《【書籍化&コミカライズ】小系令嬢は氷の王子に溺される》1

馬車から降りて來た二人の姿を見て、ヴィリアーズ家當主であるオリバーは大変困した。

何故この二人はこんなにも憔悴しきった様な出で立ちをしているのか、と。

訳がわからず、とりあえず話を聞く為に応接室へと場所を移すことにした。

著替える事もせず、ヨロヨロと応接室のソファーへと沈み込む二人。

オリバーと妻であるジアンナは顔を見合わせ首を傾げ、どう聲を掛けようかと思案していると、エイデンが待ちきれないとばかりに矢継ぎ早に質問した。

「二人共疲れ切った顔してどうしたんだよ?今日は王子様との見合いだろ?誰か相手決まったの?それにイアン兄様、まさか姉様に変な蟲つけたりしてないよねぇ?」

『王子様』と『変な蟲』の部分で、二人があきらかに過剰に反応したのを目にし、エイデンはここまで下げられるのかと思う程に聲を低くしてイアンに問いかける。

「何?本當に変な蟲でもつけたりしたの?」

ゆらりと立ち上がり、イアンを眼下に圧を掛けている。

イアンは汗をポタポタと垂らしながら、絞り出す様に謝罪を口にした。

「……済まない、これ以上ない程にデカ過ぎる蟲がついた」

「はあ?どういう事?ちゃんと説明しろよっ!」

エイデンは聞くが早いかイアンの橫へと移し、ぐらを摑んでユサユサと揺らしながら半ばぶ様にして、必死の形相で更に激しく揺する。

「エイデン、落ち著きなさい。それではイアンもキチンと話せないだろう?」

そこで漸くオリバーが諌めた為に、エイデンは仕方なく手をイアンから離すと、元いた場所へと腰を下ろした。

イアンがホッと溜息をついたタイミングで、

「これでちゃんと説明出來る様になったな。話せ」

オリバーが有無を言わさぬ鋭い瞳をイアンへと向けた。

◇◇◇

「三日後に當主と共に登城する様に」

目の前には國王様と王妃様が座られている。

お二人共にとても機嫌が良さそうだ。

そんなご機嫌な様子の國王様からのお言葉である。

「三日後……ですか?」

「そこで正式に婚約を決定させる」

思わず固まったリリアーナの代わりにイアンが

「ま、まず持ち帰って當主である父と相談しまして……」

言いかけた所で、何も聞いてない風を裝い國王様はもう一度、満面の笑みで告げたのだ。

「そこで正式に婚約を決定させる」

ああ、これは斷る事は許さないと言外に言ってるやつですね。

イアンとリリアーナの返事は「はい」の一択のみしかなかったのである。

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