《【書籍化】外れスキル『目覚まし』、実は封印解除の能力でした。落ちこぼれの年は、眠りからさめた神達と優しい最強を目指す。【コミカライズ企畫進行中】》4-27:世界喰らい
迷宮の最深部は、円形のホールだった。
天井はお椀を伏せたような形で、中央部はとても高い。おそらく3階建ての塔だって、この部屋にすっぽりってしまうだろう。
先にたどり著いていたみんなは、壁際で待っていた。
ミアさん、フェリクスさん、そしてトール、ロキ、ヘイムダルと言った神様達。小人のサフィはし離れて、もう床を調べ始めているみたいだった。
みんなの後ろには大きな臺座があって、階段で登れるようになっている。上の方は、部屋の中心へ向けて岬みたいに張り出していた。
おそらくこの部屋にある神――というより、部屋そのものである神『ユグドラシルの水鏡』を作するための場所なのだろう。中空へび、途切れた橋のようになった位置には、魔石の置かれた臺があった。
周りを確認していると、ルゥがに飛び込んでくる。
「お兄ちゃん!」
妹は僕のに顔を押し付けて、深く息を吐く。
「……よかった」
空の瞳が潤んで僕を見上げた。見習い神のぺしゃっとした帽子が、もうずり落ちそう。
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「僕は平気。ごめんね、心配かけて」
ルゥへ笑いかけた。妹は首を振って、を離す。
そして言った。
「フレイって神様が、いたんでしょ?」
一瞬、ルゥの瞳が緑に見えた。初めてフレイヤ様が目覚めた時と、同じ。
僕は驚いてしまう。
「……どうして」
「フレイヤ様が教えてくれたの」
「そ、そうなんだ……」
圧倒されたまま、僕はおずおずと頷く。
頭にフレイの言葉が反響した。
――フレイヤは、じきにルイシアに吸収される。
正直、信じ違い。
でも今まで見てきたスキル<神子>には、無視できない説得力がある。
「お兄ちゃん?」
僕ははっとした。
橫で、ソラーナが靜かに首を振る。フレイからの話は、今はまだ話すべきじゃない。きっとルゥへの影響が大きすぎる。
かつん、と何かを叩く音。
小人の鍛冶屋さん、サフィが床に手をついたまま問いかける。
「そろそろ用意はいいかしら?」
サフィは金鎚で床を調べているようだ。時々、鎚は地面を叩く。そのたびにサフィの周りで床がり、魔法文字(ルーン)が浮かび上がった。
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僕は顎を引く。
「うん、僕は大丈夫」
部屋の中央を見やる。
そこには、空中を走る『傷痕』があった。
縦に走る裂け目が、僕の腕一本分の長さで、何もない空中に刻まれている。
壁際からトールが聲を張った。
「リオン、そいつなんだな?」
「そう思う。僕が王都で見た裂け目とよく似てる。きっと、ここから街に魔が現れたんだ」
みんなが張するのがわかった。
「これを調べれば、ユミールが今どんな力を持っているのか、わかると思う」
もっとも、王都にあった空間の裂け目は、これの何倍も大きい。馬車よりも巨大だった熊の魔が、するりと通り抜けられるほどだったんだ。
王都に魔を送り込んだ力は、ユミールのの中でも、真っ先に解き明かさないといけないものだろう。
ソラーナが宙へ浮かんで、裂け目へ近づいた。
「ふむ……巨大な何かが、裂け目を閉じた形跡があるな。おそらく発生した當初は、もっと大きかったのだろう」
かすかに開いた、空間のひび割れ。
そこからはひゅうひゅうと冷気が吹き込んできていた。ソラーナの金髪が揺れている。
「……しかし、この風。どこか覚えがある魔力だ」
神様は口元に指を當てる。
黒いローブをはためかせて、ロキが天井から降りてきた。
「調査をすればすぐにわかる」
い、いつの間に上がっていたんだろう……?
