《【書籍化】外れスキル『目覚まし』、実は封印解除の能力でした。落ちこぼれの年は、眠りからさめた神達と優しい最強を目指す。【コミカライズ企畫進行中】》4-26:2人の兄

薄暗い迷宮に、僕達の足音が響いていく。

僕は右側の壁沿いを、フレイは左側の壁沿いを進んだ。間にはソラーナがって、フレイを警戒している。

まさかこんな狀況で、この男との會話が始まるなんて。

落ち著こう。

目的は換。

最初に、僕は事実を伝えることにした。

「フレイヤは、もう目覚めています」

反対側の壁沿いで、フレイは軽く顎を引く。

「だけど――」

フレイが被せてきた。

「他の神々のように表には出られない、か?」

僕は驚いてフレイを見返した。

男は口元を歪めて、肩をすくめる。

「オーディンならそうする。君の妹ルイシアは、私の妹を閉じ込める檻でもあるということだね」

……慎重に話すべきだろう。

相手がスキル<神子>についてどれほど予想しているのか、わからない。口をらせて余計な報まで與えることはない。

フレイが青い目を僕へ向けた。

「……それで、元気そうか」

これにはすんなり応えられた。なんとなく、本心からの問いかけの気がして。

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「はい」

「そうか」

フレイは表を押し殺している。でも、仮面みたいな微笑に、本當の安堵が見えた気がした。

その後も、僕達は報を換する。

僕がフレイヤのことを話して、フレイはユミール達についてし教えてくれた。やっぱり本拠地はここじゃなくて、もうユミールは遙か北方へ移しているみたいだった。

ソラーナが首をひねる。

「北……」

アスガルド王國には、北に不のツンドラ地帯がある。

そうした最果てにユミール達が隠れている可能はあった。現に、戦士団や冒険者もまだ魔達の集合場所を見つけられていないから。

僕は尋ねる。

「どうやってそんな場所に?」

「ふふ、それを知りに君はここへ來たのだろう? 迷宮の奧へ辿り著けば、すぐにわかるさ」

そこでフレイが立ち止まった。頬を風がなでる。

加護で覚が鋭敏なせいか、『外からの風』ってわかった。

フレイが呟く。

「……だいぶ進んだな」

そう言って、さっさと歩きだそうとする。

「ここまでくれば、私の出口は近い。お別れだな」

ユミール達が拠點としていた時の、隠し通路のようなものがあるのかもしれない。

フレイとしても、延々と進んで神様と鉢合わせ、なんて展開は願い下げだろう。

「君もゆけ。『ユグドラシルの水鏡』は、ここから階段を降りればすぐに著く」

僕は進む背中を呼び止めた。

「フレイ」

足が止まることはない。けれど、別れる前にどうしても尋ねたかった。

「……どうして、あなたは敵側なの?」

「言ったはずだ」

フレイは進み続ける。

「妹を取り戻す」

「あなたが言う妹は、フレイヤのこと。僕が守りたいのは、ルゥなんだ。一緒に協力してユミールを倒して、全部終わってからそれぞれの家族を迎えにいけばいい」

ソラーナが驚いた顔で僕を見た。

「リオン」

今更、この人が仲間になるとは思えない。

でも僕はどうして戦わなければならないのか、理由の深いところまで、知っておきたかった。

短剣を向ける覚悟は、もうしてある。だからこそ、聞きたい。

「ごめん、ソラーナ。でも聞かせてほしい」

今、ルゥの中にはフレイヤ様が宿っている。

それはスキル<神子>による封印に近いものだけど、もともとの目的は『創造の力』を逃がさないため。そして、ユミールが脅威であるからこそ、オーディンは『創造の力』をしている。

