全て翻訳させたのか？」

「それでも可能だろうけど、時間も手間もかかり過ぎるよ。カナリアに教えてもらったんだ」

「――っ！？　王族でも知っている者が限られている國家機を、他國の姫からだと！？」

レッドリオが弟に摑みかかると同時に、鋭い鳥の一聲が響き渡った。強烈な耳鳴りに全員が耳を塞ぐ中、魔法陣の上に立つモモだけは不敵な笑みを浮かべている。

「さあ、おいでなさい。伝説の聖鳥よ」

その時、地面を突き破るように巨大な翼が生えた。続いて五の尾羽、最後にくちばしを天に向け、聖鳥は咆哮を上げる。それはまるで煮え滾った溶巖のように、五が混ざり合った、些かグロテスクなカラーリングの巨鳥であった。

「こ、これが……伝説の」

「虹と聞いていたが……イメージとは違うような」

その姿に慄く彼らを余所に、モモは聖鳥の背をでる。見た目に反し、熱くはないようだ。

「黃とか、明るいが加われば、もっと虹っぽくなったんですが……イエラオ殿下は私が信用できないみたいだったので」

「まあ友の証と言うか、君に心を捧げてもいいって時にしか出現しないらしいからね、あの羽は。殘念ながら、僕の心はカナリアのものだから」

「チッ、これだから転生者は厄介なのよ。シナリオを滅茶苦茶にして……でも所詮、隣國の部外者よね。見てなさい、この世界のヒロインは誰か、今すぐ分からせてあげる」

意味の分からない事を吐き捨てると、モモは聖鳥の背にふわりと飛び乗る。聖鳥は黒板を引っ掻く音のような鳴き聲を上げ、翼を羽ばたかせた。

「ま、待てモモ！　俺も行く！」

「お待ち下さい、殿下！！」

レッドリオが今にも飛ぼうとする聖鳥の尾羽にしがみ付き、ダークも後に続こうとするが、イエラオが直前でそれを止める。二人を乗せた聖鳥は、真夜中の空へ吸い込まれるように飛び去ってしまった。