《【書籍化&コミカライズ】小系令嬢は氷の王子に溺される》1

異世界モノではありますが、転生モノではありません。

キラキラと必要以上に眩しく反するシャンデリアが、等間隔に高い天井から吊り下げられている。

床にはシミひとつない、真っ赤な絨毯。

見事なまでに贅を盡くしたこの空間の中央に、14歳から18歳までの伯爵家以上の未婚の貴族令嬢達がズラリと並んでいる。

皆一様に気合のったドレスに裝飾品をに付け、髪もメイクも盛り盛りに盛っている。

そしてその前をとてもしい容姿をした若者がゆっくりと歩いている。

190㎝はあろうかと思われる長にバランス良く鍛え上げられている軀。

長い金髪を後ろで1つに結き、瞳はダイヤモンドの1,000倍貴重だと言われるタンザナイトの様な輝きを放ち、滅多に笑うことが無いと言われる彼のは常に引き結ばれている。

令嬢方は、自分の前を通り過ぎるこの見目麗しい若者の意識をしでも自分に向けようと、ニコリと笑いかけてはみるものの。

この若者はチラリともそちらへ目線を向ける事もせず、厳しい視線を前に向けたまま、ゆっくりと進んで行く。

そして、ある令嬢の前で止まると、抑揚の無い聲で一言。

「コレ(・・)でいい」

そう言うと、足早に會場を後にするのだった。

◇◇◇

「どうしても行かなければなりませんの?」

伯爵令嬢であるリリアーナ・ヴィリアーズ(16)は困った様に眉をハの字に下げ、目の前のヴィリアーズ家執務室で書類に忙しそうに向かう、父親でありヴィリアーズ家當主であるオリバー・ヴィリアーズ(39)に問うた。

若い頃は大層モテたであろう悍な顔つきに今は若干の疲れが見えるが、歳を重ねる事により渋みが増し、マダム達の間では大変人気が高い様である。

しかし彼は有名な妻家であり、他のどのにも靡(なび)く事はない。

リリアーナは、貴族に生まれたからにはいずれ何処かの家へと嫁がねばならない事は理解しているが、出來る事ならば両親の様に夫婦仲の良い結婚をしたいと思ってはいる。

ダメでもせめて相手が尊敬出來る人であればと願ってはいるが、実際目の前のこの父から嫁ぐ様に言われたら、例え尊敬出來ない相手であっても嫁ぐしかないのだ。

貴族の令嬢と言うものは、自分の意思で結婚を決める等という事は、位の高い貴族になればなる程難しくなるのである。

まあ親馬鹿でもあるオリバーが妻に似た大切な娘を、尊敬も出來ぬ様な輩の嫁に出す訳はないのだが。

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