《【書籍化】外れスキル『目覚まし』、実は封印解除の能力でした。落ちこぼれの年は、眠りからさめた神達と優しい最強を目指す。【コミカライズ企畫進行中】》4-12:王都防衛
僕が降り立った場所は、『王城前広場』って呼ばれていた。
王都の中心、お城の門から歩いて10分もかからない。月に何回か市場が立って、起こし屋としても數えきれないほど通った。
そこに、魔が出現している。
「ブオォォォオオ!!」
大まかにいえば、大した熊。起き上がったら、きっと8メートルはある。
走った目。よだれを垂らす口は、右半分だけ狼のように裂けて巨大すぎる牙が見えていた。
尾は、なぜか蛇になっている。丸太を束ねたような腕から、枝のように違う種類の獣の腳が生えていて、ひどく――気味が悪い。
ケラケラと笑い聲が聞こえる。
正面に構えたまま、目線で新たな敵を探す。いない。笑い聲は確かに魔から聞こえていた。魔の、人間でいえば脇腹の位置に『口』がある。
口は、ケタケタと耳障りな笑い聲を立てていた。
「なに……これ……?」
広場にいた人達は、悲鳴をあげながら逃げていく。腰を抜かした子供を、母親が抱きかかえていくのも見えた。
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これ、僕は退がれない。
晝前の広場は、魔の恐ろしさに躙されていた。
ソラーナが僕の傍らに降り立ち、言う。
「狼を覚えているか? 東ダンジョンにいた――」
「う、うん……」
「あの魔に似ている。あれは闇に汚された魔だったが、こちらは普通のが、ユミールによって魔に変えられた」
震える足を、腰を落とすことで誤魔化した。
王城からやってきた兵士達が、広場に続々と現れる。
僕はんだ。
「ま、まずは、避難を!」
お城に出向いたことは、無駄じゃなかった。兵士や騎士が、早速人を助けにいてくれてる。
僕は深呼吸した。
味方を増やす戦いは、終わった。次は――街を守る戦いだ。
ヘイムダルが腕を組む。
「この魔は、広場に突然現れた。ユミールの新しい能力かもしれない」
熊は苦し気にいている。尾の蛇も、同じようにのたうちまわっていた。
造られた魔を、僕は見據える。
「倒そう。見ていて、神様」
熊が腕を振り上げた。
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橫っ飛びで逃れた直後、僕がいた石畳が砕される。
ステータス、と念じた。
――――
リオン 14歳 男
レベル32
スキル <目覚まし>
『起床』 ……眠っている人をすっきりと目覚めさせる。
『封印解除』……いかなる眠りも解除する。
[+] 封印を鑑定可能。
『角笛の主』……角笛の力を完全に引き出す。
スキル <太の加護>
『白い炎』 ……回復。太の加護は呪いも祓う。
『黃金の炎』……能力の向上。時間限定で、さらなる効果。
『太の娘の剣』……武に太の娘を宿らせる。
『太の目覚めの』……太の力で、封印解除を永続させる。
スキル <雷神の加護>
『雷神の鎚』 ……強い電撃を放つ。
『戦神の意思』……自分よりも強大な敵と戦う時、一撃の威力が強化。
『ミョルニル』……雷神から、伝説の戦鎚を借りける。
スキル <狩神の加護>
『野生の心』 ……探知。魔力消費で、さらなる効果。
『狩人の歩法』……気配を消し、気づかれずに移する。
スキル <薬神の加護>
『ヴァルキュリアの匙』……回復。魔力消費で、範囲拡大。
『シグリスの槍』……遠隔補助。魔法効果を槍にのせ、屆ける。
スキル <魔神の加護>
『二枚舌』……2つの加護を組み合わせて使うことができる。
『霊の友』……霊達の力を引き出す。
『魔神のたぶらかし』……魔法の力で、まぼろしを生む。
――――
これが、今の僕にある手札。街を守るため、作戦を組み立てる。
まずは黃金の炎を使った。
――――
<スキル:太の加護>を使用します。
『黃金の炎』……時間限定で能力を向上。
――――
一気にスピードを増した僕に、熊は驚いた様子で追いすがる。巨腕が無數に降り注ぎ、僕は回避と、短剣によるいなしで凌いだ。
腕からでたらめに生えている、小型の腕も厄介だ。狼みたいな獣の前腳には、鋭い爪がある。
回避した時、副腕の爪が頬を裂いてきた。
「へ、平気か……!? わたし達が……!」
助けに來ようとする神様に、僕は聲を張る。
「大丈夫!」
僕を追っている間は、他の人に被害が出ない。
敵が神様という圧倒的な存在を前にして、破れかぶれに暴れまわることが、おそらくは一番、被害が増す。
「オオ、オオ……!」
巨熊がうめいている。の涙を流していた。
魔がをひねり、尾にあたる蛇を僕へ向けた。
薙ぎ払い。を限界まで倒す。
とんでもない重さのものが、ぶおんと頬のすぐ脇を通り過ぎた。
回避の直後、蛇はこっちへもう頭を向けている。
「シャア!」
牙から紫のが噴出する。
「目覚ましっ」
風の霊シルフが飛び出して、毒を弾いた。
飛び散ったが地面を焦がしていく。
僕と、巨熊、そして尾の蛇はにらみ合う。熊は立ち上がって、咆哮を発した。
――ブオオオォオォォ!
