《【書籍化&コミカライズ】追放悪役令嬢、只今監視中!【WEB版】》282:固定観念
再び気絶してしまったモモだが、夕食時にはあっさり復活した。空腹には耐え切れなかったようで、料理の匂いが漂ってきた瞬間、がばっと跳ね起きたかと思えば食堂へ一直線。そして――
「はぐっ、はぐっ。んめーっ、おかわり!」
「病み上がりでがっつくな、モモ! ほら、ここついてる……」
瞬く間に空になった皿を積み上げていくモモの隣で甲斐甲斐しく口を拭ってあげているロックに、何だか見せつけられている気分になるが、実際はあれが通常運転なのだろう。
「お嬢様、王都で殿下とモモ嬢をご覧になった際と同じ表になっております」
「うるさいわね……」
シンに小聲で指摘され、文句を言いつつも頬を押さえて取り繕う。嫉妬しないと決めたのに、実際に仲がいいところを見せられてしまうとこれだ。我ながら先が思いやられる。
同じく席に著いた面々は、マナーもへったくれもないモモに絶句していた。學園でも平民らしく野な振る舞いは目立っていたものの、ギリギリ子としての面目を保てていた。食に関しては長らく寢たきりだった影響があるにせよ……と思っていたら、嫌いな食べがあったらしく、無遠慮にぽいとロックの皿へ放り込んだ。
「あっ、お前……いい加減食えるようになれよ」
「だってそれ苦(にげ)ぇんだもんよ。昔っからダメなの、知ってんだろ?」
「えっ!?」
二人のやり取りに、レッドリオ殿下が小さく聲を上げる。彼の驚く理由を、プレイヤーだった私は知っている。お忍びで城下の食堂へ食べに行った時、モモに好き嫌いはなかったのだ。マナーと同じく、聖教會に叩き込まれていたおかげだろうか。
(私もあれ苦手だけど、モモの故郷でもポピュラーな食材だから食べられないとは思わなかったわ)
と言うか、何でも食べられるという固定観念をけ付けられていた。今、目の前にいるのは『真の聖』として選ばれる前の、普通のだ。ここは一旦、ゲームキャラとしての設定は忘れた方がいいのかもしれない。
一方、しばらく押し問答していたロックは、最終的にモモに食べさせるのを諦めた模様。モモから寄越された菜っ葉をぱくりと口にした。
「はあ……しょうがねぇな、全く」
「へへへ、悪(わり)ぃな。オラ、菜っ葉はでぇ嫌(きれ)ぇだからよ」
うーむ、ロックに構われている景は妬けるんだけど、口調のせいで毒気が抜かれるわ。前世日本人の悲しき宿命(さが)よね……
なんて思いつつ私もぱくりと食べれば、今度は殿下がこちらに反応した。
「クロエ!? その……お前は平気なのか?」
「何がです?」
殿下の前で料理を殘した事はなかったはず……あ、でもこっそり袋を用意させて捨てていた事はバレていたんだっけ。今となっては黒歴史だけど、改めて指摘されると気まずいわね。
私はコホンと咳払いした。
「私も変わったんです。その事は殿下もよくご存じなのでは?」
「そ……そうだったな」
監視されていた事を指摘すると、殿下もそれ以上は突っ込んでこなかった。んな意味で微妙な空気が流れる中、モモはちっとも気にした様子もなくおかわりを要求するのだった。
※ツギクルブックス様より書籍版・電子版、モンスターコミックスf様より漫畫版が発売。
※「がうがうモンスター」「マンガがうがう」にてコミカライズが連載中。
※書籍報は活報告にて隨時更新していきます。
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