《【書籍化決定】読家、日々是好日〜慎ましく、天無に後宮を駆け抜けます〜》室と火の玉.4
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明渓は寢ぼけ眼(まなこ)をりながら、闇を見つめている。眠いわけではない。寢起きなのだ。
「いいよな。お前は晝寢ができて」
欠をしながら春蕾が愚癡る。
時刻は日付が変わる頃。明渓達は法殿の裏にある置小屋の窓から目だけ出して火の玉が出るのを、今か今かと待っていた。
「寢てたんだから、見張りはお前がしろ」
春蕾は窓から離れると、置小屋の中央に置いた火鉢の橫に藁を敷きごろりと橫になった。それでも刀を手元に置いているのだから、やはり武だ。
(私も好んで、火の玉の謎を解いている訳ではないのだけれど)
そうは思うが、寢ていたのは確かなので仕方ない。その間も春蕾は武として警護にあたっていたと言われれば、返す言葉がない。
仏殿を出て山門も調べ、青周と別れ部屋に戻るとまた白蓮がいた。今度はそれを容赦なく叩き起こし、部屋から放り出すと布団をパタパタと叩いたあと一眠りした。先程起きて夕飯を食べて、調は萬全、準備萬端でここにいる。
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(をかすのは久しぶりだなぁ)
ちょっと腕をぶんぶん回して準備運をしていると、置小屋の扉がいきなり開いた。先に反応したのは寢ていた春蕾だ。がばっと勢いよく立ち上がると、剣を鞘から抜いて素早く構えた。遅れること一呼吸、明渓も模造刀を構える。が、すぐにそれをおろす。
「「青周様!!」」
慌てて跪く春蕾。明渓はつつ、と近付いて行く。
「どうされたのですか?」
「差しれだ」
出してきたのは瓢簞が三つ。中には酒がっている。懐紙に包まれているのは、餅を揚げ塩をまぶしたつまみだ。
「ありがとうございます」
當たり前のようにけ取る明渓。橫で春蕾がワタワタしながら小聲で囁く。
「おい、そんなに気軽に接して良いのか」
(そうか、いつの間にかこれが普通になっていた。あまり親しくすると、あらぬ誤解を生んでしまう)
「…………至極恐にございます」
改めて、深く頭を下げて瓢簞を頭上で掲げてみると、青周の呆れたため息が聞こえた。
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「急にどうした? 俺とお前の仲だろう?」
「「!!!」」
ひぃっと春蕾が息を吸う音がして、明渓は慌てて首を振る。
「青周様の冗談よ!」
「青周様は冗談を言われるのか!?」
それはそれでびっくりだと目を丸くする春蕾に向かって、明渓は肯定するように何度も頷いた。
に誤解を広めるのはやめてもらいたい。本當、取り返しのつかないことになりかねない。
そんなやり取りを橫目で見ていた青周が藁の上にどかりと座ったものだから、春蕾は何か敷がないかと今度は置を探し始める。
「気にするな、これで良い。酒は飲むか?」
「はい、あ、えー、実は私、下戸でして。その……」
「明渓の従兄弟なのに下戸か。ならば見張りをしておれ」
「承知致しました」
春蕾はそそくさと窓際に行き、先程まで明渓が座っていた木箱に腰をかけた。明渓は、青周の向かいに座ろうとするも、青周が自分の橫に手拭いを敷きポンと叩いたので仕方なくそこに座る。誤解をされる行は本當に謹んで頂きたい。
「差しれはありがたいのですか、寒いですしお部屋に戻ってください」
「晝間首を突っ込んだからな、最後まで付き合う」
瓢簞の栓を抜き、ゴクゴクと呑む。その橫顔は晝間見た時より良い。
(一眠りしたのだろうか)
自分が惰眠を貪っていた隣で何があったかは考えないでおこう。それ以上は踏み込んではいけない。そう思い瓢簞を口に當てる。相変わらず味しい酒だった。酒を飲み揚げ持ちぱりぱりと食べ、しばし夜食を堪能する。
