《【書籍化】外れスキル『目覚まし』、実は封印解除の能力でした。落ちこぼれの年は、眠りからさめた神達と優しい最強を目指す。【コミカライズ企畫進行中】》4-15:修行再開

僕らに屆いた神様の全メッセージは、『終末のはじまり』まで3週間と伝えた。

わからないことも、課題も、たくさんある。

でも結局のところ僕は一人の冒険者に過ぎなくて。だったらできることは決まっていた。

「はぁ!」

聲を放ち、短剣を振るう。

青水晶の短剣は、魔法文字(ルーン)の裝飾を翡翠に輝かせて、同じの軌跡を殘した。

相手は、3メートルはある巨

明の人型は腰の部分を深く切り裂かれ、膝から倒れていく。僕が後ろに跳んだタイミングで、うつ伏せに崩れた。

「グ、オオ……!」

倒れた巨は、輝きになって砕け散る。

僕は汗をぬぐった。敵の殘滓、の粒はすぐに見えなくなった。

床がうっすらと発し、天井全も白々と僕らを照らしている。部屋全を明るさが満たして、の中を泳いでいるみたいだった。

「ふぅ……」

辺りを見回す。

広々とした空間で、仲間も僕と同じように戦っていた。相手は半明の人型で、大きさは僕のと同じ3メートルくらい。

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ミアさんは剣を持った巨人、フェリクスさんは斧を持った巨人とそれぞれ相対している。やがて、2人が同時にいた。

