《【書籍化】外れスキル『目覚まし』、実は封印解除の能力でした。落ちこぼれの年は、眠りからさめた神達と優しい最強を目指す。【コミカライズ企畫進行中】》4-21:王都探訪
僕は塔を出て、中庭に止まっていた馬車に向かう。待っていた人に、僕は目を見張ってしまった。
「そ、ソラーナ……?」
神様は服が変わっていた。
いつもと違う青地のワンピース。丈は膝下まであって、大人びた印象になっていた。
日に艶めく金髪は、後頭部で軽く結われている。耳が見えるせいか、どこか溌溂としたじがした。
違うといえば、足元も。
普段、白い足は足なのだけれど、可らしい靴を履いていた。
「ど、どうか……? 神々みなに言われて、裝を調整したのだ。魔力でを象るから、最初は難しかったが――」
僕ははっとした。
神様がニヤニヤしてたのって、もしかして、ソラーナがお灑落してるのを知ってたから……?
「す、すごく、きれいだよ」
「そ、そうか」
ソラーナは花が咲いたように笑う。
金髪が春風にそよいで、僕の頭はぐるぐる煮え始めた。
頭の片隅で、神様に見えないようにする変裝の意味もあるって思う。けど、いつもと違う神様は、心臓を高鳴らせた。
者さんが咳払い。
「出しますよ」
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にやっと笑って言われてしまい、頷くことしかできなかった。
僕らは馬車に乗って、王都へ向かう。サフィから言われていた魔法文字(ルーン)の確認は、すぐに済んだ。
王都城門をくぐった後、馬車で神殿の前を通りかかり、そこでソラーナが魔力をじる。
「うむ、問題ない」
それで終わりだった。
後は――自由時間。サフィ、本當に、背中を押してくれてありがとう。
僕らは王都の北広場で馬車を降りた。
「ありがとうございます!」
お禮を言うと、者さんは手を上げて去っていった。
帰る時は夕方に同じ場所で拾ってもらう。
――しっかりしないと!
気合をれていると、ソラーナが目をキラキラさせていた。
「……すごいな!」
北広場は、市場になっていた。
味しい匂いを漂わせる屋臺に、床にシートをしいたお店屋さん。大勢の人が行きかっている。迷宮から魔がれ出して、街の中心では強大な魔も出たというのに、この市場はすごい活気だ。
金の瞳が僕を見上げる。
「リオン!」
ソラーナはいつも浮いてるから、見上げられるのって新鮮だ。
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僕は指を立てて得意がってみる。
「今日は、『春市』が立つ日なんだよ」
春分から夏至の間まで、王都にはそういう市場が立つ。
「冬が終わって商いが活発になるのが春だから、毎年、この季節の市場は盛り上がるんだ」
「詳しいな。さすがだ」
「ふふ。王都は、ずっと駆け回っていたから」
あと、王都の北へ來たのはもう一つ理由がある。
東や西と比べて、僕が起こし屋で駆け回った回數がないことだ。表向きは『王都を出た』と言っているから、知り合いに會ったら説明にし困ってしまう。
ちらっと神様を見る。
「……いいのかな」
みんな、決戦準備で大変なのに。
それにデートくらいであたふたしてしまう僕が、神様にこんな気持ちを抱くなんて。
他の神様も、ルゥも、つり合いがとれないとか思わないんだろうか。
悩みそうになったけれど、ソラーナが手を引いた。
「い、いこうっ。わたしは全部楽しみだ!」
「……うん!」
神様にとって、市場は寶石箱のようなものだった。し前は人間の食べを口にしたことさえなかったのだもの。
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お店で商品を見て、買うかどうか迷ったり。屋臺でリンゴのお菓子を買って、2人で食べたり。
ルゥが元気な頃に市場へ行ったことを思い出す。
ソラーナの大の笑顔は、ルゥと出歩くのと違って、僕のを時々熱くさせた。
2人で出店を見ていると、店主さんがにかっと笑う。
「おや、年。彼さんに、このブローチをどうです?」
「か、かの……!」
真っ赤になると僕と、きょとんとするソラーナ。
店主さんは高らかに笑った。
「これは、彼さんの方がしっかりしていらっしゃる。贈りにいかがです?」
流されるように、僕はブローチを買ってしまった。
