《【書籍化&コミカライズ】追放悪役令嬢、只今監視中!【WEB版】》304:夢幻⑦

『國が決めた婚約者とは言え、友関係にまで口を出されては息が詰まる』

違う……

『僕だって、あんな妹など要らなかった』

違う……

『彼の一言が、どうしても許せないんだ』

違う……

糞悪いだぜ! まあ、気にすんなよ』

違う……

『どれだけ権力の鎖で縛り付けようと、心までは渡せません』

これは、私が聞いたんじゃない。

『心配する事など何もない。あいつがどれだけ恨んで報復に出ようと、俺たちが守ってやるから』

ゲームの臺詞……プレイヤーとしてのわ(・)た(・)し(・)が聞いているんだ。

『見損なったぞ、クロエ!』

『そこまで墮ちたか、妹よ』

『やはり貴は骨の髄まで醜いようですね』

『へん! 殿下がお前を捨てたのは正解だったみたいだな!』

『お嬢様……』

違う、現実じゃない。実際には起こらなかった!

『目を覚ましてください! 復讐は何も生み出しません』

これは、夢だ。

目を覚ますのよ。

『どうしてこんな事になってしまったのか……私は恥ずかしい。あのような愚かな娘に育っていた事に気付きもせず』

起きて、クロエ!

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「起きろぉ――っ!!」

バチーン!!

「いったぁ!!」

頬に衝撃をけて飛び起きると、モモが私の上に馬乗りになっていた。叩かれたのだと気付いたのは、遅れて頬がヒリヒリしてきたからだ。

「大丈夫(でぇじょうぶ)か? なんかうなされてっから、一発れてやったんだが」

「……ええ、ありがと。目が覚めたから、とりあえず下りてくれる?」

やっぱり時々、このモモが本當にヒロインなのか疑わしくなるわね……つべこべ言わずに言語で訴えてくるんだもの。モモをどかすと、私は顔を洗うためにタオルを手に一階へ下りた。

浴室前で顔を合わせたロックは、片頬を腫らした私を見てぎょっとする。

「あら、おはようロック」

「お前……どうしたんだ、それ」

「ちょっとうなされてて、モモに起こしてもらったの」

どんな手段でかは一目瞭然で、ロックは頭を抱える。そのまま浴室にろうとする私の頬に、彼の手がれてドキンとした。

「あいつがごめんな、後でちゃんと冷やしとけよ」

「分かってる……ん、ロックが謝る事じゃないでしょ?」

くすぐったさにを捩れば、あっさり解放される。ホッとしたような殘念なような……正直言うと、モモにはちょっと謝したいくらい。

「それにしても、まだ夜が明けたばかりなのに、貴方も隨分早いのね?」

「ああ、連絡が來たから急遽コランダム王國に戻る事になった」

そう告げられて、息を飲む。私が起きてこなければ、そのまま行ってしまうつもりだったらしい。

モモにも、誰にも告げずに?

そんなのってない……ちゃんとさよならくらい言わせてよバカ。

「クロエ?」

「……」

きゅっとシャツの裾を摑み、口を開きかけるが言葉が出てこない。追放前はあんなにも好き勝手言えていたのに……あの頃の自分に戻りたいなんて、思わないけど。

「モモには言わなくていいの?」

「書き置きはしたし、どうせ報告が終われば一旦こっちに戻ってくるからな」

「そう……じゃあ、私とはここでお別れね」

ずっと見張ってるって言ったくせに。

見當違いな苛立ちを隠して、笑顔を見せる。

本當は晝までにきちんと支度して、改めて挨拶したかった。一度はそうしてるんだけど、まさか戻ってくるとは思わなかったから。今は寢起きの著姿だし、顔を洗う前だからすっぴんで寢癖もついてる。しかも頬にはモモの手形……最悪の別れだ。

ロックの指が、スッと腫れていない方の目元を拭う。

(ん……?)

「泣くなよ、これっきりじゃないさ」

「分かってる、けど……」

「じゃあ、またなクロエ」

寢癖がますます酷くなるくらい頭をクシャッとでられ、ロックは宿を出て行った。結局ろくに言葉もかけられないまま、私は鼻を啜りながら彼を見送ったのだった。

※ツギクルブックス様より書籍版・電子版、モンスターコミックスf様より漫畫版が発売。

※「がうがうモンスター」「マンガがうがう」にてコミカライズが連載中。

※書籍報は活報告にて隨時更新していきます。

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