《【書籍化コミカライズ】死に戻り令嬢の仮初め結婚~二度目の人生は生真面目將軍と星獣もふもふ~》2-1 いざ、結婚へ!
セレストはフィルと明日の行について詳しく相談したあと、こっそり侯爵邸へ戻った。
誕生日パーティーがはじまって以降は、誰も彼を気にかけない。一度目の世界では、この日屋敷の調理場に食事をもらいに行ったら、おもてなしの邪魔をするなと言われてしまった。だから今回は商業地區でパンや果を買って私室で食べた。
明日に備え、國王や貴族たちが褒賞の容を覆せないようにするための返答を考えながら、早めの就寢をした。
翌日、セレストの予想どおり、朝から伯母とメイドたちが押しかけてきて、いつもなら絶対に與えられない裝飾たっぷりのワンピースを著せられた。
「伯母様、突然どうなさったのですか?」
髪にリボンが飾られたあとで、セレストは心底不機嫌そうな伯母にたずねてみた。
以前のセレストが同じように質問したからだ。
「本日は、わたくしのことを〝お母様〟とお呼びなさい。外で間違えたら許しませんよ」
養となった日に、世間を気にして引き取るしかなかったのだから間違っても母とは呼ぶなと言っていた人の言葉とは思えなかった。
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「……かしこまりました、お母様」
セレストは素直に頷く。今はまだ大人たちに従順でいるべきだった。
支度が終わると侯爵夫妻と一緒に馬車に乗り、城へ向かう。
「おまえはフィル・ヘーゼルダインという男を知っているか?」
突然、伯父が問いかけてきた。
目的すら明かされないままだというのに、フィルについては語りたいようだった。
伯父のこの発言も一度目の世界と同じだ。
「はい、星獣レグルスのご主人様です」
星獣使いの名は子供でも知っている。
神話の時代にはもっと多くの星獣がいたというが、序列が定められた百年前の時點で存在していたのは七だった。
そのうち序列一位のシリウスは先王の時代に行方不明になっている。
また、主人を選ばず城の星の間で眠っている星獣もいる。
セレストが十歳の今の時點で、主人を定めた星獣は三だ。
序列三位アルタイルの主人は、王太子ジョザイア。
序列六位ミモザの主人は、シュリンガム公爵子息ドウェイン。
序列七位レグルスの主人がフィルである。
フィルは下位の星獣使いということになるのだが、それでも現時點では三人しかいない特別な存在である。
「さすがに知っておったか。……いいか、おまえの父親はあの者に殺されたようなものだ。それを忘れるなよ」
心底憎たらしいと言わんばかりの顔だった。
「……それは、どういうことでしょうか? ヘーゼルダイン様は、伯爵領で起こった魔獣被害を食い止めた立役者だと習いました」
「ふん! そんなはずあるか。あの男はわざと領主が殺されるまで手抜きをしたのだ。貴族であるおまえの父親の星神力を使っても倒せなかった魔獣を倒した――そういう実績のためにな」
「……そんな!」
セレストは父の死の真相を知りショックをけたふりをした。
「平民出の軍人だからな。……貴族が嫌いで、貴族に対して嫌がらせばかりしているという。本當に、おまえの父も優秀なの使い手だったんだ。共闘できていれば、誰も死なずに済んだものを」
弟が亡くなった原因が許せない。そんな伯父の様子は、すべて演技だった。
當時のエインズワース伯爵は、魔獣被害の初期に國に支援要請を行っていた。領地にいる兵力で対応可能だとして無視したのは國王であり、軍の上層部のほうだ。フィルは命令をけてすぐにエインズワース伯爵領に向かい最善を盡くした。
フィルのせいで父が死んだ。
フィルは貴族を嫌い、その者を排除しようとする。
伯父がそんな噓をつくのは、セレストが世間知らずの子供で、たやすく大人の話を信じるはずだと思っているからだろう。
一度目の世界では、この話を聞かされた直後にフィルとの縁談が持ち上がった。
それも、その場でける気があるか辭退するかを促す流れになる。セレストは歳の離れた軍人との縁談に怯え、伯父の話を信じ、フィルになにかひどい暴力を振るわれるかもしれないと妄想して震え上がった。
かなり昔の記憶でも、フィルが困り顔で褒賞の辭退を告げた場面だけはよく覚えている。
今回は伯父や國王の思には乗らない。
城にたどり著き、伯父と伯母に連れられて広く長い廊下を歩く。
この國――ノディスィア王國の政治の中樞であり、國王の住まいでもある特別な場所だ。
彫刻の施された柱。顔が映り込みそうなほどに研かれた廊下。天井には星獣が出てくる神話をモチーフにした絵畫がある。
しばらく歩くと、正面に一際豪華な扉が見えた。
謁見の間だ。城の警備を擔う近衛兵がゆっくりとその扉を開ける。中には大勢の人々が集まっていた。
中央には軍人が禮裝で整列している。今日は、年に一度行われる軍の褒賞授與式なのだ。
戦が起こったり、大規模な魔獣討伐が行われたときには、その都度昇進と褒賞が與えられるのだが、それ以外だとこの日にまとめられる。
文や貴族は、壁寄りの席から見守ることになる。
大人たちばかりが集まる場所に一人連れてこられたセレストに視線が集まる。
ヒソヒソと隣に耳打ちをする者がいたが、なにを話しているのかまでは聞こえてこない。セレストは侯爵夫妻と一緒に、玉座のすぐ近くまで進み、國王の到著を待った。
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