《お月様はいつも雨降り》第四従目
「こんな大きなホール寫真でも見たことがない」
このホールに足を踏みれた第一聲、ヒロトの想は正直だ。
ステージを挾んで座る座席の人たちは雙眼鏡を使わなければ見えないほど広かった。
『トキノマチ』のスケールは僕たちの想像をずっと先を行っていた。
イツキのおじいちゃんはさっきの言葉通り、もう一度みんなの前に出てきたが引率の先生たちへ簡単な挨拶をすませると、すぐに大勢の人に囲まれながらホールから出ていった。
僕たちの學年はセンターの大ホールで、他に招待された全國の學校の子たちと同じ場所でこれから始まるイベントの始まりを待っている。
さっきの場所で見た以上の僕たちの経験したことの無い立映像を見ることができるらしい。
僕たちの學校だけで七十人くらいだけど、このホールに今日こうして集まっているのは一萬人くらいだと先生が言っていた。本當だったらこのホールだけで十萬人の人がれるなんて本當に信じられないと思った。
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みんなが始まる瞬間を待っていたその時、周りにいた子のスマホから変な何かをしぼったような音が連続で鳴った。
「地震?」
僕は海の上に浮かんだ船のようなじで一度軽く縦に揺れたようにじた。ただ、たいして揺れたわけではないので、子も大きな聲を上げるような子はいなかった。
「本日、お越しくださった皆様にご連絡申し上げます。ただいま、この地域に大きな地震がありました、すべての建は巨大地震にも耐える設計で建設しておりますので、ご心配なさらず、次の導があるまで、その場から離れないでください、引率の先生方にはスタッフが順次、學校ごとにご案いたします、それまで今しばらくお待ちください」
僕たちは自分たちがした揺れの大きさから、何でこのくらいで避難しなくてはならないのかと、そちらの方が不満だった。
ザワザワとホールの中では子どもたちのざわめきだけが響いている。最前列に座っていた學校の子たちが荷をもって立ち上がり、出り口の方に移を始めているのが見えた。
「うわぁ、本當に中止かよ」
「これが一番楽しみだったのにぃ!」
僕の後ろの列に座るマサハルたちの殘念がる聲が聞こえてくる。僕も殘念だったけれど、さっきの場所で見せてもらった映像で十分だった。
(あぁ、でもマサハルたちはまだ見ていないんだった)
僕は楽しかった出來事を言わないでおこうと思った。
僕たちはホールから出て、シャトルが並んでいる地上のターミナルへ移した。他の學校の子たちも並んでいるシャトルに順番に乗車しているのが見えた。
「外は大丈夫かな」
「早く、家に連絡したい」
「みんな大丈夫、これからエントランスまで、このシャトルに乗って移します、先生と二グループまでが一號車、イツキたち三グループと四グループが二號車、大野先生と五、六グループが三號車です」
誰ともなく不安を口にしている時間が続いた。先生の指示で、僕たちのクラスは三臺のシャトルに分かれて乗ることになった。
僕たちのグループが乗るシャトルの扉が閉まるとき、変な金屬の車がきしむような音を耳にした。
「あっ!」
空気が大きな力によって揺さぶられたようにじた。ターミナルの奧の方から他の學校の子たちの悲鳴が聞こえてきた。
「これは余震じゃないよ、スマホの急地震速報もらないし、が揺れていない、それとこの音、僕、前に畫で見た気がする、大人の人たちが森の中で驚いているところ、あの音ととても似ている」
前の座席のイツキはそう言って、シャトルの窓の外を伺うように見ている。
「何ていう音?」
その隣に座るマモルが聞いた。
「この世の終わりを知らせる天使が鳴らすトランペット」
「そんなの本當にあるの?怖いのはいやだよ」
通路を挾んで隣にいるワカナは心細い聲を出した。
「ルナもその畫を一緒に見ていたよ」
「うん、とても似ている、最近、その音が全世界で聞こえるって、でもその畫はこんな建の中じゃなかったよ、だからワカナもそんなに怖がらないで、だいじょうぶだよ」
そう言う隣の席に座っているルナの顔もしこわばっているように見えた。