お互い20メートルは離れているけど、無意識に呼吸を合わせていたのかもしれない。

ミアさんとフェリクスさんは、ぴったり同じタイミングで鎖斧と魔法を繰り出す。

には炎弾、もう一には斧の重撃。敵はになって砕けた。2人は顔を見合わせて口の端を上げる。ちょっと前までぶつかってたのが噓みたい。

「ふふ」

口元が緩む。

やがて、上から神様が降りてきた。

「見事だ、リオン」

ソラーナがほほ笑む。

僕も笑い返して、ちょっと僕ら自の『変化』をじた。

ここは迷宮の最下層。

し前まで魔力を押さえつける封印が強くて、神様だって短い間しか出てこれなかった。

今は違う。ソラーナが『太の目覚めの』を使い、そしてヘイムダルが<目覚まし>の力を高めている。

もう、神様達は迷宮であっても本來の力を振るえた。

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おかげで今のような修行ができる。

僕は改めて高い天井を見上げた。

「これが、神の力――」

白々としたが、揺らぐことなく、均等に降り注いでくる。

休憩に水筒をあおった。しこぼれた水滴が、容の表面でキラキラした。

ソラーナが言う。

「リオン、次へ行くか?」

「うん!」

床面からの粒が湧き出た。それらはやがて集まり、3メートルほどの人型を作り出す。

サイズとしては中型魔くらい。オークとかと同じだけど、現れた姿はそれよりよほど悍だ。

皮を組み合わせた鎧に、武は剣、頭には木を編んだ頭冠をはめている。は筋質で引き締まっていた。

神話時代に存在した、巨人の一種類らしい。

アルヴィースの鉱山にいた炎の巨人と比べると、こちらはかなり小さい。おそらく、炎の巨人の腰くらいの高さしかないだろう。

でも、強さは侮れない。

そもそも僕からすると圧倒的に大きいし、しっかりと剣技も使ってくる。神話時代、迷宮にって人間を倒していったのは、こういう比較的小さい巨人のようだった。

「『巨人兵』という」

明の巨は、まだ向かってこない。

じゃなくて魔力で作られた幻影――そうとわかっていても、威圧は半端じゃなかった。

ソラーナがふわりと浮き上がって指を立てる。

「神々の記憶を、この場の神現化させている。これなら君たちは、あちこちの迷宮に挑まなくても、神話時代の魔と戦うことができる」

僕は顎を引いた。じっと汗でが出てくる。

角笛にいるヘイムダルも、僕の鍛錬を優先してか、今は口を閉じていた。

「対策ってことだね」

「ああ。ユミールは、多くの迷宮で封印を緩めた。このような當時の兵も出てくるだろう」

頭を過ぎるのは、角笛を吹いた時に見た景。巨大な狼や、スコルを思わせる魔が迷宮から外へ出ていた。

どれくらいが神様の反撃を逃れてユミールのところへ向かえたかは、まだ分からない。でも敵は確実に戦力を強化した。

ソラーナは金の目をきらめかせる。

「そこで、わたし達の出番だ。神話時代の警戒すべき魔を、この場で再現する。君の言うとおり、対策ということだ」

「……うん!」

よし、休憩は終わり。

また巨人兵に挑み、今回も素早さで翻弄しよう。

後ろに回り込んでから背中を駆けあがり、鎧のない首筋を切り裂く。ソラーナが手を叩いて勵ましてくれた。

「グオ……」

きを殘して、半明の巨人兵が倒れた。カランと転がった剣もしっかりの粒に戻る。

「うむ! すごいぞ、リオン!」

ソラーナがまっ正面から褒めてくれて、し恥ずかしい……。

それに、やっぱり『神』ってすごいと思う。僕は呟いてしまった。

「そ、それにしてもさ。ユグドラシルの水鏡ってなんでもできるんだね」

『ユグドラシルの水鏡』。

僕らが修行に使っているのは、以前、アルヴィースやフローシアとの連絡で使った神だった。

ここ、実は王都の西ダンジョン。

最奧にある神は、で王國の地図を描き出し、指定した地點(ポイント)と會話ができる神話時代の連絡道だった。

神様は今それを、修行のために使っている。

で何かを形作る』という機能を、魔の再現に活用しているんだ。

「うむ。こればかりはさすがロキ、そしてアルヴィースの小人達だ」

ソラーナも、なぜか得意げだった。

會話をしている間に、神が次の相手を形作る。

鎖に繋がれた鉄球を振り回す、いかにも厄介そうな巨人兵だった。

「ガァ!」

投じられる鉄塊。

ちなみに當たると、死にはしないけど、ものすごい度の魔力を浴びて気絶してしまうらしい。

そんなの嫌なので、僕は姿勢を低くした。鉄球の下を潛り抜ける。ブオンと頭上を過ぎる風が、本並みに恐ろしい。

じゃら、と鎖の音。

「うわっ」

敵が鎖を引き寄せていた。鉄球が真後ろから襲ってくる。

僕は左へ跳んで回避し、そのまま右手をついて前へ転がった。敵による踏みつけを、さらに左へ跳んでやり過ごす。

敵を見るんだ。

目を逸らさずに。

覚悟を決めて向き合えば、どんな攻撃だって今の速さなら……!

「目覚ましっ」

右籠手のクリスタルに宿った水の霊(ウンディーネ)に目を覚ましてもらう。

人魚型の霊が僕の目の前に現れた。

水筒の蓋を外すと、霊は小さな水弾を生み出し、巨人兵の顔に命中させる。

敵が頭を庇った。

スキルを発――<狩神の加護>、『狩人の歩法』。

気配を消して死角にり、鎧のない脇腹に潛り込む。

「起きてっ」

今度は風の霊(シルフ)。

「わんっ」

至近距離から、短剣にまとった風の刃を叩きつける。

巨人が上下に両斷された。上半が地面に落ちる瞬間、となって消えていく。

僕は汗を拭った。

「……々な兵がいたんだね」

ソラーナは、うむと頷く。

「魔力というのは、想像の力。『想いが像をなす力』だ」

想いが像をなす――ふと、ルゥの『創造の力』を思い出してしまった。

「ユグドラシルの水鏡は、ユグドラシルという世界樹――魔力で織られた樹を活用している。そして世界樹は、魔力としてかつて存在した記憶や思いを貯めている」

ソラーナは手を広げて、広大な空間を示した。

「ユグドラシルと繋がっているこの神なら、人や神々の記憶を辿り、かつての魔に『像をなさせる』ことが可能というわけだ。『創造の力』ではないから、実はなく、すぐに霧散してしまうがね」

「う、うん……」

目をぱちぱちして、口元がひくついた。すごく大事なことを言っているような気がしたけど、ごめんなさい、後半ちょっとわかんなかった……。

やっぱり僕、魔法の才能ってあんまりないのかな。

遠くから大聲が響いてきて、僕はびくっとした。

「おらぁ!」

ミアさんが巨人兵を吹き飛ばす。フローシアから戻って、パワーがさらに上がったように思う。

杖を振るフェリクスさんも、危なげなくすれ違った巨人を氷漬けにした。戦いながら、火や氷、巖、あるいは雷、どれが効果的なのかを試しているみたい。

パーティーみんなが強くなっている。そんな予がした。

他の戦士団や、神殿を守ってもらう冒険者がいたら、同じようにこの場を利用してもらうつもりでいる。

「……みんなも、すごいね」

「うむ!」

ソラーナが首肯する。

「わたし達もできる限りの準備をしよう! そして、ユミールを神殿で迎え撃つ」

顎を引くけど、ちらっと疑問が過ぎった。

どうして……あの戦いから3(・)週(・)間(・)なんだろう? ずいぶんはっきりした區切りだけど。

戦士団の人がやってきて、思考が中斷した。

「リオンさん! ここにいらっしゃいましたか」

僕を見つけて駆け寄ってくる。

「お客人ですよ」

「……え、僕に?」

「はい。あなたに、ぜひお會いしたいと」

誰だろう、と首を傾げながら僕は迷宮の訓練所を後にした。

お読みいただきありがとうございます。

次回更新は8月27日(土)の予定です。

(1日、間が空きます)

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