《【書籍化・コミカライズ】さないといわれましても~元魔王の伯爵令嬢は生真面目軍人に餌付けをされて幸せになる》16 おたんじょうびのおいわいがあるのでおひるねをしてそなえます

ずぶぬれのまま別荘に帰りつき、タバサの小言をもらいながら一緒に湯あみを終えた。

晝寢にはいったアビゲイルを寢室に殘して私室に戻ると、今夜の誕生祝いの采配に戻ったはずのタバサが神妙な顔をして待っていた。両手にらかそうな布を持って元の高さまであげている。隣にはロドニーが困しながらも笑いをこらえ切れていないような用な表で立っていた。

「……どうした?」

「さきほど奧様から頂いたホタテなのですが……いえ、まずはご覧ください」

ローテーブルに持っていた布をそっと置き、俺がソファに座るのを待ってから折り畳まれていた布が開かれた。

「真珠、か?」

「はい。いただいたホタテの両方にはいっていました」

一度立ち上がり、執務機から手袋を出してソファに戻った。手袋をはいた指先でつまみ上げて手のひらに転がしてみる。母上にはあてにされていないが、一応俺も貴族教育をけている。寶飾品のセンスはともかくある程度の品質を見極める知識ならある。一応多なりとも家の易事業を手伝ってはいるし。確かにホタテは真珠を抱えることもまれにあるというが……。

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「隨分高品質に見えるな。虹の照りこそないし真円でもないが、巻きもしっかりしてて沢がある」

手のひらの真珠はわずかに歪んではいるが、ころりとした涙型で表面はきめ細かく、目で見る限り傷もない。

「最近はねー、真円じゃなくてもデザイン次第で人気あるんですよー」

「へぇ」

「奧様のご厚意ですけれど、さすがにこれは頂戴できませんので主様にと思いまして」

珍しく眉を下げたタバサがため息をつく。け取れないとアビゲイルの前では言えないだろうなぁ……。

ただいまの言葉もおざなりに、はずみながら駆け寄って得意げに手渡したのだから。

「でもまあ、いいんじゃないか。け取っておけば」

「ですが」

「タバサにお土産だと張り切って探したものを取り上げるほど狹量な主じゃないぞ俺は。というか、何故け取れないのかアビゲイルに納得させられるのか?」

「ですから奧様がお晝寢中にお持ちしたんでしょうに。この後ホタテ料理も並びますし、それをご一緒にいただけるだけで十分すぎます」

アビゲイルに金銭的な価値などわからない。いや數字として理解はしているが、本人にとっては気にかけるようなものじゃない。せっかくタバサのためにと獲ってきたものを、け取ってもらえないほうが重要だろう。そりゃ獲ってきたのはホタテであって真珠ではないけれど。

「じゃあふたつあるんだし、揃いで何か誂えればいいんじゃないか。タバサと揃いなら喜ぶだろう」

「主様、使用人と揃いなどと」

「あー、奧様は喜ぶでしょうねー」

「おう。アビゲイルはそりゃあ喜ぶだろうな」

ぐぅと押し黙ったタバサにロドニーと二人で笑った。

「それはそれとしてだ。凪いでたはずなのに急な高波に攫われたかと思ったら、手にしたカニの代わりにホタテだぞ」

「しかもふたつとも希な高品質真珠り、と」

「偶然、じゃないよなぁ」

「さすがにそこまでおめでたくはなれませんねー」

アビゲイルが嫁いできてすぐに起きたロングハーストの小規模なスタンピード。狂羊(マッドシープ)の大群が穀倉地帯を踏み荒らしたそれは、これまで絶えない穣で知られた領に影を落とした始まりだった。

スタンピードを予測したアビゲイルが対処と回避策を書き殘していたにも関わらず対処しなかった伯爵は、備蓄も足りず収穫もめない中、金策に走り回った挙句に野垂れ死んだわけだが、ロングハースト領の凋落はこれにとどまらない。

「もともと不作もあまりないかな土地ではあったんだよな?」

「ですねぇ。領地面積の割に収穫量も多く、そのくせ人口はさほど増えないから治安も悪くなかったそうですよ」

かになれば人は流れ込むものだ。なのにあの土地はよそ者を嫌うせいで付ける者がなかったという。

「あれからまた屆いた続報ですけどー、狂羊に荒らされた土地を回復させるだけの人手も足りず、他領から人員を回せば地元民がもめごとばかり起こす有様だとか。無事だった他の土地の収穫も不作とまでは言わずとも例年の収穫量に全く屆かないわ、王領にした手前もあってとりあえず領民を養わざるを得ないわで赤字しか見込めないと、擔當は頭抱えてるらしいですね」

「ははっ笑いが止まらんな」

要りもしない土地ではあったけれど、本來であればアビゲイルが継ぐべき土地だ。それを嫁ぎ先であるうちが口を出さないのをいいことに、アビゲイルにろくな説明もないまま取り上げた王城には思うこともある。要らんけどな!

タバサの坊ちゃまと窘める聲を咳払いで流しロドニーに続きを促す。

「特にここ十數年不作どころか大雨や日照りの被害すらほぼなかったわけですから、適切な管理さえあれば味しい土地だと思っても仕方ないといえばないですかねー」

「ここ十數年特に、なんだよなー」

「ですねー。特に、なんですよねー」

手のひらの真珠をテーブルの上に広げられたままの布において、ゆっくりと丁寧に畳んで包んだ。

「そうは言っても、答えなどどうせ出ないことだ。うちの小鳥がもってきた贈りは贈られた者がけ取ればいい」

包みを片手に持って差し出せば、タバサがそれをためらいつつ両手でけ取る。うん。それがアビゲイルの一番喜ぶことだろう。

たとえアビゲイルの領地経営手腕が卓越していたのだとしても、魔の生態に詳しいばかりか行のコントロールすらできそうだとしても、ロングハーストの穣は魔王であったアビゲイルの存在故だったのだとしても。

海のことはわからないといいながら、なぜかこうして普通はあり得ない恵みを手にしてたりしていても。

「黙ってりゃわからんし、証明もできん。今重要なのはノエル家の主人が楽しい誕生日を過ごすことだ」

「主のその極端に振れるところいいと思いますよー」

「ほんと大きくなられて……」

いそいそと祝いの支度に戻るあたり、お前たちだって相當だろう!

ごきげんよう!豆田です!

報告には先日アップしたのですけど、書籍発売報が解になりました!

発売日 2022年10月7日(金)

書名 さないといわれましても〜元魔王の伯爵令嬢は生真面目軍人に餌付けをされて幸せになる〜 (1)

ショメイ アイサナイトイワレマシテモ モトマオウノハクシャクレイジョウハキマジメグンジンニエヅケヲサレテシアワセニナル

出版社 雙葉社

レーベル Mノベルスf

作家 豆田麥/花染なぎさ

価格 1,320円

ISBN 9784575245684

報告からコピペ!

なんかもうamazonとかでは予約できるそうです。

書きおろし閑話SS(ロドニー視點)・電子書籍特典SSとかありますので!

いただけると!私がとても嬉しいし!ありがとうございます!

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