《じょっぱれアオモリの星 ~「何喋ってらんだがわがんねぇんだよ!」どギルドをぼんだされだ青森出の魔導士、通訳兼相棒の新米回復士と一緒ずてツートな無詠唱魔で最強ば目指す~【角川S文庫より書籍化】》イッグ・ケッテキタネシ(おかえりなさい)

「一何の大行進なのよ、これ……」

これはなんの儀式なのだろう――レジーナは真剣に、今の狀況に至った経緯がわからなくなっていた。

レジーナたちは今、二十名ほどのマタギ連中をゾロゾロ引き連れながらミヒラの莊の道を歩いている。

マタギ連中は皆一様に強面で、しかも無口な人間が多いらしく、ただただ無言でレジーナたちを集団の中心にして歩いているだけだ。

村を挙げての大歓迎、というよりは、進軍、と言える々しい行進に、オーリンやイロハも凄く居心地の悪そうな表で黙々と歩いている。

暑苦しい、ただただ暑苦しい――秋口のからりと晴れ渡った空気がまるで梅雨時期に逆戻りしてしまったかのように、周りから漂う圧がただただ不快だった。

「勘弁してやって。この村の男どもはみんなこうなんだよ」

レジーナの隣を歩くユキオがレジーナに顔を寄せ、小聲で耳打ちしてきた。

と同時に、ユキオの腕がレジーナの肩に回り、元にユキオの左手が落ちてくる。

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あ、と思った瞬間、ユキオの指先がサワサワと、レジーナのをそれとなくまさぐり始めた。

「うわ、ちょ、ユキオ……!?」

「何しろ人間よりも獣の方が多いような土地だからね。これが心づくしの大歓迎だって真剣に思ってんだよ。全員甲斐なしだから全然気づいてないけどな」

「そ、そうじゃなくて! 左手! どっ、どこってんのよ……!」

「いいじゃないの同士だし。減るもんじゃないって言ってんだろ」

「人間の尊厳が減るわよ! ……ぅアッ――! ち、ちょっと……! ホントやめてったら! へっ、変な聲出ちゃったじゃない!」

「おーおー、この大きさだけでなく、凄く敏……。いいねぇアンタ、可いよ……」

ニヤ、とユキオが間近で笑顔を見せた。なまじ壯絶なほどの人であるがゆえに、その笑みには思わず同でも震えが來るほどの香をじてしまう。

ぽっ、と、恥なのかなんなのかわからないに思わず頬が赤くなるのをじているレジーナの橫で、ユキオは気の毒そうな表で前をゆくマタギ連中を見た。

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「でも、みんな顔は怖いけど悪い奴らじゃない。別にアンタたちを煮て食おうなんて思ってないから安心してくれ。アンタたちは大切なお客さんだからな」

「ま、まぁそりゃわかるけど……幾ら何でもこれはちょっと……」

「悪いけどそれとなく合わせてやってちょうだい。あっちもあっちでもてなそうって必死だから」

「ちょ、またどこってんのよ! あっ、そこ、ダメッ……! そっ、そのり方はやめてったら……!」

「おお、そこの姉ちゃん、いいケツしてんな! 人間でなくて犬だったらよかったのによ!」

と突然、下品な野次がどこかから飛び、レジーナは聲のした方を見た。

そこには一匹の白犬がおり、こちらを見て舌を出し、尾をぶんぶんと振っているだけで、それらしい聲を発するような人間はいない。

誰もそこにはいないというのに――犬以外、誰もいない場所から再び下卑た聲が上がった。

「おい姉ちゃん、後で俺とご一緒しねぇかい! アンタの投げたボールならオールナイトで俺が拾ってきてやるぞ! ガハハハハ!」

まさか――イナニワで一度見た景が脳裏に浮かんだ途端、ユキオが大聲を発した。

「人間相手に発すんな、犬の分際で! お客さんに手出したら去勢するぞ!」

「おー怖い怖い! 人間相手に腰振ってタマなしにされちゃあ敵わねぇやな、うはははは!!」

なんと――犬が口を利いているらしい。あまりにも常識的ではないその景に、レジーナだけでなく、イロハやオーリンもぎょっと目を見張った。

「お、おいユキオ! 今あの犬……!?」

「あん? 犬がどうした?」

「しゃ、喋ったではないか! 犬が人間の言葉を喋っておる! というか、今そなた、あの犬と會話を……!?」

「何を驚いてんだよ。口がついてりゃ犬だって喋るぐらい喋るだろ」

「そんな言葉で納得できるものか! わっ、私は初めて見たぞ……!」

「ああ、ヴリコ以外の人間は初めて見るのだろうな」

ユキオの隣をノシノシ歩いているギンシロウがそう言い、ユキオはからからと笑った。

「ヴリコの山の獣たちは皆一様に大きく、太古のままに生きている。古代のを引くヴリコの獣たちは生まれ持った霊が通常の獣よりも高いのだ。ことこのヴリコでは言葉を話せることは人間だけに限った話ではないと言えるな」

ということはつまり、ヴリコでは犬が喋る、ということだ。さっきイナニワで犬が口を利いたように思ったのは、間違いでも何でもなく、あの犬が喋っていたのだ。

ヴリコの犬は人間の言葉を話す――唖然呆然としているレジーナたちに、ギンシロウは嗜めるかのように再び言った。

「人間は知能の高さ低さだけで獣たちの優劣を決めがちだが、ここではそうではない。このヴリコでは全ての命は平等――優劣はないのだ。だから里の人間のように驕った人間はここにはおらぬ。全てが山の神の名(みな)の前に等しいのだ」

