《【書籍化】絶滅したはずの希種エルフが奴隷として売られていたので、娘にすることにした。【コミカライズ】》第44話 妖の國・アンヘイム
草原を越え。
森を越え。
谷を越え。
長い、長い荒野を越え。
「…………著いた」
俺たちの目の前には、妖の國・アンヘイムがあった。
正確に言えばそれは空高く聳え立つ壁であって、アンヘイムはその向こうに広がっているんだが…………とにかく著いたものは著いた。
「とーっ!」
魔法2車からリリィがぴょんと飛び降りる。片道2日の長い道のり、休み休みとはいえ文句も言わずよく頑張ってくれた。頭をでるとリリィはくすぐったそうに目を細めた。自分の頭に両手を置いて、そのまま手を繋いでくる。
「あれがよーせーのくに?」
「そうだ。エルフのお友達がいっぱい出來るかもしれないぞ?」
「やったー! はやくいこ!」
リリィはぐいぐいと俺を引っ張って壁に近付いていく。
片手で魔法2車を押しながら、俺たちは壁の傍まで近寄った。
「…………ん?」
近寄って────気が付く。
アンヘイムの外壁を一目見た時からじていた違和。その正に。
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「門が…………ない…………?」
アンヘイムを囲む純白の壁には────全く綻びがなかった。
傷や汚れはおろか…………アンヘイムへと繋がるはずの、門すら。
「どういうことだ…………?」
「おやおや、隨分可らしいお客さんだね」
「!?」
予想外の聲は頭上から降ってきた。
瞬時に全に気を巡らせて臨戦態勢にると、そこには手のひらにギリギリ収まらないくらいの大きさの妖がふわりと漂っていた。
「素早いね。羽は生えていないみたいだけれど、もしかして君も妖なのかな?」
突然目の前に現れた妖は俺を見てケタケタと笑う。
ドレスにもパジャマにも見える不思議な裝を著たその妖には、半明な羽が生えているものの羽ばたいている様子はない。妖が浮いているのは魔力によるものだ。
こいつらはこうして言葉を話し、人間やその他の種族と同じように文明的な生活を営んでいるものの、圧倒的に違う部分がある。
こいつらは魔力を糧に生きているのだ。
分類で言えば魔なのだが…………こいつらはそれを口にすると烈火の如く怒り出す。アンヘイムでその手のジョークは句だろうな。
「とんでる! よーせーさん!?」
「いかにも。アンヘイムにようこそ、可らしいハイエルフさん」
妖はそう言って、リリィの上をぐるぐると飛ぶ。リリィはそれを追いかけようとして目を回してしまった。
「リリィ、大丈夫か?」
「ぐるぐる…………」
ふらふらと足元が覚束ないリリィの手を握りながら、俺は妖に問いかけた。
「分かるのか、リリィがハイエルフだと」
妖はくるっと宙返りをして、俺の目の前にり飛んでくる。
「當然さ。魔力が全然違うもの。君は面白い事を聞くんだね」
機嫌がいいのか、妖は笑いながらゆらゆらと左右に揺れく。絶滅したはずのハイエルフを見た驚きは全くじられない。まさかとは思うが…………
「もしかして、アンヘイムにはハイエルフが普通に住んでいるのか?」
「んー…………普通に、ってじじゃないけれど。住んではいるよ」
何でもない事のように妖は言う。
「…………マジか」
────國が違えば常識が違う。
そんな事、複數の國を旅してきた俺は當たり前に分かっていた。だが、それでも驚きを隠せない。
「う~ん…………」
ちら、とリリィの方に視線を向けると、リリィまだ目を回していた。
ふらっとよろけると、繋いだ手にぎゅっと力が込められる。
────もし、リリィの親に出會ったら。
俺は────どうするべきなんだろうか。
◆
「アンヘイムにるためのルールを知っているかい?」
突然出てきたこの妖は、どうやら國審査を擔當しているらしい。
帝都の門前で仁王立ちしている屈強な兵士とは大きな違いがあるが、このおちゃらけた妖も國の機関で働いているということか。アンヘイムという國がまた一つ分からなくなった。
「エルフと家族なられると聞いたんだがあっているか?」
「その通り! 君とその子は家族ってことでいいのかな? 見た所、種族は違うようだけれど」
「は繋がっていない」
「ぱぱだよ!」
リリィの言葉に、妖は嬉しそうな表を浮かべる。
「結構なことじゃないか。家族というのは、で繋がるものではないからね」
それはの代わりに魔力が流れている、妖ならではの言葉だったのかもしれない。
それでもその言葉は、俺にしばかりの安らぎをもたらした。
「ああ、そういえば自己紹介がまだだったね。僕はジニアという。アンヘイムの國管理をしているんだ。君たちの名前を聞いてもいいかな?」
「ヴァイスだ」
「リリィだよ!」
「ヴァイスとリリィだね」
ジニアが手を掲げると、ぽんっと本が現れた。本を開くと、いつの間にか手にしていたペンでさらさらと何かを書き込んでいく。
「君たちは何のためにアンヘイムへ? 永住希なら別の者が擔當なんだけれど」
「リリィの帽子を探しに來たんだ。凄腕の帽子職人がいると聞いてな」
「そーなのっ!?」
「ああ、可い帽子を探そうな」
今回の旅が自分の為だったと知らなかったリリィは驚きの聲をあげた。リリィは今回の旅を冒険だと思っていたからな。蟲取り網を持っていこうとするのを止めるのが大変だった。
「それじゃあ短期滯在だね────よし、手続き完了したよ」
パタン、と本を閉じるジニア。魔法書のような裝丁が施されているあの本は、きっと國者臺帳か何かなんだろう。
「それでは────アンヘイムへの愉快な旅・2名様。ごあんな~い!」
「!?」
「わわっ!」
突如、地面に魔法陣が現れる。
反応する間もなく、俺の視界は真っ白なに包まれた。
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