《お月様はいつも雨降り》第燦十九

僕はそれが現実にあるのかどうか境目が分からなくなる不思議な覚を楽しんだ。周囲の空間がどんどんと拡大し、大きな格納庫のように変化したように見えた。

僕が小さいころから好きだったの二枚の板から高熱をだして敵ロボットを溶かす『ゼットロボ』が立っている。

イメージのはずが、今の僕の目には本に見えている。

「イツキ、それでもすごいよ、ほら、あそこのロボットなんて、アニメの大きさそのままだよ」

「でも、これだって脳波をいじくっただけのじゃないか、そこに本はないよ、格納庫に見えるモノだってただの壁だよ、僕はここが工事中の時に一度だけ見せてもらったことがあるから知っているけど、伝達裝置が停止したら驚くんじゃないかな」

「そ、そう……、それならイツキはどうなればすごいと思うの?」

イツキはそう質問した僕の方を振り向いた。

「自分の心をもって考えることのできる長する機械……というより生命、そこで人間ははじめて、その生命から神様のように尊敬されると思うよ」

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「サイボーグみたいなの?」

「それは組織生工學の範囲のものだから、そこから、また、さらに進んだものかな」

「難しいね、組織なんとかって」

「そうかなぁ、簡単なことだよ、僕たちは今、こうやって誰に命令されなくてもグループになって、自然にそれぞれの時間を楽しんでいる、こんな単純なことだって、ロボットだったら一つ一つプログラムしてかさなくちゃならないだろ、あのアニメの無敵のゼットロボだってそうだよ、人が縦してロケットのパンチをだすじゃないか、本當にそれが完した技だったら、わざわざ人が危険な場所にいて縦する必要がない」

「ゼットロボが自分で考えて敵と戦うってこと?」

「うん、それでも人間に反とかしない歯止めは必要だけどね、でも、そうするとやっぱり本來の生命じゃなくなってしまう、神様は人間が悪い時に大洪水を起こしたり、火山を噴火させたりしたじゃない、その生命ではいくら技に付けても解決できないこと、そんな力を持つ必要があるよ」

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「それなら生命は人間と同じだね、で、僕たちが神様だ」

「そう神様のもつようなもっと先の力を僕は見付けてみたい、ひとつめはもう見付けたんだけど……」

「イツキだったら、絶対に出來ると思うよ!で、そのひとつめって何?」

「まだ言わない……」

「知りたいなぁ、それならヒントだけ」

「ボウだったらヒントくらいならいいか、ヒントは……」

いつもよりも難しいことをイツキは言っている。でも、それが僕に分かりやすく説明しようとしているんだなというのは理解できる。なぜなら、僕に話す時の顔が嬉しそうだからだ。

イツキはおじいちゃんのつくってきたものが本當は好きなんだけども、それをもっともっとずっと先まで超えてみたいんだなと思った。

「イツキ、ボウ、次の見學場所に行くよ!」

「時間なくなっちゃうよ」

ルナやヒロトたちが奧に見える出口の方で呼んでいた。僕はその時、イツキからヒントを聞きそびれてしまった。

クラス全員が集合する前に僕たちがシャトルで案された場所は『サンゼタワー』のすぐ真下にある大きな野球場のようなところだった。

野球場と言っても形がそんなかたちに見えるだけで僕たちの學校がグラウンドごと百あってもたりないくらいの大きさだと思った。

タワーを下から見上げると頂上が全く見えないくらいの高さだった。

もう、ここは完しているらしく、工事の車は一臺もない、その代わり、背広や白とかいろいろな服裝の人たちが僕たちの乗ってきたシャトルカーと同じ乗りで周囲の建と行き來していた。

「スカイツリーのようにこのタワーに登ることはできるんですか」

シャトルの席でワカナがお姉さんに質問した。

「殘念ながら、皆さんをご案することはできません、実はこのタワーには展臺がつくられていないのです」

「えー、楽しみだったのにぃ」

子は一斉に殘念そうな聲を上げた。

「ここ一帯のエリアは全部が発電とエネルギーの貯蔵施設になっているのがその理由なのです、今、その周囲をシャトルが回りながら、わたしに代わって『チャペック』が説明します」

シャトルのフロントガラス前の空間に執事姿の男のホログラムが投影された。

「お嬢ちゃま、お坊ちゃま、はじめまして、わたくしは今回、ご説明を擔當する人工知能『チャペック』と申します、質問はいつでもおけできますが、言葉の解析にやや手間取ることがありますので、できるだけゆっくりお話しいただけたら幸いです」

