《【書籍化】外れスキル『目覚まし』、実は封印解除の能力でした。落ちこぼれの年は、眠りからさめた神達と優しい最強を目指す。【コミカライズ企畫進行中】》4-23:狼骨フェンリル

大狼(たいろう)。

そんな言葉が思い浮かんだ。

僕らはの底から、上層の足場に立つその魔を見上げる。

巨大な狼だ。

前足の長さだけで、ゆうに大人1人分の高さ。背中から地面までは、おそらく5メートルはあるはずだ。

凍り付くような青白いが全を覆い、真っ赤な口腔と牙の白さが異様に生々しい。

フェンリル――そう名乗った大狼は、ぎょろりと僕らを見渡す。瞳は、どこか月を思わせる金だ。

「私は、狼骨たちの長」

フェンリルの言葉は、縦にろうろうと響いた。

は、もう一いる。

大狼の背中から男が降りた。

つり上がった目と裂けた口は、かつて王都で戦った魔を思い出させる。

――狼骨スコル。

フェンリルの背から降りた男は、鎧に大鎚ではなく、荒布の裝束に杖を持っているけれど。

魔法使い、あるいは神。そんな印象だった。

男が名乗る。

「俺は、狼骨ハティ」

僕は素早くミアさんと目線をわす。赤髪をかいて、ミアさんは口を曲げていた。

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「ちっ。あの魔の親戚かね」

大狼フェンリルは遠吠えを放つ。

「どうした、私は名乗りましたぞ。神々よ、そして英雄よ。そちらの名乗りはまだか?」

達の目は、しっかりと僕に注がれている。

もうを張るしかない。

「僕は、リオンだ」

そして、と言いながら、僕は金貨を取り出す。

「目覚ましっ」

黃金のが飛び散った。

コインと角笛から、僕らに味方する神々みんなが顕現する。

にぃ、とフェンリルが目を細めた。

「なんと甘で懐かしい方々よ……」

ソラーナが僕らの右側に、ヘイムダルが左側に、それぞれ立つ。目覚ましの神様が剣を抜くと、刀を浴びてきらめいた。

の神様が近くにいて、目覚めの力も増している。

ヘイムダルは涼し気な目元で笑った。

「俺達の間に、名乗りはもう不要だろう?」

「くく。ええ、ええ、確かにそうでしょうとも」

フェンリルは大口を開けて、深く息を吐いた。周囲では土煙が巻きあがっている。

生臭さがこっちまでやってきそうだった。

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「フェンリル!」

僕は聲を張った。

「……王都で、僕らは西の遠吠えを聞いた!」

「あれは私のものです。あなた方をこの地に呼び寄せたのは、お聞きしたいことが2つあるため」

聲を降らせる大狼。

もう一人の魔――狼骨ハティが、フェンリルを守るように前に出た。

フェンリルはその後ろから、話し続ける。

「なぜ、戦うのです?」

一瞬、理解できない問いだった。

僕は答える。

「……決まってる。魔が世界を覆い盡くす、それが終末だろう?」

黙ってみているはずがない。

フェンリルはを鳴らした。

「そう、そうでしょう。ですが、あなた方はすでにオーディンの策略をも知っているはずだ」

僕らの間に警戒が走った。

達もオーディンの考えを知っているのかもしれない。『駆け引き』で、僕らの仕草から何かを探るため、あえて知っている振りをしている可能もあるけれど。

僕は視線を巡らせた。

オーディンの策略を魔達に話しているとしたら、『あの人』しか考えられない。

そして、その人は今もここに來ているかも。

「……ウル?」

小聲で呼びかけると、頭に聲が響いた。

――聞こえているよ、リオン。

――確かに、彼の気配がある。

狩神ウルは空中で弓を構えて、油斷なくフェンリル達をけん制している。

聲だけが頭に響いた

――他の魔の気配もね。

――どうも、周囲の生き達に、いけすかない何かが起きている。

敵が僕らを呼んだとしたなら、危険があるのは當然だ。

スキルで周辺を探知する。底にはいくつも橫が開いて、迷宮へ続いているようだ。そして、暗闇の先にはたくさんの赤い

達が放つ魔力が、ここからでもじ取れている。

ルゥが僕の背にれた。

「……お兄ちゃん」

囁くルゥに、僕は微笑んだ。

「平気。打ち合わせ通り、ヘイムダルがルゥを守ってくれる」

「……うん! お兄ちゃんも、気を付けて」

妹と言葉をわしている間に、魔ハティが、痺れを切らしたように杖で地面を突いていた。大が揺らぐ。周囲からパラパラと石が落ちてきた。

フェンリルが吠える。

「我々は狼骨! 狼は、群れをなす」

大狼は問うた。

「あなた方は強い群れだ。強い群れなら、弱い群れなど気にせず、新しい世界へ行けばいい。なぜそうしない?」

群れ――つまり、パーティーみたいな意味だろうか。

神々や、僕らは、どんどん強くなっている。

そしてオーディンは、神々と『英雄』と呼べるほど強い冒険者を連れて、新しい世界に移する計畫を立てている。

フェンリルは嘲るようにを鳴らした。

「あるのだろう? 強者には新しい巣(せかい)が」

僕は大狼を見返した。

「僕らは、そこへは行かない」

この世界を、ルゥや神様達と生きてきたこの世界を、僕は去らない。

父さんが角笛を僕に手渡してくれたみたいに。

誰かが守って、次の誰かに渡さないといけないと思うから。

「……ふむ」

フェンリルは唸った。目玉がぎょろぎょろいて、さも殘念そうな顔をつくる。

「それでは仕方がない。2つ目の問いと行きましょう」

見開かれる金の目。

僕らは構えた。

……來るっ!

