《【書籍化決定】読家、日々是好日〜慎ましく、天に後宮を駆け抜けます〜》14.産には興味はないけれど.4

明渓達が戻ったのは夕方近かった。もうすぐ卯の刻(六時)だ。手にした風呂敷には『産の鍵』がっている。

「ちょうどいい時間だわ」

「明渓、それどう言う意味?」

「お母様はその鍵が何かまで聞かさていないものね。面白いものが見れるわよ」

「それは楽しみね。でも、それよりこの狀況を教えてもらえないかしら」

母は、頬に手を當てぐるりと見回す。

場所は大堂の前、子豪、子空、それから春蕾がいる。見張りの武もいるがこちらは扉と一化しているようにかない。

室の許可が出ましたからどうぞおり下さい」

梨珍が扉を開けて出てきた。明渓が先に立ってりからくり時計へと向かう。

産が隠されているのは、このからくり時計の中。そのしてこちらが、先程藤右衛門が仏像から取り出した『産の鍵』」

明渓がするりと風呂敷を解けと、中から金の歯車が出てきた。

「だから、あなたは金だと言ったのね」

母の目線の先には、からくり時計の金の歯車がお互いに連しながらいている。

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からくり時計の真ん中は硝子になっていて、それは扉のように手間に開けることができる。明渓は硝子をあけると、左端にぽつんとある歯車を指差す。

「この歯車だけいていないでしょう? 音を出す歯車はからくり時計橫の持ち手により、連するようかすことができるけれど、こちらにはそのような持ち手はないわ。では、この歯車は何のためにあるのか」

明渓は仏像からでてきた歯車を、左端の歯車といている歯車の間にれる。すると、ぴたりとはまり、左端の歯車がき出した。

「このからくり時計、文字盤の上の小窓は半刻ごと開くけれど、卯の刻と酉の刻には開かないらしいの。それから、からくり時計の下の方を見て。橫一文字に切れ目がっており一見引き出しのように見えるけど、持ち手はないわ」

殘り四人かばしたり屈めたりして、それらを確認する。

「もうちょっと待ってて」

明渓の言葉に従兄弟三人は顔を見合わせる。母は何が起こるか気づいているようだ。

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暫く待っていると、カチリと針がき音が鳴り始めた。そして文字盤の上の小窓から開く。

「えっ、明渓、先程卯の刻は何も出ないと言っていなかったか?」

春蕾が小窓が指差し言う。

「歯車がき出したから、違うきを始めたの。春兄、ちょっと下がって。多分からくり時計の下もき出すわ」

春蕾が後ろに飛び退くと、からくり時計の橫一文字の切れ目から下がゆっくり飛び出してきた。引き出しになっているようだ。明渓はそれに気を付けながら小窓から出て來たものを手にする。

針がまたカチリとなり、文字盤の上の小さな窓は閉まった。引き出しは開いたままで、中を見ると、箱と紙がっている。

「子豪兄、それを出して。あと紙は私に渡してくれる?」

明渓は子豪に頼みながら、母を睨んだ。

(まったく、何をしてくれるのか)

自分が謎を解かなければと思うとゾッとする。

「取り出したけれど、これ鍵がかかっているぞ」

そういう子豪の前に、先程小窓から取ったものを見せる。

「これがその鍵よ」

明渓は鍵を手渡す。産はもとより伽藍堂のもの。明渓の懐にはらないのは充分承知している。

それより気になるのは一緒にっていた紙の方だ。

皆が箱を見つめる中、果たして、小窓から出て來た鍵で箱は鈍い音を立てて開いた。中にはぎっしりと金と銭がっていた。

(叔父様、相當溜め込んでいたのね)

これは、上等な酒を十本程強請っても許される気がする。

「ありがとう明渓、いや生まれて始めてお前が従兄弟でよかったと思ったよ。本當、凄いな!!」

(なんだか素直に喜べない)

「まさか、本當に見つけるとはな。あとで上等の酒を屆けるよ。それで、その手紙には何て書いているんだ?」

明渓がさっと中を見て、予想通りの容に不快そうに眉を顰めた。

「こんなことだと思った。本當、油斷も隙もない」

「あら、娘を思う母心よ」

コロコロ笑う母は年齢よりも隨分若く見える。しかし、明渓は容赦なく睨みつける。

「明渓、何で書いてるんだ?」

春蕾の言葉に、明渓は従兄弟達をぐるりと見渡した。そして、げんなりとしながら、一応順を追い説明をする。

「もともと伯父様は歯車を隠した仏像を一作ってしいと母に依頼したの。でも、母は三作ると言った」

「待て待て、何でそんな意味のないことをするんだ?」

「春蕾兄の言う通りよ。でもお母様にとって意味はあったの。伯父様はお母様に頼まれた通り、従兄弟三人を集めて言うの『仏像の中に鍵がっている。産は子豪と子空のだが、それとは別に見つけた者に寶をやろう。何、考えればどれにっているか分かる。好きな仏像を一ずつ選べ』と」

