《お薬、出します!~濡れを著せられて治療院から追放された薬師さんが辺境で薬屋を開きました。極めたポーションは萬能薬と呼ばれて回復魔法を超えるようです~【書籍化コミカライズ企畫進行中】》エクリ、自分を見つける
「頭痛の原因は水分不足ですね。おそろしい病気じゃないので大丈夫ですよ」
工業都市プロドスにて、メディは張り切っていた。
メディエナジーの生産が間に合わなくなるほど知名度が上がり、わずかな間でその名を広めてしまう。
やってきた労働者達の不調を見抜き、ついには治療行為も行っていた。
健康指導、病、質。すべてを総合して生活習慣の見直しなど。
特に長年、持病を抱えていた者はメディのおかげで人生が変わった。
「腰の弾がすっかり消えたよ! もう引退を考えていたんだが、これでまたバリバリ働ける!」
「でもおには気をつけてくださいね」
労働者の大敵ともいえる腰痛の完治とあっては誰もが黙っていない。
メディエナジーだけでも生産が追いつかず、アイリーン達まで雑用を手伝わされていた。
これでは何のためにやってきたのか、わからない。
忙しさの中、エルメダはそう自問自答していた。
「あ、あのさ。繁盛してるのはいいんだけど……。もうそろそろカイナ村に帰らない?」
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「でも、まだ患者さんが……」
「メディ、さすがにこれでは切りがない」
「うふふ、そうよねぇ」
アイリーンは調合素材の搬、ロロは補助、エルメダは列の整理。
それぞれが役割分擔をしていたが、このままではプロドスに定住するのではないかと誰もが思っている。
カノエはちゃっかりメイドの裝で決めて薬を手渡しするという楽なポジションを決め込んでいた。
「あぁもう、なんでうちらがこんなもん手伝わなきゃいけねぇッスか」
「まぁまぁ、カイナ村とかいうところにゃ強い奴がたくさんいるだるぉ!? 連れていってもらえるならいいじゃねぇかぁ!」
「それのなにがメリットッスか」
雇い主のドクマークがプロドスを去ったことにより、ニトとパンサールは行き場所を失った。
アイリーンの要により、この二人はカイナ村で預かることになったのだ。
ニトにしても選択肢などなく、斷れば倉庫襲撃事件の件で衛兵に突き出されてしまう。
プロドスの警備に當たっている衛兵は確かな戦闘訓練をけている上に、魔道で武裝している。
バッドニュースのニトとて、簡単に出し抜ける相手ではないと理解していた。
「メディ」
「あ、エクリさん!」
「できた」
「できましたか!」
突然、幽霊のように現れたエクリにエルメダは聲を上げそうになるほど驚いた。
エクリが手に持っているのは見慣れない魔道だ。
細い煙突のような筒が裝著されたランプは、メディが求めていたものだ。
その特殊なマジックランプは明かりを照らすだけではない。
メディが予め用意していたお香を筒の中にれると火が燈った。
「メディ、これはどういうものだ?」
「これがエクリさんに作ってもらったマジックランプです。ただし明かりだけではなく、匂いを屆けます」
「なるほど。この筒から匂いがじられるな」
「アイリーンさん、すごいですね。人間にはほとんどじられない匂いなんですよ」
「犬みたいだね」
口をらしたエルメダはアイリーンにジロリと睨まれる。
特に怒りはないものの、エルメダは口を手で押さえてやり過ごした。
「エクリさん! すごくいいお仕事ですよ!」
「いい?」
「いいですよ!」
「おじいちゃんより?」
メディにその問いには答えられない。
師匠である祖父に負けないよう、メディ達がくるまでエクリはドラゴンエナジーを飲んで仕事に打ち込んでいた。
祖父の名に恥じない仕事ができるか。いや、しなければならない。
そんなプレッシャーがエクリを追い詰めていた。
事を知ったアイリーンは間もなく親近を覚える。
かつて一級という重みをじて、きがとれなくなった自分を思い出した。
「エクリ、いい仕事だ。それはお前にしか作れない」
「うん?」
「お前は祖父になるのではない。魔道師エクリはこの世でただ一人だけだ」
「う、ん……?」
「お前が師匠の下で修業を始めた頃を思い出せ。最初は楽しかったはずだ」
魔道という作りにエクリは惹かれた。
拙くても、最初は何かを作り上げたという喜びがあったのだ。
師匠であるゴルイもそれは認めており、寡黙な姿勢でエクリを見守っていた。
しかし皮にも知識や技をに著けるほど、エクリは練者との距離をじるようになる。
自分もあそこまで行きたい。いつ到達できるのか。
エクリが焦りをじ始めた時、ゴルイはあの世へ旅立った。
「……楽しかった」
「そうだろう。お前が作ったものでメディは喜んで謝した。これ以上の喜びはないだろう。私もゴルイ師匠の弟子だった時にそうじたよ」
「破壊……」
「まだ言うか。それは本當にもういい」
アイリーンはアイリーンなりに楽しかった。
せめてその気持ちが今のエクリにあれば、自然といい仕事ができると信じている。
「メディ」
「はい?」
「嬉しい?」
「はい。とても嬉しいですよ。エクリさんのこの魔道は必ずカイナ村の役に立ちます」
村の役に立つ。
エクリにとってこれほど心が震えるフレーズなどない。
師匠のゴルイは叱ることもなかったが、褒めることもなかった。
おかげで今日まで、エクリの自己評価はかなり低かった。
エクリは目の前がで満たされる覚に陥る。
「メディ」
「はい?」
「ありが……」
「おぉい! ここにめちゃくちゃ腕がいい薬師がいるんだってな!」
追加で押し寄せた客の聲に、エクリの聲がかき消されてしまった。
世話になった師匠にさえ言えなかった言葉だ。
しかし言わずともメディには屆いている。
「メディちゃん! 本當にカイナ村に帰っちゃうのか!? 近所にある治療院がヤブでさぁ!」
「うちの工場の専屬にならないか!」
「お前、それはさすがに図々しいだろ! 萬年、潰れそうになってるくせによ!」
「な、なんだとコラァ!」
ドクマークによってばらまかれたドラゴンエナジーの影響も、今はほとんどない。
メディエナジーの知名度が上がりすぎて、中には高額での転売を目論む輩もいたが未遂に終わってしまう。
不屆きものは間もなく町から姿を消して、そしてカノエがクスクスと笑っていた。
プロドスにおいて、もはや薬師メディを知らぬ者はほとんどいない。
國一番の工業都市で轟いたメディの名はここから更に広まることとなる。
「カイナ村にはなんとこの子による薬湯があるのよ。宿もある上に周辺の魔の心配はほとんどないわ。どうぞ、いらしてぇ?」
「あ、あぁ……」
カノエが際どいアングルと服の出でそう宣言すると、プロドスの労働者達の目は釘付けになった。
「いらしてねぇ!」
「いらすのです!」
「良い子は真似しちゃダメ!」
尚、メディとロロが再び負けじとカノエの真似をしようとするが間もなくエルメダに止められる。
カノエの宣伝力は認めるが、悪影響だけは見逃さなかった。
悪影響もそうだが、二人では足りてないのだ。々と。
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