大狼は空へ向け遠吠えを放つ。

――ウオオオォォオオオオ!

が振する。隣にいたハティも、杖を地面に突き立てていた。

フェンリルはぶ。

「今の実力がどれほどのものか、見させていただく!」

サフィが僕の頭の高さまで飛び上がった。

「まっずい! ごと崩す気よ!!」

ぞく、と背筋が寒くなった。

瞬間、正面から斬撃が飛來した。鋭く研ぎ澄まされた魔力の刃。

「くっ」

け止めるのは、短剣。

魔力の刃は霧散するけど、反応が遅れていたら間違いなく首を裂かれていた。

放たれたのは、正面から。

さっきまで壁だった場所が崩れ、ぽっかり開いた暗がりから誰かが歩いてくる。

僕は息を呑んだ。

「……フレイ」

穣神――そして裏切りの神様は、僕の背後、ルゥに目をやった。幽かに微笑んでいる。

ルゥが顔を青くした。

だってその目は、ルゥじゃなくて、ルゥの側にいる何かを見ているようで。

妹に向けられた視線は、しもルゥ自を見ていなかった。

「ヘイムダル……お願い」

神様にルゥの守りをしてもらい、僕はフレイの視線を遮るように立つ。

その間もの崩壊は進んでいた。

フレイが腰を落とす。いつ切りかかってきても、おかしくない。

「……ソラーナ、の外へみんなを連れて出できる?」

神様は頷いた。

「ああ。だが、その場合、迷宮を調べ、ユミールの手がかりを得ることができなくなる」

「……そうだよね」

退いたら、何も得られない。

それなら……?

崩壊する竪坑(たてこう)は、やはり迷宮と繋がっているようだ。

あちこちで口を開ける橫

仲間は僕へ微笑んでいた。

ミアさんがじゃらりと斧を構える。

「いいぜ、リオン」

「私もです」

杖をついたフェリクスさんも首肯。

ルゥが言った。

「私も……逃げてばっかりじゃダメだもん!」

僕は聲を張った。

「みんな、神様と、橫へ避難して!」

その決斷が合図であったかのように、上空から魔法が豪雨のように降り注いだ。ハティの押し殺した聲が聞こえる。

太古の魔法が、不気味にに響き渡っていた。

さらに広がる土煙。

視界が奪われる中、僕は目の前で煙が揺らぐのに気づいた。

「っ」

で構えた短剣を、フレイの剣が打っていた。突貫してきたんだ。

「よく読めた」

フレイは、僕に狙いを定めたらしい。土煙の中、僕を呼ぶルゥの聲が、そしてみんなの聲が遠ざかっていく。

この視界、そして妨害するかのような魔法弾幕だ。

神様と、みんなそれぞれ別の橫へ逃げたのだと思う。

「うわっ」

頭上から、特大の落石。

崩壊が速まった! 僕とフレイの間を、黃金の魔力が橫切る。

「リオン、こっちだ!」

ソラーナが僕の手を引いた。

僕は神様と橫の一つに転がり込む。

押し寄せる土煙から逃げ出すように、奧へ、奧へと走った。

真っ暗な迷宮で、前を照らすソラーナは道しるべで命綱だ。

「……ソラーナ、ここまでくれば大丈夫かな」

「うむ」

崩壊は、ずいぶん長い間続いた。フェンリルとハティ、2の魔力でを塞いでしまうつもりなのかもしれない。

確かに、迷宮深部へと続く最短コースのようなものだったから。僕らごと塞いでしまうのは、敵の理に適っている。

時間にして數分、あるいは10分ほども経ってしまっただろうか。ようやく崩壊音は止まった。

「……なんとか、迷宮の中へれたね」

小聲で神様に囁いた時、足音が聞こえた。こっちへ近づいてくる。

「しっ」

僕は<狩神の加護>、『野生の心』で探知する。

迷宮にぽつぽつと赤いが見えた。

「やっぱり、魔はいるよね」

いや、今はそれより、足音の主だ。

僕とソラーナは壁を背にして、足音がする暗がりを警戒する。

やがて金髪の男が現れ、口を開いた。

「ほう、君は」

僕は腰を落とす。

こちらにとっては最悪だけど、この人が仲間のところへ行かなかったのは、幸いだ。

「……フレイ」

僕が言うと、穣神は微笑。

から剣を抜いて、緩く構えてきた。相変わらず隙が無い。

「私は君と一緒の橫ったか」

互いに、剣は構えたまま。

ソラーナと僕、そしてフレイはにらみ合う。

耳を羽音がなでた。

神様がぶ。

「――リオン、魔だ!」

「ああ!」

真っ黒い影が天井中に広がっていた。

よく見ると、それは無數のコウモリが集まったもの。

「ギギィ!」

「ギギギ!」

「キィ!」

耳をつんざくような魔の聲。

突っ込んでくるコウモリを、僕とフレイは切り裂いていく。

一緒に冒険をしたことがあるせいか、息がぴたりとあった。共に魔を退けてから、僕は慌ててフレイへ向き直る。

ただ、フレイは苦笑して、切っ先を下げてしまった。

「……ユミールが殘していった魔が、フェンリルの遠吠えで目を覚ました」

フレイは肩をすくめた。

「どうする? 私も、この場で君と生きるか死ぬかの戦いをするのは避けたい。ゆえに休戦して――ともに出口を目指すというのは?」

僕はソラーナと顔を見合わせる。

……どうやら、の夕焼けダンジョンは、奇妙な攻略になりそうだ。

お読みいただきありがとうございます。

次回更新は9月10日(土)の予定です。

(1日、間が空きます)

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