《【書籍化】探索魔法は最強です~追放されたおっさん冒険者は探査と知の魔法でり上がる~》92・第三章エピローグ(1)
「うおおおぉぉ!」
ロノムのハンドアックスによる一閃と共に、寶珠は綺麗に二つへと分かれた。
そして真っ二つに割れた寶珠は上空に向かい閃を放つと、そのままロノム達の目の前から消滅する。
「やったのか……!?」
エクスエルがフラグともとれる言葉を呟きながら周囲を見回しと、魔達はきを停止しの先端から砂となり崩れていく姿が目に映った。
「ロッさん、やりましたか!」
「ロノム様、お見事です!」
戦闘が終わり歓喜のがクリストファー伯の兵士と山岳民族の戦士の間で広がっていく中、メルティラ、アイリス、ルシア、ネシュレムの四人がロノムとエクスエルに駆け寄ってくる。
「なんとか……なったみたいだな……」
石と巖だらけの地面に座り込むロノムは息を切らしながらパーティメンバー達に手を振り、首を上げて雲一つない蒼天を仰ぎ見た。
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あれから五日ほど経った日の午後、ロノム達六人は小高い丘の上に建つクリストファー伯の館に招かれていた。
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ロノム達一行がいるのは玄関ホールの脇にある控えの応接室であるが、そのすぐ傍には作戦室が併設されておりゼフィトが山岳民族の族長及び戦頭(いくさがしら)となんらかの渉している。
「重ねて聞くが、ワシ等の領地を侵害することはなく、文化をお主達の國に合わせなければならぬということはないのだな?」
「ええ、我々に侵略の意図はありません。先程も述べたとおり、平和的な友関係と平穏な易ができれば我等はそれでよいのです」
「お主達が占拠している山岳の一部はワシ等の聖地であるが、それについてはどうする」
「それらの事項については互いに納得がいく妥協點を見つけだす必要があります。後顧の憂い無きようしっかりと記録に殘しつつ決定していきましょう」
ロノム達一行がれ出てくる隣の部屋の會話を何となく聞きながら足元に纏わりついてくる貓ちゃん達と戯れていると、クリストファー伯が応接室へとってきた。
「やっほーい、お待たせしたよー」
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庶民の街著かと思われるような服裝で現れたクリストファー伯はロノム達に手を挙げて挨拶すると、対面のソファーに腰掛ける。
「我等一同をお招き頂きありがとうございます。……ところで、本日はどのような件でお呼び頂いたのでしょうか。すみません、不躾ながら、冒険者ギルドからはなにも聞かされていなかったもので」
ロノム達一行はクリストファー伯及びセリンヴェイル冒険者ギルドから業務完了の証明書をけ取り、これからアンサスランへと帰ろうかというところで呼び立てされていた。
「ふっふっふふー、そりゃもうお禮をしておかなきゃって思ってさー。君達のおで山岳民族の民とも和平渉が結ばれそうだからねぇ~」
「禮もいいが、気になっているのはマクスウェルのことだ。あいつは今、どうなっている?」
クリストファーの言葉に対して、エクスエルが椅子に座りつつも數匹の子貓によじ登られながら聞く。
エクスエルは先程から何度かよじ登ってくる子貓を床に降ろしているのだが、どうしてもまた登ってきてしまうので既に諦めている。
「此方(こなた)達が聞きたいことは大終わったよーぃ。ただまあ、ダンジョンのこととかダンジョンコア? のことについても聞いてみたけど、全然要領を得ないじだねぇ。山岳民族の族長からは捕虜として尋問を続けることの了承は得てるから、まあ気長にってじかねこねこ」
「可能でしたらアンサスランの冒険者ギルド職員を派遣して話を聞きたいと思っていますが、できますか?」
「こっちまで來てくれるならいいよー。ただ、連れてくって言われたらちょっと考えちゃう」
貓にズボンの裾をてしてしされているロノムの問いに、クリストファー伯が返した。
「あ、そーだ。子組のみんなには夜會用のドレスを貸すね。いやー、別にいつも通りの格好でもいいっちゃいいんだけどさー、一応形式に則ってやっておかないとゼフィトとかパパに怒られちゃうからさ! 召使いの用意もできてるみたいだから、ちょっと行ってきてねー」
クリストファー伯がそう言うと、アイリス達四人は屋敷のの召使い數名に促され裝室へと案されていく。
「君達二人にもちゃんと正裝があるけど、四人が終わるまでちょっと待っててね」
「時間がかかるなら席を外す。外の空気が吸いたくなった」
クリストファー伯の言葉にエクスエルが席を立ち、子貓を頭と肩に乗せながらふらりと外に出て行ってしまった。
「じゃ、此方(こなた)もまだまだ仕事があるからちょっと行ってくるよー。その辺にあるもの適當に食べてていいからねー」
