《【書籍化】外れスキル『目覚まし』、実は封印解除の能力でした。落ちこぼれの年は、眠りからさめた神達と優しい最強を目指す。【コミカライズ企畫進行中】》4-17:サフィの気持ち

小人のサフィは、人間に比べて壽命が長い。

見た目は5、6歳のなのだが、その數倍はおろか、十數倍は長生きしている。

そんな長い経験が教えるのは、時間とはいつも同じように流れるものではなくて、急に早くなったり、ゆったりしていたり、じ方が変わるということ。

サフィは思う。

最近は、明らかに時間が早く過ぎている。

「くっしゅん!」

サフィは小さくくしゃみをした。靜まり返った聖堂に、音は妙に大きく響いてしまう。

聖堂の2階から、誰かに聞かれていないか確認した。どうやら自分以外誰も建にはいないようで、ほっとする。

今日中に、この聖堂にも防衛用の魔法文字(ルーン)を刻まなければならない。

「突貫工事、よね……と!」

王都が魔の襲撃をけてから、7日が経過しようとしていた。

やるべきことは山積みだ。サフィはリオンの妹――ルイシアを守るため、拠點のあちこちに仕掛けを施している。故郷の小人の國(アールヴヘイム)から援軍が來てくれたのも助かった。

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人手が増えたし、優れた鍛冶師たるサフィは、より重要なポイントに集中できる。

「よし……と!」

サフィは金鎚で、仕上に壁を一回叩く。魔法文字(ルーン)が浮かび上がり、聖堂の壁は鋼鉄並みの固さを手にれた。

「ま、ここまで敵が攻めてきたらかな~りヤバい狀況だけど……念には念をれて、ね。頼むわよ」

サフィは刻んだ文字に話しかける。

意思があるはずもないが、一種の願掛けだった。

さて、次は。

思った時、外から気合のった聲がした。

「はぁ!」

思わずびくっと肩を揺らしてしまう。サフィは聖堂2階の窓を開けて、訓練所を見下ろした。

城壁の中は狹いため、施設同士の間隔が狹い。そのため、窓のすぐ下は訓練所なのだった。

やはり、戦っているのはリオン。

相手は筋骨隆々とした巨を荒布に包んだ、トール神。

赤髪が風になびき、ばっと威圧的に広がる。自分なら前に立っただけで腰を抜かしてしまうかもしれない。

「……やってるわね~」

真剣勝負。

リオンは短剣を握りしめ、すでに息は切れて、中に傷。

相手は――

「いくぞぉ!」

旋回する鎚。リオンは景気よく吹き飛ばされ、壁際の薪山に激突した。まるでソファに深く腰掛けたように、リオンは薪に埋もれている。

サフィは思わず目を覆ってしまった。

トール神は、笑いかける。

「どうした?」

どうしたじゃないだろ、本気すぎるでしょ、などと思うがもちろん屆かない。

リオンもリオンで立ち上がった。

「ちょっと、目が覚めました」

リオンは薪の山から出して、剣を構えなおす。回復スキルはあるだろうに、傷を治す様子はない。

「……ギリギリの戦いに、追い込んでいるってことかな」

激戦を潛り抜けて、リオンはものすごくレベルが上がっている。それを追い込むことができるのは、究極の実力者――すなわち神しかいないのかもしれない。

サフィはほうっと息をつく。

ヘイムダル神が仲間に加わってからというもの、神様の活は増えていた。

狩神ウルは周辺の生きを使って、怪しいきがないかを偵察。

ロキはユミールの力について調べている。これが一番重要で、なぜならユミールがどう王都を攻めるか、そして街に大型魔を送り込んだ魔法はなんなのか、未だにわかっていないのだ。

そして、薬神シグリスは神達にポーションの作り方を指導している。

まさしく、神話のやり直しだ。

そしていうなれば、リオンは――もう『英雄』と呼んでもいいだろう。サフィにとっては、ずっと前から、小人の國(アールヴヘイム)で助けに駆け付けてくれた時からそうだったが。

――信じてる!

そう言って、リオンはサフィが本當に苦しい時、炎骨スルトに立ちふさがった。迷う仲間を説得して。

黒小人(ドヴェルグ)は魔に近い。そんな偏見が神話時代にもあった。サフィ自でさえ、黒小人(ドヴェルグ)の自分を誰かが助けてくれる可能を、見限っていた。

でも、彼は信じてくれた。

「――あ」

かぁ、と頬が赤くなる。

まずいぞ、とサフィは思った。

作業が終わったのに、これでは表に出れない。しばらく2階に隠れて、赤面が収まるのを待つしかなかった。

「……まずったよなぁ」

伊達に長生きしていない。

サフィは、自分がリオンを好いていると気づいていた。

けれども――きっと、この気持ちはどうにもならない。だから、最初から失敗していたということなのだ。

サフィは指を一つ立てる。

「そもそも、好きになったことが間違いなの。種族も違う。壽命も違う。なんだって――」

を、太が過ぎる。

きゅっと心が切なくなった時、サフィは階段を誰かが上がってくる音を聞いた。

「サフィ殿……?」

それは、アールヴヘイムからサフィが連れてきた弟子だった。

顔立ちは、人間でいえば40代。そのもののサフィとは親子のようにも見えるが、サフィが師匠で、この小人が弟子である。

そして、今は『サフィ組』と呼ばれている小人技師集団の、副リーダーとでもいうべき黒小人(ドヴェルグ)だった。

「あら、なに?」

「外側の魔法文字(ルーン)の設定も終わりましたので」

「ありがとう。助かるわ」

にっと笑ったところで、また外から大音がした。

サフィは慌てて窓に寄る。どうやら地面に金鎚(ミョルニル)が打ち付けられたようだ。

煙が晴れてくる。土を穿った大鎚から、リオンは逃げおおせたようだった。

「……よかった」

「リオン殿ですか?」

心臓が飛び跳ねた。

黒小人を睨むと、目を逸らされる。

「……その、先ほどから、窓をじっとみてらしたようで」

下の吹き抜けから見えるんです、と言い訳がましく言ってきた。

「見てたの」

「はい。まぁ、サフィ殿がああいう顔をするときは、誰を見ているのか、だいたいわかります」

小人は苦笑して見せた。

「……よいのでは、ないですか」

「なにがよ」

「あっしらは鍛冶師。鉄打ちです。サフィ殿、老婆心であなた様に言わせてもらえれば……あなた様は真っ赤な鉄を、無理やり冷まそうとしているように見えます」

サフィはを尖らせて黙っていた。

「……あっしらは長く生きます。気持ちを伝え損ねると、後々がとても辛い。これがあっしの老婆心です」

そこまで言い切ると、黒小人は何度も頭を下げて、サフィの前を去る。

聖堂は靜かになった。

窓から聞こえた鍛錬の音も止んでいる。

サフィが下を覗き込むと、リオンはひと段落して、休憩しているみたいだった。

――このまま、気持ちを隠してしまえ。

ひとまずは、そう決意する。でもリオンが鍛錬をしていたのは本當で、なら、裝備の一つでも修理が要るほど痛んでいるかもしれない。

――聲くらい、かけてやろうか。

それくらいの思いで、そして本當の気持ちを理のハンマーでガンガン押しつぶして、サフィは聖堂を出た。

こんな時でも、春の風は花の匂いがする。

お読みいただきありがとうございます。

次回更新は8月30日(火)の予定です。

(1日、間が空きます)

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