《【書籍化コミカライズ】死に戻り令嬢の仮初め結婚~二度目の人生は生真面目將軍と星獣もふもふ~》3-2

「固定と浮遊……この二つでいいはず」

固定はの相対位置を一定に保つ。浮遊はの重さを取り払うだ。

書庫は二階にあるから、階段の幅や天井までの高さを確認し限界まで本を積み上げてからを使う。

そうすれば、手を添える程度の力で三十冊以上の本を一気に運ぶことができる。

の鍛錬にちょうどいいし、屋敷の整理整頓もできる。効率のよい星神力の使い方だった。

けれどさすがにすべての荷の整理は一日で終わらない。

三時間ほどで空腹と疲れをじたセレストは、晝食をとるために外へ出かけることにした。ついでに夕食の食材も買わなければならない。

けれど出かける直前になり、セレストは重要なことに気がついてしまった。

「……どうしましょう、スー」

「ワン?」

「私、料理ってしたことがないの」

夕食はなにを食べようかと考えているうちに、そもそも作ったことがないという本的な問題に行き著いた。

「クゥゥン」

賢い犬はきょとんと首を傾げる。セレストと一緒に困ってくれているのだ。

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「星獣使いとして軍の訓練に參加したときも、將軍――フィル様が『正規の軍人じゃないから、食事當番はしなくていい』っておっしゃって……。今にして思えば、こんな私でも侯爵令嬢だったから特別扱いをけてきたのね」

「ワン!」

スーが急に激しく尾を振り、駆けだした。置かれたままになっていた木箱の前で立ち止まり、ここになにかがあるのだと示しているようにくるくると回った。

「……本?」

その箱には、片づけ途中だった本がっていた。

「そうだ。……料理の本を買ってそのとおりに作ればいいのね! すごい、スーって本當に賢いのね。ありがとう」

スーを抱き上げて頬ずりをすると、彼もお返しにペロペロとセレストの顔を舐めた。

セレストはさっそく出かける支度をして七番街へ向かった。スーと一緒だから辻馬車には乗らず、散歩をしながらの外出だ。

今日は寒いから薄手の外套を羽織り、手には大きめのバスケットを持つ。

「履き慣れたブーツに、必要なだけの小銭。……用心棒。よし、ちゃんとフィル様の言いつけを守っているわ」

まずはり口でスーを待たせたまま古書店の扉を開く。それから店主に一番簡単な料理の本を教えてほしいと相談してみた。店主が勧めてくれたのは『八歳からはじめる簡単料理』という一冊だった。

「八歳……」

料理未経験者で見た目が十歳だから、店主はなにも間違っていない。けれど十八歳のプライドは完全にへし折られた。

パラパラと本の中を確認すると、包丁の持ち方から野菜の切り方まで丁寧に図りで解説してあった。これならセレストでもなんとかなりそうだった。

セレストは本を買ってから、近くの公園のベンチに腰を下ろし、夕食のメニューを考える。

「この『野菜たっぷりスープ』と『ローストチキン』にしましょう」

ページの最初のほうに載っているメニューが比較的簡単なようだ。セレストはその中からタマネギをれなくてもよさそうなものを選んだ。

それから賑やかな市場へ行って、まずは屋臺で簡単に晝食を済ませてから食材を買って帰った。

「よーし、頑張るぞ!」

本によると調理時間は約一時間。素人であることを鑑みてもフィルの帰宅までは約二時間。余裕で間に合うはずだった。

ところが――。

「野菜の皮って……どうしてこんなに剝きにくいの!」

魔獣討伐遠征に參加したときなど、食事擔當の兵士が調理をしているところを見たことがあった。ニンジンとジャガイモの皮を剝く方法はわかっているのに、包丁がいてくれない。

包丁をかそうとすると、ニンジンを持っているほうの手を切ってしまいそうで怖いのだ。

「仕方がないからを使いましょう」

「ワン!」

床に伏せて見守ってくれているスーの応援もあり、セレストは一度深呼吸をしてから神を集中させた。

うまくできない理由は、ニンジンがグラグラといてしまうからだ。だからまな板の上にでニンジンを固定した。あとは両手で包丁を持って、皮をそぎ落とせば完璧だった。

「やっぱり……。手で持つより効率がいいわ。慣れるまではどうしても皮が厚くなってしまうけれど」

を使えば案外用なのだ。セレストは満足して作業を続けた。ニンジン、ジャガイモ、セロリ、それぞれ特徴があって、同じでは対応できない。食材ごとにオリジナルの式を組み込む必要があった。

野菜が切り終わったら、それらを炒めてから水をれ、煮込む。コンロは薪で燃やすタイプのものだ。星神力を使える者はを使って著火できるので、比較的簡単に扱える。

スープの準備が順調に進み、次はローストチキンに取りかかる。

「チキン……。ただ包丁を下ろすだけでは切れないのね」

ぶよぶよの皮付きチキンは難関だった。本に従うと、一口サイズに切ってから下味をつけてオーブンで焼けという指示になっていた。

「包丁に振を加えれば……いいかんじに……」

セレストは包丁に対し、前後運を追加した。ウィィィン、とよくわからない音が鳴ってしまうのが料理っぽくなくて怖かったが、チキンは綺麗に二つに分斷できた。

そうやってとにかくを駆使して、夕食の支度を進めたのだが――。

「ただいま、セレスト、スー。二人ともいい子にしてたか?」

(いつのまに! どうしよう、まだチキンが未完なのに)

料理が完する前にフィルが帰ってきてしまった。足音はまっすぐキッチンへ近づいてくる。

試行錯誤の繰り返しで、時間がかかってしまったらしい。周囲は薄暗く、ランプを燈したほうがいい時間になっていた。

「……あ、あの……。お帰りなさいませ」

「どうしたんだ?」

「フィル様はどうかリビングでくつろいでいてください」

「夕食は?」

「できます! すぐに!」

あからさまな揺のせいで、フィルはまだ料理が完していないのだと察したようだ。

軍服の上著をいでから、手を洗い、調理臺の前に立つ。

「……セレストは大人っぽいところがあるのに、こういうときは年相応だな。手伝おう」

「お疲れのところ、申し訳ありません」

「へぇ……結構ちゃんとやっているじゃないか。いい香りだ」

先に完していたスープの鍋を覗き込みながら、フィルが想をこぼす。

「でもまだチキンが焼けていないんです。この本にはハーブをすり込んでから三十分放置すると味が馴染むとあるのですが間に合わなくて」

時間の見積もりが甘かったことをセレストは反省していた。

「大丈夫だ。塩味が足りなければあとから足せばいいんだから。時間なんて正確じゃなくても平気だ」

フィルは鉄製のトレイにチキンを並べ、付け合わせの野菜と一緒にコンロの下にあるオーブンへれた。さすがに一人暮らしが長いので、手際がいい。

「そうなのですか……? 勉強になります」

「ところでスープの野菜。なんでこんなに切り方が正確なんだ? まさか定規を當てて切ったりしていないだろうな?」

「いいえ。でニンジンを固定して、一振りごとに決まった距離を移するという式を包丁に組み込んで……」

「……君は正気(アホ)なのか?」

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