《【書籍化決定】読家、日々是好日〜慎ましく、天に後宮を駆け抜けます〜》13産に興味はないけれど.3

読家、日々是好日のコミカライズが決まりました!書籍化と同時進行しています!!

「それで、お母様にお願いがあるの」

「待って、あなたが何を言いたいかは分かるわ。でもあの三を作った私としては、なぜあなたがこの一だけを持ってきたのかを知りたいわ」

なるほど。明渓は懐かしさをじた。母は時折、明渓に問題を出した。例えば、野菜をたくさん出してきて、どれが浮かぶか、沈むかとか。鍛冶場に連れてきて、この金屬とあの金屬の違いは何だとか。だからこの仏像についても分かったのだ。

「この仏像は一見銀でできているように見えるけれど、銀は使われていないわ」

「どうしそう思うの?」

「こうやって掌で包むと、じわりと溫かくなってくる。銀ではこうはならない。これは熱が伝わりやすい金屬、錫(スズ)でできている」

母は、目を細め軽く頷いた。ここまでは正解のようだ。

「次に三ある仏像は大きさは全て同じなのに、一だけ重さが違ったわ。金屬はその種類によって重さが異なり、錫は比較的軽い金屬。この仏像だけ重かったということは中に違う金屬がっているということになる」

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「……違う金屬ですか? でも、そんなものがっていたとして、どうやって取り出すのですか?」

梨珍が明渓の話に首を傾げる。この母娘(おやこ)の會話は聞いているだけで頭が疲れるとその顔に書いてある。

「金屬が種類によって違うのは重さだけでなく、溶ける溫度も違います。錫は比較的低い溫度で溶けるので、中にっているのが錫より重く、高い溫度で溶ける金屬なら可能です」

母は靜かに明渓をみる。明渓は気づいていない。自分の話し方が妃嬪でなくなっていることに。

「では、あなたは何がっていると思うの?」

「そのような金屬はいろいろあるけれど、おそらく金だと思う。理由は産を見つけた時に話すわ」

「あら、今は教えてくれないのね。私もあれが意味するところを知りたいから、産を取り出す時は立ち會うわ。それが『産の鍵』を取り出してあげる條件よ」

仕方ないな、と明渓は頷いた。母ゆえ、父同様伽藍に來ることに問題はない。もとより明渓が帰るまでに來る予定だったのだ。

「あの……それで的にどうするのですか? そんなことが可能とは思えないのですが」

梨珍が目を眉を下げながら母、明渓、仏像を順に見つめる。

「梨珍さん(・・)、それができるからここに來たのです。溫度を調整して、表面の錫だけ溶かすなんて蕓當ができてしまうのが、十八代目藤右衛門ですら」

何故か明渓が誇らしげにをはる。剣ばかり作っていて、母らしいことをしてもらった覚えはない。でも、ひたすら剣を打ち続ける母は明渓の自慢でもある。しかし、自慢された母は渋い顔をする。

「まったく、あなたが見つけては意味がないじゃない。何のために協力したのか分からないわ」

「……ちょっと待って。どういうこと?」

明渓の問いには答えずに母は席を立ち、鍛冶場へと向かった。なんだか、その質問から逃げているようにも見える。しつこく理由を聞きながら、明渓も後に続いたが、作業の邪魔だと一蹴された。

(何が隠している)

それが何かは分からない。でも、明渓にとってよくないことのような気がする。

(私が見つけては意味がない、とはどういうことなのだろう)

つまりはあの仏像は明渓以外が見つけなくては意味がない。仏像は三。そのには「産の鍵」がっている。

(それに、一番気になるのは何故、お母様がこんなに馬鹿げた産隠しに協力したかだわ。錫から金を取り出すなんて、藤右衛門でなければできない。いつか必ず取り出さなくてはいけないのに、どうして忙しい中、そんな面倒事に関わったの?)

鍛冶場につくと、母は熱した釜の前に立ち溫度の調整を始めた。ここまでくると、明渓も問いただすのを諦め、わくわくとしながらその様子を見始める。釜の溫度を確認して、母は鉄板に乗せた仏像を中にれた。暫くすると仏像はとろとろと溶け出した。窯の溫度に気をつけ、溫度が上がってきたら出す、調整してまたれるを気強く何度も繰り返す。

細かな部分に至ってくるとその作業は緻なものとなっていった。そして、夕暮れが近づいた頃、母が釜から取り出したそれは、錫にくるまれる前の形とを取り戻していた。

「明渓様、これはもしかして」

梨珍の言葉に、明渓はの端を上げ微笑んだ。それを見て母が不満気に眉を下げる。

「まったく自分だけ楽しそうにするなんて。今から産を取り出すのでしょう。ちょっと著替えてくるから待ってなさい」

そう言うと母は母家へと向かった。明渓はその後姿を見ながら再び、母が言った言葉について再び考え始める。

(伯父は盜賊から産を守るために仏像を作った。それなら仏像は一あれば充分なはず。だとすれば、三つくると言い出したのは、お母様ということになる)

そうなると、三という數字にも意味が出てくる。

(三、仏像、金屬……)

言葉が頭を駆け巡り、それらが意味のある線で繋がっていく。

「うっ」

思わず明渓がうなった。

「どうされましたか?」

「仏像が三あった理由が分かったら、気分が悪くなりました」

「それはどういう意味でしょうか?」

明渓は、はぁと大きく息を吐いた。

「見つけたのが私でよかった」

真底そう思った。

※お知らせ※

冒頭にも書きましたが、書籍化、コミカライズが同時進行することになりました。ありがとうございます!どちらも一二三書房様からです。

初めて改稿という作業をしたり、ネームを見たりしました。発売日などはまたおってお知らせ致します。

本日、第三章ほぼ書き終わりました。前半の長閑な日常はあと數話。後半はミステリーの定番、クローズドサークルにおける連続殺人事件になっております。

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