「何だあれ?」
一番後ろの席に座っていたマサハルが、自分たちが歩いてきた通路の後方を指さした。
窓の外からは、まだシャトルに乗っていない子たちの大きな悲鳴が聞こえてきた。
渦のように巻く黒い霧が、手をばすようにホールの出り口から僕たちの歩いてきた通路にまで流れてきている。
後ろの方の子たちが暗闇に飲まれ將棋倒しになっていくのが見えた。
「危ない」
僕はルナの腕を力強く自分の方に引き寄せてその場でかばうようにしながらシートに伏せた。僕たちの乗っているシャトルが上下左右に激しく揺れた。
みんなの泣き聲や悲鳴と金屬をこすり合わせるような音、そして暗闇だけの時間が続く。
「ボウ、大丈夫か、ルナを守ってくれたんだね」
僕はイツキの掛けてくれた聲で我に返った。
イツキはカバンから取り出したスマホのライトを僕に向けた。僕はし目がくらんだけれど慣れてくるとレンやヒロト、マモル、ユキオがイツキの周りに集まっているのが見えた。
「う、うん、大丈夫、いったい何があったの?」
僕の下に気を失ったルナが、後ろのシートには寄りかかるように座ったマサハルやカエデ、ジュンたちがいた。
「先生たちは?」
「あそこに……でも、絶対に大きな聲を出さないで」
僕の目に飛び込んできたのは、倒れた大きなオブジェに押しつぶされているシャトルだった。
「ひっ!」
僕はイツキに言われていなかったらもっと大きな聲を上げていたかもしれない。
「早く、ここから出よう、気を失っているだけの子もいるから、ヒロト、マモル、聲を掛けてあげて、他のシャトルにもけがをしている子がいるかもしれない」
イツキはこういう時にも慌てていないのが僕はすごいと思った。イツキとレンと僕の三人でシャトルの扉を手で開けて通路に降りた。
「あれじゃ無理だな、だってシャトルが……」
レンの言う通り、三メートルくらいの高さがあるシャトルが、金屬のオブジェの下で五十センチぐらいの厚さになっていた。オイルとが混ざったような赤黒いがその周りに広がっている。
出口の方向は大きな壁が落ちていていて先に行けないようになっている。緑の導燈だけが崩れたがれきの中でっていた。
「ここはもう通れない、でも、あの広いシャトルの通路がふさがれるなんて信じられない、最新の耐震で建てられたものがこんな風になるなんて考えられないよ」
イツキは自分の持っているライトで何度も確認している。
「僕、後ろの方を見てくる」
僕はそうイツキたちに言ってシャトルの後ろに回ってみると、そこには黒いトンネルのような空間だけが広がっていた。
「ここにトンネルなんてあった?」
すぐにレンとイツキも僕のところに來た。
「僕たちの後ろにあったのはホールとそれにつながる通路、こんなのはないよ」
「奧に行って確かめてみるか」
レンがイツキにそう言ったが、イツキは首を橫に振った。
「この暗闇は、ただの暗闇じゃないよ、何か変だ」
イツキが足元に転がっていた壁のかけらを手に摑んで、暗闇の奧に向かって投げた、普通だったら、すぐに何かにぶつかったり、地面に落ちたりする音が聞こえてくるのだけど、僕たち三人の耳にその音は聞こえなかった。
「ほら、マサハルがんだ時に、暗い霧みたいのが近付いてきただろう、あの変なものなのかもしれない、ここは行かないで助けを待った方がいいよ」
僕もそのイツキの意見に賛だった。それにしても僕たちのグループが乗るシャトルだけが無傷に殘っているが不思議だった。
突然、シャトルの室に明るいが燈った
「イツキくん、非常ボタンみたいなの適當に押してたら明かりが點いたよ、それにルナやみんなも気付いた、マサハルが突き指しただけで大きなけがをした子は誰もいないよ」
ヒロトがシャトルの乗り降り口から顔を出して僕たちに教えてくれた。
「おい、見ろよ!ボウ!イツキ!」
レンの驚く聲が聞こえてきた。レンがシャトルの前の方を黙ったまま指さしている。さっきまであった潰れたシャトルががれきごと消えてなくなっていた。
そのかわりにどこまでも続く巨人の口のような暗いトンネルができていた。
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