この執事姿、僕はどこか夢の中で會ったことがあるような気がした。彼は言葉のあいまに僕たちを飽きさせないような冗談やダジャレを言いながら施設の説明をしてくれている。

「『サンゼタワー』その名前を表すように、これは未來に渡る永遠のエネルギーを生み出す塔なのです、皆さんは電気をどのようにして発電しているかご存じですよね」

「電池!」

ジュンが真っ先に答えたが、チャペックはし困ったようなジャスチャーをえて笑いながら話を続けた。

「さすがです、ただのその説明にる前に、私は風力とか、水力とか、原子力などという言葉をはじめに聞きたかったのです、ただ、間違いではありませんよ、化學反応も間違いなく電気を生み出します、やはり、皆さんはさすが優秀な方がお揃いです」

「わたし褒められた?」

自慢げに言ったジュンにサユミが軽く否定した。

「褒められたというより困らせたみたい」

「え、何で優秀な方って言われたのに」

「お話を先に進めさせていただきます、私たち『トキノマチ』計畫において、その莫大な電力をより安全に、より計畫的に、そしてより永久に供給するシステムを考えました」

僕たちはどんなことを教えてくれるかワクワクしながら聞いていたけれど、窓に頬杖をついたイツキは話を聞かずにシャトルの外の景ばかりを見ている。

「それは地球の自転と生み出す磁気を活用した発電システム、その技の結晶である建造こそが『サンゼタワー』なのです、このタワーはつい高さにばかり目を奪われてしまいますが、実は、地下數十キロ深くまでのびたところに発電の要というものが存在しているのです、なぜ、今、數十キロというあいまいな表現をしたのかというと、この一帯に植のようにそれぞれの深さの異なるルーツ、すなわちがのびているからです、より、プレートに近い位置に到達した裝置こそより多くの発電が期待できるものと我々は考えています」

チャペックは説明を続ける。

「このタワーは完しているかと聞かれたら、その言葉はノーです、まだ長をし続けているという言葉がふさわしいものです」

「お花みたいだね」

「あなたは素晴らしいをお持ちのようです」

褒められたジュンは一層、得意げな表を見せた。

「まさに、このタワーは生きている植と言ってもいいでしょう、地下の真逆となるタワーの最先端部『花』に當たるところ、この部分はラテン語で蓮を意味する『ロトス』と私たちは呼んでいます」

投影された畫像に映る丸く円のように並べられた形は本の花のようだった。

「衛星からの畫像では小さく見えますが、この花びらに似た一枚一枚がサッカー場一面ほどの大きさを持っています、ここは太風により圧された磁気圏をとらえ、調整し、地下の永続的安定をもたらすためのいわば安全裝置の役割をしています、その他にもこのタワーを補佐するために地磁気や天候、宇宙線などをモニターする百八機の大小の人工衛星が日夜監視しています」

「すごいなぁ、でも、こんなにエネルギーを生み出して何に使うのですか?」

「エネルギーはあればあるほど、その使用方法は無限大に広がりまず、ひとつ例を挙げましょう、大気中から大量の水を生み出すことが可能になります、それだけで、毎日、東京の街と同じ大きさの生み出されている砂漠がピンポイントで緑の楽園となることでしょう、どれは地球溫暖化の抑制にもつながりますね、その他にも自然の力を最大限に活かすことからも火力発電などで生じる炭酸ガスや放質に伴う処理等の汚染問題などすべて解決していくことを的にお示しできます」

ヒロトの質問した答えを聞いた僕は何だかよく分からないけれど、地球溫暖化や放能汚染を生み出さないというところだけを聞いて本當にすごいものだと心していた。

「葉にあたるのがご覧になっている大きな建やいくつものタンク、まだ、未完ですが、これらはすべて生み出されたエネルギーを貯蔵する施設なのです、この施設がある限り、いつ、どのような場においても巨大なエネルギーが取り出せるような仕組みとなっているのです、この施設がすべて完したあかつきには、鉱資源などがなく、エネルギーを外國に頼らざるを得なかったこの日本という國を変貌させ、世界をけん引する力をもつ大國となることに間違いありません!」

「ボウ」

外を見ていたイツキは知らない間に僕の方に顔を向けていた。

「そう言えば、さっきのヒントは途中だったよね」

「あ、そうだったね」

「あのタワーを近くで見て、僕はやっと実現できる自信がもてたよ、もうヒントじゃなくて答えを教えてあげるね」

「え、教えてもらって本當にいいの?」

「これだよ」

イツキは遠足用に自分が付けていたかっこいい腕時計を僕の方に見せた。

「時計?」

「ううん……」

「時間……これがさっきの答え」

イツキはそう言うと首をかしげる僕を見て小さく笑った。

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