《【書籍化】外れスキル『目覚まし』、実は封印解除の能力でした。落ちこぼれの年は、眠りからさめた神達と優しい最強を目指す。【コミカライズ企畫進行中】》4-13:角笛の主
取り出した目覚ましの角笛(ギャラルホルン)はうっすらとって、まだ力を殘していることがじられた。
ソラーナとヘイムダルに目くばせしてから、僕は角笛を吹き鳴らす。
――――
<スキル:目覚まし>を使用しました。
『角笛の主』……角笛の力を完全に引き出す。
――――
音が、全世界へ渡っていく。
――――
<スキル:目覚まし>を使用しました。
『封印解除』を実行します。
――――
「きれい……」
思わず、聲がれる。世界中に魔力が渡っていくのをじた。
王城でも角笛を吹いたけれども、今回はより高く、より遠く、角笛の力が行き渡っていく。
『封印解除』のメッセージも、さっきは聞こえなかった。
空を呆然と見つめていると、頭を遠くの景が過ぎっていく。
「……なに、これ……?」
それは、緑に囲まれたフローシア。
それは、鉱山の街アルヴィース。
はたまた、僕が行ったこともない最果てのツンドラ。
視界が暗転する。
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気づくと、僕は空に浮かんでて、知らない街を見下ろしていた。
ヘイムダルの聲がする。
『落ち著け。リオンのは、まだしっかりと王都にある。角笛の魔力に乗って、意識だけが遠くへ飛んだ。一瞬だけだがな』
眼下。
オーディンが魔を封じ込めた地下迷宮は、本格的に役目を終えようとしていた。人々が悲鳴をあげている。迷宮の暗がりから這い出てくるのは、ゴブリン、オーク、スケルトン、人狼、ガルム、ねじくれた角の竜種もいる。
また景が移り変わる。
他の街では、より強力な魔が出現していた。
青いを持つ巨大な狼が、迷宮から駆け出てくる。高は5メートル以上、尾まで含めた長さは――10メートルはゆうに超える。
狼は丘の上に立つと、遠吠えを放った。こっちのにざわざわと鳥が立つ。
狼はをひるがえして、どこかの方角へ駆けていった。なびく尾は、刃のような形に見える。
また別の街。
迷宮から巨の男が歩み出てくる。裂けた口は、東ダンジョンにもいた狼骨スコルを思い出させた。
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男は分厚いローブを羽織り、狼を模した飾りのついた杖を持っている。
その魔もまた、をひるがえしてどこかへ消えた。
どの街に意識が飛んでも、目に飛び込んでくるのは、ユミールが解き放った魔の躙。
「だめ……!」
また、場所が変わった。
鳴り響く角笛の力は、世界中に屆いている。
ふと、突拍子もないことを思ってしまう。僕は音に乗って、世界中の景を見ているんじゃないかって。
角笛の音が、ついに迷宮の中へ屆く。
口を抜けて、階段を降り、一度も開いたことのない未踏エリアを封じる壁をすり抜ける。
そこには、大きな氷があった。側には人影が見える。神様が封印の氷の側に閉じ込められているのだろう。
――目覚まし!