「ややや、參ったでぁ。この山はシラカミよりも凄ぇな――」

オーリンが半ば呆れたような口調でぼやいた。

人間と獣が平等――それは都會育ちのレジーナにとっては俄には信じがたいことのように思われた。

飼う側、飼われる側、にされる側、にする側の差がないのだとしたら、人間は一どうやって生きていけるというのだろう。

悶々とそんなことを考えて歩いているうちに、目の前が急に開けた気がして、レジーナは顔を上げた。

「さぁお客さんたち、著きましたよ!」

ユキオの父が強面を一杯の笑顔にして、何だか妙に甲高い聲を上げた。

著いたってどこに? レジーナが目線を上げると、なんだか妙なものがあった。

この山里にどうしてこれだけ瀟灑な建が、と首を傾げたくなるほど、真新しく、近代的な佇まいの建が、如何にも村の目玉でございというじで建てられている。

それを目の當たりにしてもそれがなんだかわからず、建の前に立った巨大な看板に描かれた力強い筆致の文字を、思わずレジーナは読み上げた。

「『ミヒラ溫泉 山立(ヤマダチ)の湯』――」

「この村の観溫泉だよ。この村もマタギだけじゃこの先食ってけないってんで建てたんだ。まぁお客さんなんか一人も來ないけどな」

ユキオが呆れたように説明し、再び耳元に口を寄せて小聲で耳打ちしてきた。

同時に、左手のいやらしいきも再開する。

「ア――! ま、またセクハラ……! ちょ、ユキオって……!」

「まぁ、もうわかってんだろうけれど、結構妙なものもあるからいちいち驚くなよ。どうしてもけ付けないってんなら私が止めるから、その時は言ってくれ」

「ぜ、全然頭にってこない……! ってこないから! ちょ、ホントにそのやらしい手つきはやめてったら……!」

絶えずまさぐられながらも、とりあえず今日は屋のあるところで寢られるらしいという安堵も湧いてきた。

ほっと一安心した瞬間、「ボス! お帰りなさいませ!」という、凄く野太い聲が上がり、レジーナは聲のした方を見た。

一目散に駆けてきたのは、複數頭の巨大なフェンリルの群れだった。皆ギンシロウほどではないが大きく、とりどりの並みがそれぞれの個を主張している。

ええっ、ボスって――!? と驚いているレジーナの前で、ギンシロウが集団から離れてフェンリルたちに歩み寄った。

「皆の衆、出迎えご苦労。私の不在の間、里に変わりはなかったか」

「異変なんて有り得ねぇですよボス! 何しろ、この里は俺たちヴリコの男たちがしっかり護ってんですから!」

まるでその筋の下っ端のような口調でおべんちゃらを口にしたのは、一匹の黒のフェンリルだ。

へへへ、と得意げに笑ったフェンリルを、別の赤のフェンリルがじろりと睨んだ。

「おいゲンジロウ。お前は何かあるとそうやってすぐ慢心する。悪い癖だぞ」

「おっと、こりゃいけねぇ! まーたマツジの兄貴のお小言が始まったぜ」

のフェンリルは人間のように首をすくめた。

「兄貴はなにかと説教臭くていけねぇや。俺がなにか言うとすぐに慢心慢心ってね。たまにゃあ冗談のひとつも言わせてくれよなぁ」

「そうマツジをからかってやるな、ゲンジロウ。お前は男たちの中で一番若いからマツジは何かと心配なんだ」

別のフェンリルが黒を嗜めた。まるで漫才のようにやいのやいの盛り上がっているフェンリルたちは、どんな人間よりも人間臭いやり取りをしばらく続け、その後レジーナたちに気がついたようだった。

「ボス、この人間たちは……?」

「ああ、山で拾ったのだ。赤梵天の手下に襲われたところを私が助けた」

「へぇ、ってことは村にお客さん! 珍しいなぁ!」

のフェンリルがじろじろとレジーナたちを見つめる。なんとなく居心地の悪いものをじた時、「こら、お行儀が悪いぞ」というユキオの聲が黒を叱った。

「ユキオの姉貴、だって珍しいじゃねぇですかい! こんな辺鄙な場所にお客さんだなんて。雪が降るにゃあまだ早ぇですぜ!」

「お客さんぐらい來る時は來るさ。……さぁアンタたち、あんまりジロジロ見てないでお客さんに自己紹介ぐらいしなよ」

その聲に、どうやら六頭いるらしいフェンリルが反応した。パッと立ち上がって一直線に整列したフェンリルたちは、驚いているレジーナたちに向かってしだけ頭を垂れた。

「マツジ」

「トキユキだ」

「キンゾウと申します」

「俺はトミジ」

「マサタケ。よろしく」

「あっしはゲンジロウ! 以後お見知りおかれましてよろしゅう!」

極道の舎弟のような格好で、それぞれのフェンリルが自己紹介をした。今までフェンリル相手にこれだけ丁寧な接遇をけたことがないレジーナたちは當然驚き、思わず気後れした。

気後れしたまま視線を差させているレジーナたちに、ユキオが振り返って説明した。

「お客さんたち、覚えときな。こいつらがこの山の『男たち』――ミヒラの莊を護る戦士たちだよ」

「たげおもしぇ」

「続きば気になる」

「まっとまっと読まへ」

そう思らさっていただげるんだば、下方の星コ(★★★★★)がら評価お願いするでばす。

まんつよろすぐお願いするす。

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