ソラーナは嬉しそうに飾りを空にかざし、早速つけてみてくれる。いつものワンピースにも金刺繍がっていたし、きらびやかなものも好きなのだと思う。
「ありがとう、リオン」
「うん」
やっぱり、僕はペースがれっぱなし。今も頭がグルグルしている。
でも使命とか作戦とか、そういうのを抜きにソラーナと街を歩くのは楽しかった。
楽しむ僕が本當なのか。
『こんなことするべきじゃない』って警告する僕が本音なのか。
自分でもわからなくなっていた。
僕は足を止める。市場の奧から悲鳴が響いてきた。
「誰か!」
び聲に、僕はソラーナの前へ出る。
「……ソラーナ。僕の後ろに」
「君を守れるが」
「今は、後ろに」
ソラーナはちょっと目を見開いて、頷いた。
「う、うん。承知した」
<狩神の加護>、『野生の心』。
誰かが人混みをかき分けて、こっちへ走ってくる。
數は3人だ。息が荒くて、小さく悪態も聞こえる。
「捕まえてくれぇ!」
「店のものを盜んだんだ!」
「一番高い――寶石だ!」
狀況が確定する。
僕を跳ね飛ばそうとばかりに、先頭の男が加速した。王都には、『英雄』をめざす冒険者が集まっている。そうして集まった人には、こうした問題のある冒険者だっているのだろう。
「どけぇ、ガキ!」
先頭の冒険者はこっちへ手をばした。
僕はをひねって回避する。
「はっ」
ばされた腕を右手で引っ張る。が泳いだところに、足をかけて転倒させる。
仲間が僕へんでいた。
「てめぇ!」
仲間2人が、まとめて黃金のに吹き飛ばされる。冒険者は壁に打ち付けられていた。
ソラーナが片手を前に出したまま、ぽかんと言う。
「しまった……つい」
人々の目が點になっている。
そりゃ、こんな子供が冒険者を3人も倒したら、目を引くよね。
ちらりと倒した冒険者を確認する。起き上がってくる気配はない。
僕は頬をかいて言った。
「後は、衛兵さんを呼んでください!」
僕はソラーナの手を握って、市場の別の區畫へ駆けた。
あのじじゃ、駆け付けた衛兵さんにあれこれ聞かれて、數時間は放してもらえなくなるだろう。
走りながらソラーナを振り返る。
「ご、ごめん」
「なぜ謝る?」
「だって……うまく、デートっぽくできないから」
「かまわない」
金髪を弾ませて、神様はにっこりした。
「わたしは、君といるのが楽しい」
その言葉が、ずっと心にあった々な重さを、ふっと解き放ってくれて。
流れで握った手は、しばらく繋いだままだった。
◆
時間は、あっという間に過ぎ去った。
僕達はまた街巡りを再開する。
ソラーナはやっぱり、ブローチとか、人間の食べとか、そうしたものすべてが珍しいみたい。
神話時代でも信徒とはあまり関われなかったようだ。だからこうした市場の何もかもが、ソラーナにとって初めてなんだろう。
僕は『起こし屋』時代の土地勘で、市場以外にもあちこちにソラーナを連れ歩いた。
運河、水車、お灑落なお店、そんな場所に神様の手を引いて案していく。手をつなぐって恥ずかしいけど、心の距離がまる。
そして、夕焼けの時間が來た。
「ソラーナ、こっちだよ」
僕は神様を最後の場所に案する。
起こし屋をやっている僕ぐらいしか知らない、特別な場所だった。
城壁に近い建を登っていく。
5階建ての塔だ。
この辺りでは一番高い。
かつては鐘を鳴らす所だったのだけど、鐘が外されて以來、ただ高くて気持ちがいいだけの場所になっていた。
屋上はあまり人も來ない、ちょっとしたの場所。
階段を上り切ると、ソラーナは目を見張る。
「わぁ……!」
夕日が空を染めていた。朝日が昇る場面も好きだけど、いっぱいき回った後の夕焼けも、同じくらい素敵だと思う。
僕とソラーナは、手すりから景を見つめた。
城壁の中に広がる街並み。
無數の屋は夕日に染まっている。煙突からは、だんだんと白い煙の數が増えていく。みんな、夕食の準備にかかっているんだろう。
ソラーナが僕へ振り向いた。
「リオン、今日はありがとう」
僕は微笑んだ。
「ううん。僕も楽しかった」
會話が途切れると、妙に風の音が気にかかる。
両方同時に口を開きかけて、一緒に口をつぐんだ。
空はゆっくりと夜へ切り替わっていく。僕らは夕日を頬にけていた。
「……リオン、わたしは」
「僕は」
言葉が重なる。
2人でちょっと笑ってから、僕は言った。
「ソラーナ。僕は君のことが好きだ」
多分、普通な、真っすぐな告白。