黃金のが、神の眠る氷を包み込む。
は迷宮中にびていった。僕はを追いながら、眩しさにれた魔が瞬時に黒い灰へ変わるか、もう一度氷に包まれるのを目にしていく。
の強さに目を覆った時、場所がさらに移っていた。
上空から、迷宮の出口を見下ろしている。と共に外へ飛び出した神様が、武振るって魔を倒していた。
多くの人が呆然とそれを見つめている。
意識は、何度も別の街へ飛んだけど、どこでも景は同じだった。
角笛による、魔侵攻への逆転だ。
「リオン」
神様の聲が聞こえた。
目を何度もパチパチさせた時、僕は王都の広場に戻っていた。思わず、へたり込んでしまう。
ソラーナは手を差しべてくれた。
「平気かい?」
「う、うん――」
ヘイムダルが言った。
「君が見たのは、現実で起きていることだ。ユミールが魔を解き放ち、目覚めた神々がそれを押さえつけようとしている」
……ルゥにも見せてあげられたら、どんなに安心するだろう。
僕はそんなことを思ってしまった。
ソラーナが口を開く。
「わたしもじた。目覚めた神々は、人間と共に魔をきっと倒してくれる。そして時が來て氷に戻る時は、封印へ魔力を貸してくれると思う。そうすれば――」
「封印を、もっと強くできる……?」
僕の先取りに、うむ、とソラーナは太みたいな笑みを結んだ。
「そうだ。これほど多くの神について、封印を解除したまま維持することは、まだできない。だが、目覚めた事実は打ち消せない。ユミールが迷宮の封印を緩めても……迷宮にいる神が抵抗するだろう」
僕は考えてみる。
もう、迷宮から魔が溢れる危険はないってことだろうか。
目覚めた神様が、ユミールからの魔力に迷宮でしっかりと抗うから。
空にはまだオーロラが揺れている。
ぽろっと言葉がれた。
「よかった……」
そう、よかった。
角笛の力を引き出して、全世界の神様を目覚ましする。そして魔を倒してもらい、同時に封印へ力を貸してもらう。
結果として、ユミール最初の攻勢に対する――反撃(カウンター)だった。
ヘイムダルが指を立てる。
「同じ神々は、角笛のたびに加勢をしてくれる。いずれ來る、決戦でもね」
つまり、神様も味方になってくれたということ。
『仲間を増やす』という今日の目標は、大功じゃないだろうか。
「……む」
ソラーナが見上げている。
「オーディンも、満足だったようだな」
神様からの全メッセージが僕らへ降り注いだ。
――――
冒険者の皆様へ。
――――
思えば、僕の周りにいる神様に比べて、このメッセージは事務的だ。
でも僕ら冒険者は、これを支えに戦ってきた。
――――
終末の戦いが、始まりました。
迷宮から恐ろしい魔が目覚めています。
しかし、地上にはすでに英雄と神々が現れています。
――――
メッセージは続けていく。
――――
この戦いは、前れにすぎません。
警告します。
――――
警告、という言葉が何度も頭に反響した。
――――
真実の終末、世界を炎で包むような戦いは、もうわずか先に迫っています。
今から、3週間後。
英雄にたることを示す、最後にして最大の機會になるでしょう。
――――
きっぱりとした、時限の提示。それきり空は靜かになる。
「……3週間だと?」
ヘイムダルが顔をしかめた。ソラーナが腕を組む。
「仔細はまだわからぬ。だが、やはりオーディンは人間が終末に抗うことを、わずかでも期待している。そして、そのタイミングは――」
僕は頷いた。
「3週間後。そういう予言ってことだね」
自分で言って、しっくりきた。
これは避けられない戦いが來るっていう、『予言』。
大昔の神様も、こうして予言をけたのだろうか。
どよめきと歓聲が、王都に響く。
東西南北、迷宮がある方角にが浮かんでいた。ミアさんやフェリクスさん、そして神様のみんなが、街を守り切って僕のところへ戻ってくるのだろう。
王城から馬を駆った騎士が、僕らの脇を素早く抜けて、城壁の方へ向かっていく。
議場で見た顔もあって、僕に気づくと小さく手を挙げた。
戦える。
ルゥも、みんなも、きっと守れる。
オーロラの空に広がる勝利の聲は、冒険者達の熱歌に思えた。
◆
暗い、暗い、窟の奧。
かつて迷宮だった構の奧深くで、原初の巨人ユミールは腰を下ろし、壁に背を預けていた。
カゴに右手をばし、中の魔石をかじる。魔力のが弾けて、暗がりが一瞬だけ照らされた。
赤茶けた床や壁が、かつての迷宮が荒野に彫り込まれたものであることを示していた。
「……ヨル」
ユミールが呼ぶと、黒いローブのが、暗がりで膝をついた。
「よみがえった魔は、北の地に集まる」
ヨルは顎を引く。水滴が垂れる音が、靜けさに何度も反響した。
「うち、いくつかを集め、ここを守らせよ。選別は任せる」
おれは、とユミールは言葉を切る。
「……あやつらの太が弱まる時を待つ。しばし、別の地で喰い貯めだ」
原初の巨人は立ち上がり、何もない空中に齧(かじ)りつく。
がちんと歯が鳴った瞬間、周囲の空間がヒビ割れた。空間が橫に裂け、やがて大きな空隙が現れる。
凍てつく風が吹き込み、霜を降らせた。
隙間の先には何も見えない。
黒々と虛空が口を開けているだけだ。
「世界の喰らい方も、練習せねばな」
ユミールは闇のへ進む。一禮するヨルに見送られ、構を後にした。
世界の終わりまで、3週間――。
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次回更新は8月24日(水)の予定です。
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