「待て待て、『寶』を貰えるのは嬉しいが、何で俺まで言われるんだ? 産なら子豪と子空だけろう」

そう、産なら子豪と子空だけで十分だ。

「『寶』が産とは関係ないからよ。伯父様は歯車を隠せれば十分だったけれど、お母様がそれに便乗して『寶』をくっつけたの。つまり、『寶』お母様の事、そして手にれる條件は金屬に詳しいこと」

明渓は母をじろりと睨んだ。まったく、いい加減にしてしい。

「て、その『寶』とは何なんだ?」

春蕾が紙を覗きこもうとする前に、明渓はそれを突き出した。紙に書かれていた言葉は

産を見つけた者に藤右衛門の名と明渓を譲り渡す』

従兄弟三人が恐れ慄き後退りする。

「無理だ無理! 俺にはこのじゃじゃ馬は手に負えない。手綱を握れるのは春蕾だけだ」

「無理だ無理! 命がいくつあっても足りやしない。やり合えるのは春蕾だけだ」

「待て待て! 俺に押し付けるな。鬼の時から兄妹のように一緒に育ったんだ。今更に見えない。こいつと床を一緒になんて考えただけで悍ましい」

なんとも酷い言われようだ。母が明渓を見る視線が痛い。

「あなた、いったい何したの? 私に似て見た目は悪くないのに」

なぜこう憐れまれなければならないのか。明渓とて選ぶ権利があるというものだ。

「春蕾、お前武が好きなのだから、藤右衛門を継げばいいだろう」

「それを言うなら子空、お前手先が用じゃないか。小さい時は叔母さんの鍛冶場にり浸っていたし、興味あるんだろう」

そうなのか。知らなかったと明渓は子空を見る。その視線に子空は怯えたように顔の前で手を振った。

「確かに刀鍛冶には興味はある。認める。跡取りになれるものならなってみたい。でも明渓は無理だ。俺の度量では無理だ!」

その言葉に母が反応する。

「藤右衛門だけは駄目よ。その名を餌に明渓をおまけでつけるんだから。そうでもしないとこの子嫁の貰い手がないと思っていたから」

(おまけって言われた……)

明渓が不貞腐れるのを見て母が、くすっと笑う

「でも狀況が変わりそうね。明渓の嫁ぎ先が決まれば、藤右衛門の名を子空、継ぐ気はある」

「それは願ってもないことですが、そんな都合良く……」

と言いかけ、子空は明渓の背後を見上げる。皆がつられてそちらを見た。

背後からふわりと香と薬草の匂いがする。

「俺も日頃から藤右衛門の剣を使っている。この名剣が継がれないのは忍びない。是非とも継いでもらいたいものだ」

いつの間に來たのか、青周が明渓の肩に手をおき不敵な笑みを浮かべている。皇族の突然の言葉に子空は口をぱくぱくさせながら、なんとか言葉を絞り出した。

「せ、青周様。ですが、そうなると明渓は……」

「そちらは気にするな。明渓は俺……」

「皇族が面倒を見るので心配無用だ!」

青周の言葉を途中で遮り、白蓮がドン、と前に出る。

青周はそれを、ほおっ、と目を細め見た。

その隙に明渓はぺぺっと青周の手を払い退ける。

「こ、皇族が……じゃじゃ馬を。では、単なるお戯れではなかったのか」

ポカンと口を開けている子豪を含め全員が、二人の皇子が明渓を気にっているのは分かっていた。しかし、それは貴人の気まぐれ、戯れほどにしか思っていなかったのだ。

「まさしく仏様」

「後が見える」

「さすが國を治める方、が違う」

子豪が天を仰ぎ、子空が數珠を取り出し手を合わせ、春蕾は尊敬の眼差しで二人を見つめる。

明渓は不本意だと頬を膨らませた。なぜ、自分を娶ることが國を治めることと比較されるのか解せない。明渓とて従兄弟と結婚したくない。それなのにあまりの言われようだ。

さらに、貴人二人が出張ってくるのは、心底やめて貰いたい。

しかし、明渓の怒りは気なされることなく、その場が一つに纏まりつつあった。

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