言葉には気持ちが自然に乗って、僕は微笑んでいた。
ソラーナが金の目を細める。くすぐったそうな、嬉しそうな、初めてみせる表。
「うん。わたしも好きだ」
今日、初めて一緒に街を回った。でも、それより前から変化は起こっていたと思う。
ソラーナはに手を當てた。
「……最初に會った時」
ソラーナは目を伏せる。長いまつげが夕日を浴びて、かすかにっていた。
「実のところ、不安が強かった。世界は、封印によって、わたしが知っていた頃とは本から変わってしまっていた」
けれど、とソラーナは僕を見た。
「君がわたしをけれてくれた。信徒として、誓いを立てて――あの時に出會えたのが君でなければ、何もかもが今とは違っていた」
ソラーナは目を細める。
「ありがとう。あの時、わたしをけれてくれたのには――おそらく勇気も要っただろう」
神様の金の瞳と目が合った。
ここで聲が震えちゃ、だめだ。
「僕も、ソラーナと會えてよかった」
視線が重なって、が熱くなって、僕はどうしていいかわからなくなって――神様の手を引くと、抱き寄せる形になった。どっちのも太みたいに暖かい。
神様の言葉が、金髪といっしょに頬をなでる。
「――わたしにも誓いを立てさせてほしい」
「誓い?」
「ああ。君が私に『優しい最強』を誓ったように」
ソラーナはしを離し、まっすぐに僕を見る。
「君と、どのような時にも、私は共にある。どんな時でも、君を必ず救いに行く」
それは、これからの戦いを見據えた言葉だろう。僕達はユミールとの戦いを乗り越えて、世界を守らないといけない。
そうでなければどんな未來だってやってこないのだから。
「僕も、みんなを――神様を守れるように、強くなるよ。ずっと、もっと」
頬がれ合いそうな距離で、ソラーナが小さく笑う。
「溫かいな」
「うん……」
「やはり、君のは、溫かく優しい」
溫かいどころか――なくとも僕のは、めちゃくちゃに熱くなっていると思う。意地でも、張が悟られないようにするけど。
涼しい風が頬を冷やす。
空気の揺らめきの中に不吉な気配をじて、僕はをこわばらせた。
神様も肩を震わせる。
「……聞こえたか」
「うん」
夜風にじって遠くから何かが――吠え聲のようなものが、聞こえてきたんだ。
互いのを放し合う。
神様が塔の手すりにを乗り出した。
「……魔力のこもった遠吠えだ」
僕は顎を引いて、遠吠えが聞こえた空を見つめる。まだしだけ、夕焼けの赤さが殘っていた。
「西からだね」
普通じゃない遠吠えに、街もざわついてる。
ふとを過ぎったのは、復活した魔に巨大な狼がいたこと。確かフェンリルと呼ばれていただろうか。
ソラーナが顎に手を當てた。
「ひどく遠い。だが、魔だとすれば、わざわざ位置を知らすとは……どういう意思だ?」
「西……か」
「どうした?」
「いや、『の夕焼け』と同じ方向だなって思って……」
父さんが死んだ戦いの場所。
閃きが走る。
「王都の戦いのとき、ユミールがいた場所って……確かダンジョン跡の可能が高いんだよね?」
『の夕焼け』が起きた場所も、かつてのダンジョン跡だ。
敵について調べないといけないことはたくさんある。
今、どこにいるのか。
どうやって王都の空に、空間を突き破るようにして魔を送り込んだのか。
僕は湧き上がる考えを話した。
「の夕焼けの迷宮跡なら、普通のダンジョンじゃない。大勢が隠れられる。地下には、神様の連絡裝置だってあるはずだよね?」
「『ユグドラシルの水鏡』か……あるだろう」
條件は揃ってる。敵は王都の戦いで、『ユグドラシルの水鏡』を悪用したのだから。
僕らは頷きあった。
「王都の戦いの時、ユミールが隠れていた場所かも……!」
「調べてみる必要はありそうだな」
西、父さんが死んだ、の夕焼けが起きた場所。そこは目覚ましの角笛(ギャラルホルン)が発見された場所でもある。
頭を振って意識を切り替える。
戦いに、戻ろう。
敵が使っていた拠點には、戦いに勝利する手がかりがあるかもしれない。
「ソラーナ」
神様に手を差し出す。
「ああ、いこう!」
僕とソラーナは手をつなぎ合って、塔を降りる階段へ向けて走った。
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次回更新は9月6日(火)の予定です。
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