明渓がこれ以上は太るかな……と揚げ持ちにばした手を引っ込めた時だ。
「燈りが出たました」
春蕾が膝を付き青周に伝える。
「では行くか」
「青周様も行かれるのですか? 危ないです。私に任せてください」
「……俺を誰だと思っているのだ?」
フッと鼻で笑いながら明渓を見下ろす。軍部でも屈指の剣豪にそう言われては、しがない侍の明渓は引き下がるしかない。
春蕾がさらに深く頭を下げるのを見て、青周が発言を許した。
「青周様、私が先に參ります。どうかお怪我をなさいませんよう」
「うむ、分かった」
皇族が怪我をすれば一緒にいた武が責められる。ここは何としても無傷でいて貰わなければいけないと、春蕾の顔は張をしている。
春蕾、青周の順で、行燈さえ持たずに山道を登っていく。半分ほど登った頃だ、男達の聲が聞こえた。
「おい、まだ掘れないのか」
飛去來をくれた男が石垣にぽかんとあいたに向かってんでいる。大人一人が這って通れるぐらいの大きなだった。墓地は道より六尺ほど上にあり、橫は墓地の下をまっすぐ進みその下にたどり著く。裕福な家では墓に寶飾品や銭を一緒に埋葬する、男達はそれを狙っているのだ。自然薯を掘るふりをして隙をついて墓地へと続く橫を掘る。は石を詰めておけば元が石垣なので分からない。
今朝、明渓は「石垣の點検をする」と鎌をかけた。そう言えば、橫が見つかるかも知れないと危懼した男達が今夜必ずく。だからずっと見張っていたのだ。
「掘れた。墓まで辿り著いた!! 今から運び出すから見張っておけ」
の中から聲が聞こえる。
「そうか、良かっ……!!?」
見張りの男の肩を春蕾がぽんと叩く。男が振り返るなり、素早くその腹に拳をめり込ませる。ぐぼっと鈍いき聲を立てて男が蹲った。人が倒れる音がまで響いたのだろうか。ざざっと土がれる音がしてから別の男が顔を出した。しかし、何があったか確認するまでもなく青周の手刀が落とされ男は気を失った。
その頃、明渓はというと墓地をまっすぐ突き進んでいた。向かう場所は叔父の墓。辿り著くと地面にしゃがみ込み耳を地につける。何を言っているのか分からないけれど、話し聲が響いてきた。
(やっぱり目當てはここか)
話し聲が響くのであれば、地面の上にいる明渓の足音も響く。とりあえずその場で二度ほど跳ねて再び地面に耳を付けると今度は話し聲は聞こえなかった。反応はあったようだ。続けて數回跳ね、そのままわざと足跡を立てながら山道の方へと進んでいく。
まるで明渓に炙り出されたように男達はから顔を出す。出した途端に毆られ気絶する。あっと言う間に五人が捕まった。
「剣を振う間もなかったな」
青周がつまらなそうにつぶやく。
「つまんない」
石垣の上にしゃがみ込み、春蕾が縛り上げる男達を見下ろしながら明渓が不貞腐る。運するからいいかと、餅を結構食べたのにこれでは太るではないか、とぶつぶつ愚癡る。
「お前でもそんなことを気にするんだな」
青周が耳聡く愚癡を聞きつけにやりと笑う。
「多は。最近運不足ですので」
「ならば久々に俺が指南してやろう。それからとりあえず降りてこい」
両手をばす青周に冷たい視線を投げかける。
「退いてください。一人で飛び降りれます」
「暗くて足場がよく見えないだろう? 足を挫いてはいけない」
「……では片手だけ貸してください」
絶対引かない。それを知っている明渓は妥協案を出す。
仕方ないなと出された右手に、これまた仕方ないなと左手を重ね、ぽんと飛び降りた。
「墓地での火の玉は墓泥棒が持っていた燈りです。仏殿の火の玉については明るくなってからに致しましょう」
呆気なく捕まえた男達を春蕾に託し、二人は山道をおりて行った。
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