《【書籍化】外れスキル『目覚まし』、実は封印解除の能力でした。落ちこぼれの年は、眠りからさめた神達と優しい最強を目指す。【コミカライズ企畫進行中】》4-24:を目指して

リオン達が橫に駆け込んだのと同様に、仲間達もまた迷宮へ逃げ込んでいた。

小人の鍛冶屋サフィは、目をぱちぱちする。一面が暗闇で何も見えない。

「……誰かいる?」

こそっと聲を出すと、目の前にぼうっとした明かりが生まれた。

同時に浮かび上がるのは――顔の悪いたれ目の顔。

「やぁ!」

「ぎゃあああああ!」

サフィは悲鳴をあげた。黒いローブをはためかせ、魔神ロキはクスクスと笑う。

「おやおや! まさか、そんなに驚くとはね」

「ろ、ろ、ろ、ロキ神――!」

サフィは涙目でロキを睨む。一方、魔神ロキはどこ吹く風。

周辺にぽんぽんとの珠を浮かべ、あっという間に照明を確保してしまう。

「どうやら、みんなで違う橫に逃げてしまったようだねぇ」

「え?」

サフィは見回す。確かに辺りにあるのは赤土の壁か、瓦礫ばかりだ。

ロキ以外に味方もいないらしい。

角笛の年――リオンまで姿が見えないことにサフィは顔を青くする。

「り、リオンは? それに、ルイシアもいないわ」

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「安心して。ルイシアはヘイムダルが守って逃げたし、リオンにはソラーナが一緒だ」

ちくり、とサフィの小さなは痛んだ。激しく頭を振って雑念を追い払う。

「そ、そう! なら安心ね」

さすがのロキ神もこればかりは茶化さなかった。背中を向けたのはこの神様なりの優しさだろうか。

「無事なのは、ミアもフェリクスも、戦士団の各員も同じだ。々、予定外の人もいるが……」

ロキは目を細める。

「……どうやら、騒ぎを起こすつもりはないらしい。リオンもレベルアップしているし、神々が大勢いる迷宮じゃ、向こうも慎重にならざるをえないだろう」

魔神は腕を組み、顎に手を當てている。興味深そうに口元が緩んでいた。

「しかし、僕らと一緒に閉じ込めてしまうとは! 連攜はイマイチだね。魔じゃないから、迷宮では魔に襲われる。苦労しているね――穣神は」

サフィは首を傾げた。

「何の話? 予定外の人って、誰よ」

「なんでもない。今は無害だ、おそらくね」

ロキが肩をすくめた時、迷宮の奧から低い唸りが聞こえてきた。サフィは顔を青くし後ずさる。

「……魔、いるんだ」

「さすがにユミール本人はもういないようだけどね」

サフィは顎を引いた。

原初の巨人には、獨特の気配がある。サフィでもわかるその存在は、ここにはなかった。

外からユミールの存在がじ取れなかったからこそ、危険を冒して迷宮へ踏み込んだという面もある。

罠の危険ももちろんあったが、ユミールについての報は必要だった。終末まで、殘り2週間。なのに、王都へどのようにして魔を送り込んだか、それさえ判明していないのだ。

ロキは続ける。

「以前ユミールがいたなら、生きを歪めて魔を作る練習をしたはずだ」

「魔って……王都の広場に出たってやつ?」

「ああ。表にいたフェンリルとハティは、おそらくこの拠點の防衛役。だが、見たところ、ユミールはもうここを重要視していない。打ち捨てる際に僕らを呼んで、軽く実力を測る偵察をしたってところだろう」

サフィは首をひねる。

の崩壊では、死ぬかと思ったのだ。

あれが『軽く』?