クリストファー伯が一人殘ったロノムに対してテーブルの上に盛り合わせてあるフルーツ類や貓のおもちゃにされているスナックを指し示し応接室から出て行こうとすると、酒の匂いを纏わりつかせた無髭のおっさんが部屋にってきた。
「あ、パパ。どしたん?」
「冒険者とやらを見にきた。んで、どうだ? ゼフィトの奴ぁはうまくやってんのか?」
クリストファー伯にパパと呼ばれた無髭のおっさんがロノムのことを珍獣を前にしたかのような目で見ながら、伯爵位を譲った娘に対して聞く。
「うん、ちゃんとやってるよー。本人は『用兵、政治、外、統治、人掌握以外は先代の足元にも及びません』なんて謙遜してるけどねー」
「それだいたい全部じゃねえか、完全に俺のこと下に見てんじゃねえか。あの野郎、俺に対して辛辣すぎない? 優秀な奴じゃなかったら放逐してるとこだよその態度」
「そうかなー? じゃ、またあとでねー」
娘が出て行くのを見送ると、おっさんはロノムの対面にドカっと座りスナックの袋を開けて食べ始めた。
「あんたが、アンサスランの冒険者か?」
「はい、アンサスラン冒険者ギルドに籍を置き今回の件の責任者であるロノムと申します。先代クリストファー伯爵とお見けいたします。お會いできて栄です」
ロノムよりも五歳から十歳は年上だろうか。
服裝は貴族然としているが、無髭と酒臭さにより紹介がなければ先代の伯爵とは到底信じられないような恰好であった。
「堅苦しい挨拶は抜きだ、俺はもう隠居したの自由人だよ。今回の件では世話になったな」
先代伯爵は機の上に並べられている豆菓子をボリボリと食べながら、ロノムに言う。
「ありがとうございます。それで、失禮かとは存じますが、クリストファー伯の名聲は當代よりも前からアンサスランにも響いておりました。まだまだ隠居するような年齢でもないようにお見けいたしますが……」
その言葉に先代伯爵はじろりとロノムを見る。
「……いいんだよ。優秀な後進がいるなら、とっとと引退して道を譲るってのが筋ってもんだ。領の統治や防衛は、はっきり言って俺なんかよりもあいつ等の方が余程優秀だよ」
そしてそんなことを言いながら、塩気の強い乾へと手をばした。
「もっとも、完全に手放したわけじゃねえけどさ。あいつ等にはまだできねぇことを、俺がバックアップしてやればいい。例えば、王都との渉事とかな」
「できないこと……?」
「ああ。経験と目がモノをいう都會との渉事を任すには足元がおぼついてねぇ。人とカネのきの裏側を見抜く必要がある王都のバケモン共との渉の場に立たせるんは、まだまだだな。あいつらもそれが分かってるから、王都との渉の際には飲んだくれオヤジの俺を表に出すんだ」
先代伯爵は蒸留酒のったガラスので遊ぼうとする貓をそっと避けながら、ロノムに続ける。
「あんた今、迷ってるな?」
「え、迷って……?」
「顔に出てる」
先代伯爵の言葉に、ロノムは自の顔をでた。
その行に対して溜息をつきながら、先代伯爵は続ける。
「あの時の俺と同じ顔してやがるんだよ。自分自はまだ働けるつもりでいるが、若かりしあの日と比べてどうしてもにガタはきてる。そんな折に優秀な後継ぎや後輩が育ってきたってもんだから、どうしたらいいか分からねえってな顔だ」
「……」
ロノムも自分のが衰え始めてきていることは若干ながら意識していたが、まだまだ充分もくため今は引退など考えてなどいなかった。
否。
考えていなかったのではなく、考えたくなかっただけなのかもしれない。
先代伯爵の言葉を聞いて、そう思った。
「そんな悩めるあんたに俺からアドバイスを送るとしたら、『ま、別にどっちだっていいんじゃねーの?』って言葉だな。俺はあの時隠居して娘に譲ったけどよぉ、今でもその判斷が正しかったのかどうかなんて分かんねぇ。今がうまく回ってるから正しかったとも言えるし、逆に俺が伯爵の座に殘り続けたことでより輝かしいクリストファーの歴史が刻まれてたかも知れねーじゃん? 例えばこれが娘のやり方がボロボロでクリストファーを潰してたとしても、同じこと言うと思うぜ俺は。『俺のやり方だったらあの後三日も持たなかったかもしれねぇな』なんてな」
ガラスので蒸留酒をあおりながら、先代伯爵は更に続ける。
「逆にさ、迷い続けてたってしょうがねぇんだ。そんな顔しながらやってると、下の連中も橫にいる連中も不安になるぞ。続けるならいつまで続ける、やめるならここまでやってやめるで、しっかり自分の中で決めとけ。あいつらの責任者なんだろ? あんたは」
その言葉にロノムはハッとしたような気持ちとなった。
「ありがとうございます。先代クリストファー伯のお言葉、に染みて心に響いた次第でございます。進いたします」
「堅苦しい挨拶は抜きだっつったろ? ほら、あんたも飲めよ。うちの領で作ってる酒だが悪かねぇ」
そう言うと先代伯爵はロノムの前にガラスのを置き自ら酌をしながら、蒸留酒を勧めた。
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