《【書籍化】外れスキル『目覚まし』、実は封印解除の能力でした。落ちこぼれの年は、眠りからさめた神達と優しい最強を目指す。【コミカライズ企畫進行中】》4-20:逢引
どうして、こういうことになったのだろう?
僕は朝からルゥに呼び出されて、大塔の一室で座らされていた。
部屋には、僕と妹の2人きり。いつも持っている金貨からも、神様みんなが追い出されていた。
僕の前には機。そこに、王都の地図が広げられている。ルゥは機を挾んだ正面に立ち、難しい顔で腕を組んでいた。
「……いい、お兄ちゃん?」
空の目がこっちを見る。僕は、妹の瞳にメラメラと燃える何かを見た。
「決戦だよ。今日、ついにお兄ちゃんに決戦が來たんだよ」
「え、ええ……? ユミールとの戦いは――」
「そっちじゃなくて! ソラーナ様と、デートするんでしょっ!」
僕は顔が一気に熱くなった。妹の前でけないと思うけど。
「そ、それなんだけどさ」
しどろもどろの僕。
「張り切りすぎるのも、よくない気がするよ。みんな戦いに備えて鍛錬してるのに、僕だけ街に行くなんて……それに」
僕はルゥを見上げる。
「る、ルゥだって、魔力の練習で忙しいはずでしょ?」
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「全然いいよ! 問題ないよ! むしろ待ってたよ!」
目はこれ以上ないくらいキラキラしていた。
「お兄ちゃんとソラーナ様、ずっと応援しようと思ってたもの! まさか今まで、こういうことなかったって方に驚いたけど――」
後半は、ちょっと小聲だった。
ていうか、ソラーナって神様だし……。
「とにかく聞いて」
ルゥはごほんと咳払い。
「これ、王都の地図」
「わかるけど」
「見て」
「はい……」
起こし屋の仕事で頭にってます、なんて言えそうもない。ルゥは真剣な面持ちで、北側の城門を指した。
「昨日話したとおり、スタートはここから。戦士団の馬車で送ってくれるよ!」
妹は拳を二つ作って勢い込んだ。
ルゥ、病気がよくなってから押しが強くなったよね……。
口の端が引きつる。
――気持ち、はっきりさせよう。
そう意気込んだ昨日だけど、じわじわと心にしみ込むみたいに、迷いがやってきた。
どうしても『こんなことで悩んでる場合なんだろうか?』という気持ちがぬぐえない。
『あの子』が言わなければ、デート――ルゥに言わせればだけど――は実現しなかっただろう。
――街のオーディス神殿にも、魔法文字(ルーン)の仕掛けをいくつか置いた。
――ちゃんといているか、神様と見てきてくれない?
そう言ったのは、サフィだった。
小人の鍛冶屋さんは、僕とソラーナに王都へ行く口実を與えてくれていた。
……昨日のサフィの橫顔が、頭を過ぎる。気持ち、気づけなかった。こういう形で背中を押してくれた仲間を、むげにしたくない気持ちも、ある。
ということは、これ、やっぱりデートなんだろうか。
ルゥはにっこり笑う。
「最後は、とっておきの場所に案してあげて?」
頭の中を、神様の大人びた微笑が駆け抜けていった。また頬が熱い。
しっかりしろ、と僕は頭を振った。
「え、ええと。これから出発して、王都の中にれるのはお晝のちょっと後。ソラーナって、人間の食べを珍しがってたし、最初は市場を見る」
僕もきちんと考えてる。
訓練で疲れた頭を振り絞り、どういう場所がいいかイメージしてたんだ。
「ふふ、さすがお兄ちゃん!」
そうして僕とルゥが地図を囲んでわいわいやっていると、ドアがノックされた。
ってきたのは、神服の母さんだ。
「あら、リオン。今日はお出かけらしいわね」
母さんは微笑んだ。
僕が著ているのはいつもの冒険者の服にブーツだけど、籠手とかははめていない。持っていく裝備は短剣くらいだ。
母さんには雰囲気が違うとわかるんだろう。
……あと、念りに髪をとかしたりしたけどさ。
「こういうことしてて、いいのかな?」
母さんの前で、僕は口を尖らせた。
なんとなくみんなに楽しみを提供してるみたいで、むっとする面もある。
金貨から出ていく時、神様みんなニヤニヤしてた。
ミアさんの方が、よっぽど大人だって思う。何も言わずに雑用を手伝ってくれて、時間を空けるのに協力してくれたもの。
母さんは目を細める。
「リオンは、ソラーナ様とどうなりたいの?」
「どうって……」
改めて言われると……どうなんだろう。
神様と、信徒。その関係は出會ってからずっと同じだった。
ソラーナは僕にとって最初の神様で、冒険に連れ出してくれた恩人で、頼れる仲間。
そして、今はそれ以上に――。
「…………」
姿見には、頬をリンゴみたいにした僕が映っていた。
慌てて目を逸らす。
「み、みんな大変なのに、僕だけ……」
「いいのよ」
母さんは首を振った。
「今は、あなたの気持ちを大切になさい。自分の気持ちを大切にできないと、誰かを大切にすることもできないわよ」
母さんは僕の首筋から、糸くずを一つ取ってくれた。
「行ってきなさい。14歳の男の子がの子とデートしただけで滅んじゃう世界なら、きっともうとっくに滅んじゃってるわ」
「か、母さん!?」
オーディンの策略がはっきりわかってから、母さんも吹っ切れたみたいだった。時々、こういう大膽なことを言う。
不安でいるより、ずっといいと思うけどね。
なんだか、調子が狂いっぱなしだ。
確かに、一日くらいは街へ行って、気持ちを整えた方がいいんだろう。
……整うかどうか、ぜんぜん自信はないけど。
僕は姿見で髪や襟をチェックする。
ルゥと母さんへ振り返った。
「い、行ってきます」
「はい」
「頑張ってね!」
僕以上に気合をれるルゥに苦笑して、塔の階段を降りる。
馬車では、神様がすでに待っているはずだ。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は9月4日(日)の予定です。
(明日、所用があり、長引く場合は月曜日にしますが、おそらく大丈夫だと思います)
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