「放っておいても、そもそもユミールが最初に現れた所だ。いずれ調査されると向こうも考えたのだろうね」

そう付け加え、ロキは唸り聲がする方へ歩き出した。

「そ、そっち行くの? アタシ、ヤなんだけど」

「ふふふ、そこは神のエスコートを信じてね、小人の鍛冶屋殿♪」

魔神ロキはサフィを抱きかかえると、ふわふわと迷宮の奧へ進んでいった。

薄闇に白刃が走る。ヘイムダルに飛びかかってきた狼は、ただの一撃で両斷された。

「ガウッ」

きを殘し狼は地面に転がった。

はあっという間に黒い灰となり、ボロボロと崩れるように消えていく。後には小さな魔石が転がった。

「敵もむごい真似を」

ヘイムダルは眉をひそめた。剣からを払い、言う。

「ただの獣が、ありようを歪められて、魔にされている」

襲ってきたのは、ほとんど普通の狼だった。

だが走った目や、長く大した牙、何より憎しみに満ちた唸り聲は魔のそれ。

「……古巣が、こうも荒れ果てているとはな」

ヘイムダルは黒髪を揺らして首を振り、剣をしまう。薄闇の中でも、剣の金飾りは誇らしげに輝いていた。

背後で小さな足音。

服のルイシアが、恐々とヘイムダルの後をついてきていた。

「今のが魔なんですか?」

ルイシアは、小型魔を初めて見たのかもしれない。

ヘイムダルは頷いた。

「確かに魔だ。だが、普通じゃない」

「……え?」

「おそらく、ここにもともと住んでいた野が魔に変えられている」

切り捨てた狼は黒い灰となって消えていた。

に魔力が通う。ゆえに意識が失われた瞬間、が維持できなくなるのだ。

「原初の巨人は、生きを歪めて魔にしてしまう。『創造の力』はすでに失っていても、創造者として、ありようを壊したり、歪めたりする力は殘っているらしい」

ルイシアが息を呑んだ。

限界か、とヘイムダルはじる。振り返り、膝をついて12歳のに視線を合わせた。

「……怖いだろう? 目的地まで、目を閉じているか?」

2メートル近いヘイムダルとしては、ルイシアを片手で抱えて移するなど、簡単なことだ。

ばされた大きな手に、ルイシアははっと首を振る。

「平気です。お兄ちゃんだって、ここを進んでるんです!」

それに、とルイシアはヘイムダルの手を押しやる。

「……フレイが、きっと迷宮の中にってます」

「わかるのか」

「私の中にいるフレイヤ様が、そう教えてくれるんです」

ルイシアはに手を當てた。

「襲われた時、私を抱えていたんじゃ、きっと――大変ですよね」

ヘイムダルは、二度も驚かされた。一つはフレイに気づいていたこと、もう一つは、ルイシアの勇気に。

ルイシアのを緑の魔力が包んだ。練習によって、このもフレイヤの魔力を引き出せるようになっている。

その長速度は、速い。ルイシアの意識がフレイヤを飲み込もうとしているかのようだ。

「……スキル<神子>か」

ヘイムダルが呟くのに、ルイシアも被せた。

「次にあの人が來たら、私だって一言いってやります!」

とはいえ――ルイシアは大まじめに、フレイに文句を言おうとしているようだった。

の瞳には、決意がみなぎっている。

「ふ、ははは!」

ヘイムダルは弾けるように笑った。

「な、なんですか?」

「いや、素晴らしい! 君の心にも、戦士がいるようだな」

涼し気な目を細めて、ヘイムダルは立ち上がった。

「すまない。君を侮ろうなどと、もう言うまい。許してほしい」

微笑まれてルイシアも笑った。

1人のと1柱の神は、薄暗い迷宮を進みだす。

「君は、穣の街フローシアでも『霜の寶珠』を作り、ユミールの手に枷をはめたらしいな」

「はい」

「……やはり、すごい子だ」

ヘイムダルは言葉を切る。

遠くからのり聲が、風に乗ってやってきた。

の聲は長く続く。広い迷宮に反響して出どころはわかりにくいが、どこかで、逃げ込んだ仲間が戦っているのかもしれない。

「お兄ちゃん」

ルイシアはを摑んでいる。どくん、どくん、と波打つ心臓を確かめるように。

――いざとなったら。

そんな呟きが、ヘイムダルの耳をなでる。

「ルイシア」

ヘイムダルは言いかけたが、首を振る。

細い肩は震えていた。怖さと勇気はせめぎ合っていて、家族への思いが、小さな背をしゃんとばさせているのだろう。

早く仲間と、そして彼の兄と合流させてやるべきだ。

「……目的地へ急ごう。ユグドラシルの水鏡がある間で、他の神々とも合流できるはずだ」

おそらくはユミールの力のも、その場所で判明するだろう。

お読みいただきありがとうございます。

次回更新は9月12日(月)の予定です。

(1日、間が空きます)

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