逆に言えば――ユミールを倒した後なら。

オーディンに『創造の力』を返して、フレイヤはルゥと別れて、僕もフレイも家族と一緒に過ごせる――本來なら、そんな希だってあるんじゃないだろうか。

フレイが足を止めた。

僕に背中を向けたまま、切れ長の目だけで振り返る。

「……ユミールは倒せない。おそらく、神々はまた敗れる」

「そんなこと……!」

「時間もない」

フレイは、鋭い刃で斷ち切るように言った。

ソラーナが前に出て、質す。

「……時間?」

「考えるんだ。神が人間に宿るなどということが、簡単か?」

フレイは懐から水筒を取り出し、水を飲んだ。僕は言葉に詰まってしまう。

「それは……」

「代償がある。私が封印に抗うため、を得なければならなかったように。フレイヤは、今は徐々にルイシアに吸収されているのだろう。その力と一緒にな」

僕もソラーナも、息を呑んでしまう。

神様は問うた。

「……フレイヤはいずれ消滅する、ということか?」

「1つのに、目覚めた2つの心。そうそう両立するわけがない」

そういえば、フレイは言っていた。

『妹は2人いるけど、は1つ』だって。あれ、そういう意味だったんだ。

僕も言葉を重ねた。

「確かなの? だって、フレイヤはそんなこと、言ってない」

「覚悟の上だ。お前の妹にとっても、重荷になる。ならば言うわけがない。だが――妹の魔力がしずつ変化しているのは、私にはじ取れる」

フレイは、赤茶けた壁の向こうをじっと見つめていた。そっちの方向にルゥがいるのかもしれない。

「封印の眠りについている時、私はフレイヤからの言葉を聞いた。オーディンの謀についてもそこで知らされた」

僕はソラーナと視線をわし合う。

フレイヤは、オーディンから『創造の力』を奪って逃げた。膨大な魔力の一部は、寫しとしてフローシアの迷宮へ隠している。

その時――同じ迷宮に封印されていた兄フレイに、きっと聲をかけたんだ。

「……當時からすでに、妹は覚悟を決めていた。その上で、『創造の力』を持っての逃亡だ」

首の裏に鳥が立った。

フローシアで目にした、優しい微笑みが思い出される。

「妹は、人間を守るため、人間に宿る道を選んだ」

自分のを犠牲にしてまで、人のためにいてくれた神様。

「私は絶対にフレイヤを守り抜く。たとえ彼の覚悟に反すとしても」

僕の方へ向き直ったフレイの目には、々なが渦巻いていた。

哀しみ、寂しさ、、そして怒り。

口から聲がれた。

「フレイ。あなたは――」

うまく言葉にできない。でも――

「人間から、フレイヤ様を取り戻したいってこと?」

フレイは目を見開いた。そのままの狀態で、僕らは見つめ合う。

男は肩をすくめ、微笑した。

「……そうかもしれない。私は、結局のところ、神(わたし)よりも人間を大事にした妹が許せない」

そう言い殘して、フレイは歩き去った。迷宮の上層を目指すのか、すぐその後ろ姿は見えなくなる。

僕は神様に言った。

「……いこう」

「ああ」

近くの階段を降りる。

フレイの言葉は噓じゃなかった。

目的地にしていた『ユグドラシルの水鏡』は、階段部屋からまっすぐ進んだ位置にあった。

お椀を伏せたような空間。

すでに他の神様や、ミアさん達、そしてルゥも集まっていた。

部屋には空っぽになった樽や、割れた木箱、頑丈そうな檻が置かれて雑然としている。けれども一番目を引くのは、中央にある『裂け目』だ。

がひび割れたようなキズが、空間に走っている。

そこからひゅうひゅうと凍てつく冷気が吹き込んできた。

「王都の空にできたヒビと、同じだ……」

呟く僕に、ヘイムダルが目を細めた。

果ありだな。この迷宮には手がかりがある」

調べ方はもう決まっているらしい。

小人のサフィと、ルゥが、一歩前に出てくる。

その間、僕はフレイが殘した言葉を、ずしりと重いで繰り返していた。

お読みいただきありがとうございます。

次回更新は9月16日(金)の予定です。

(1日、間が空きます)

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