空中にあるヘイムダルが、顎を引いた。
「この熊……以前はいずれ名のある大だったのかもな」
僕を見て、涼しげな目を細める。
「リオン。君を生涯最後の戦い相手として、認めたとみえるぞ」
僕は頷いた。注意を引き付けるため、聲を張る。
「來いっ!」
途端、熊が突進してきた。地面が揺れる。市場のテントが衝撃で崩れる。
避けたら――おそらく、周りの建に突っ込むだろう。<狩神の加護>、『野生の心』で探知すると、後ろの建にはまだ人の気配をじる。
「リオン!」
「信じろ太神。君の信徒は――もはや神々に守られるだけじゃないだろう!」
僕は、踏ん張った。
突っ込んでくる熊の肩を、短剣でけ止める。
――――
<雷神の加護>を使用します。
『戦神の意思』……自分よりも強大な敵と戦う時、一撃の威力が強化。
――――
全力で凌ぐ。足が石畳にめり込み、っていく。後ろに壁が迫ってきた。
押しつぶされる!
『黃金の炎』と、『戦神の意思』が、巨大な敵に対して僕の力を強めている。おそらくロキの『二枚舌』が、ただでさえ強力な『黃金の炎』を、『戦神の意思』と組み合わせて、抗う力を高めていた。
――オオ!
巨大な熊が、いた。足裏で石畳を砕くが、止まる。
神様の加護……あとちょっとだけ、おまけして!
「押し……返す!」
短剣を、振り抜く。
刃は魔化した皮で阻まれたようだけど、それでも巨を弾き返した。
「グオオオオ!」
尾の蛇が迫った。そちらは炎の霊(サラマンダー)を目覚ましして、火の弾で迎え撃つ。
姿勢を崩し、ひっくり返る巨大な熊。
『野生の心』で探知をすると、に赤いが見えた。魔力探知が、最も魔の力が集まっている場所を示している。
――――
<スキル:雷神の加護>を使用しました。
『雷神の鎚』……強い電撃を放つ。
――――
僕は飛びあがり、振り上げた短剣にトールの金鎚を想像する。
熊のに、雷をまとった短剣が打ち付けられた。巨を雷が駆け巡り、にあった赤いも消失する。
魔はやがて黒い灰へと変わり、風に乗って崩れていった。
靜まり返った広場。
人を守っていた兵士達が、唖然と僕らを見ている。
僕は汗と、額についたを拭った。
「勝った……」
神様が宙から降りて來る。
「……強くなったな、リオン」
「神様の加護のおかげだよ」
「立ち向かったのは、君の力だ」
ぎゅっと神様は僕の手を握る。
どよめきと歓聲が広場に満ちていった。
――た、倒した!?
――あの子供が……?
――ていうか、もしかして起こし屋さんじゃない!?
ヘイムダルがやってきて、咳払いする。
「……さて、これで、邪魔はなくなったな? いや……俺が邪魔だったか?」
僕らは慌てて手を放した。
頬が熱い。もざわつくし、おかしいな、これ……なんだろう。
周りの歓聲も、なんだか一気に溫かくなった気がするよ。
ヘイムダルは僕に笑いかけた。
「年。もう一度、角笛を吹きたまえ」
僕は目を瞬かせて首をひねった。
「も、もう一度?」
「戦いが始まる時にも角笛は鳴らすが、勝利の時にも鳴らすものだよ。なにより」
ヘイムダルは空を指さした。オーロラはまだ輝いている。
「まだ、妹さんの魔力が角笛に殘っている。この勝利で、世界中の神々をさらに昂らせれば――世界中の迷宮で、狀況が逆転する」
僕ははっとした。
ユミールは、全ての迷宮で魔の封印を緩めている。王都のダンジョンが危ないように、他の街でも魔がきっと溢れそうになっているんだ。
でも、同じ場所には神様も封じられていて。
「……遠くの迷宮で眠る神様を、起こすってことだね」
僕は角笛を取り出す。
『角笛の年』なんて呼ばれて、以前の戦いでは英雄なんて呼ばれ方もされた。
耐えて進む覚悟は、もう決めてある。
王都の広場で、神様と大勢に見守られながら、僕は角笛を吹き鳴らした。
――目覚まし!
目覚ましの角笛(ギャラルホルン)による、魔達に対する反撃(カウンター)だ。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は、8月22日(月)の予定です。
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