タレ目をきらりとらせて、ロキは指を鳴らした。壁際にある臺座で、魔石が青のを帯びる。
ロキは僕の傍ら、ルゥを見た。
「ルイシア。君の用意もいいかな?」
妹は張した様子で、きゅっと口を結んでいる。
「……う、うまく、できるでしょうか?」
「なに簡単さ。今の、君ならば」
ルゥが數歩前に出る。
部屋の中央、つまり裂け目から數メートルの位置だった。
「ル、ルゥ……!」
そんな危ない位置に立たせたくない。
僕はルゥを追い抜こうとした。けれどロキのローブが行く手を阻む。
「ロキっ」
「今は、靜かに。妹さんの、今までの努力を信じて」
ルゥが手を前に出した。
緑のがそこへ集まっていく。まるで輝く糸で編まれていくように、何かがルゥの手のひらに生み出されようとしていた。
空間が、微震する。
これは……
「鼓?」
どくん、どくん、と。
ルゥの手に生み出されたが波打っている。は徐々に強まって、やがて高い天井まで緑の輝きが照らした。そして、鼓の音に従って、はわずかに揺らぐんだ。
僕は、ルゥに見る。
神様達も、ミアさん達も、みんな目を離せなかったと思う。
ソラーナが絞り出すように言った。
「そう、か……『創造の力』は、かつてユミールの一部だ」
部屋に刻み込まれた魔法文字(ルーン)が、うっすらと輝き始めていた。
床や天井からの粒が浮き上がり、ルゥの前へ集まっていく。
そして――長2メートルを超える、巨大な男の姿が現れた。
聲をらしてしまう。
「ユミール……!」
フローシアで見た姿そのままに、原初の巨人は現れていた。
ただし、あの時みたいな鳥が立つような恐ろしさはない。頭のどこかが理解してる。
これは魔力で生み出された幻だ。
それでもがごくりといた。
かな金髪。上等な服の上からでも、巨に力が凝しているのがわかる。歪んだ口元には、獰猛そうな牙。
全てを創造した巨人は幻だとわかっていても、足を床にい止めてしまうほど威圧的だ。
ロキが言う。
「『ユグドラシルの水鏡』には、何かを再現する機能がある。ユグドラシル――魔力樹には、この場にいたユミールの魔力が刻まれているはず。それをユミールの一部、つまり『創造の力』をにして呼び出した」
僕の頭をセリフがざぁっと駆け抜けていった。
目が點になったと思う。
壁際を見ると、ミアさんも目を線にしていた。
「……なるほど。つまり、なんだ?」
フェリクスさんが目元をんだ。
「……神の機能を使って、ユミールがいた時の景を再現しているということです。これなら、どうやってユミールが裂け目を作ったのか、まさに一目でわかる。空間に裂け目を生み出す瞬間のユミールを、幻影として映し出しているわけですから」
魔力で生み出された、ユミールの幻影。
それは一歩一歩、部屋の中心へ近づいていく。そして大口を開けると、空間に向かって噛み付いた。
ユミールが噛んだ空間に、大きく縦のひび割れがる。ぎしり、ぎしり、と氷が軋むような音を響かせながら、裂け目はどんどん広がった。
最後には縦3メートル以上の巨大な空隙が、ぽっかりと真っ黒い口を開けている。
まるで、異界へ続く門。
僕らは息を呑んだ。
ユミールはしばらく佇んで、空隙の中にる。
幻影が消える。
空間に殘された裂け目はだんだんと小さくなり、やがて今も殘る割れ目にぴたりと重なった。
気づくと、景の再現は終わっていた。裂け目から吹き込む冷気が、ひゅうひゅう音を鳴らして、心を冷やしてくる。
ルゥが腕を下げた。額には汗がびっしょり。
僕は駆け寄って妹のを支える。
「平気?」
「うん、大丈夫。怖かっただけ」
僕が言葉を出せるようになるまで、ずいぶんかかったと思う。
「今のって」
ソラーナが引き取ってくれた。
「今の力は、わたしも見たことがない。あの空隙の中へ消えていったように見えたが――」
ヘイムダルが前に出てくる。
僕らの前を橫切って、空間の裂け目をじっと睨んでいた。
「……喰った、のかもしれないな」
僕は尋ねる。
「何を?」
「この世界そのものをだ」
僕は眉をひそめてしまった。
ヘイムダルは軍師の顔で、辺りを見回す。
「『創造の力』で、この世界は作られた。何もなかった場所からな。そしてユミールは、その『創造の力』の持ち主で、だからこそ神も人も喰らおうとしている」
父さんがいたの夕焼けの戦い。
そこでも、ユミールはこう言っている。
――我から創られた世界を、もう一度、我に戻す!
現にフローシアでも、神殿だとか、神の寶珠とか、あらゆるものを食べている。僕は冷気を噴き出す、殘されたヒビを見た。
この冷たさ、どこか覚えがあった。
ソラーナが空中で裂け目へ手をばす。
「……! これは、この世界が生まれる前。世界がまだ巨大な空隙であった頃の冷気に、そっくりだ」
に思い出が浮かび上がる。
ソラーナ達に、神話時代の戦いを見せてもらった時。
『創造の力』で世界が生み出される前の景だ。
そこには何もなくて、ただ冷たい魔力と、熱を帯びた魔力があった。それ以外は虛無だけが広がっている、本當の意味での空隙。
僕は空間の裂け目から吹いてくる冷風に、世界ができる前の、あの何もない景を思い出していた。
ロキが手を叩く。
「……なるほど。わかった」
手を広げ、肩をすくめているけど、タレ目の奧は真剣だった。
「この世界に『』をあけたわけだ。この場所に『』をあけて、出たい場所にも『』をあける。2つのを通り抜ければ、距離を問わず一瞬で移できる」
サフィが尋ねた。
「……よくわかんないけどさ。世界に、ユミールだけが通れる坑道みたいなものを造ってるってこと?」
「坑道か。まぁ、確かに近いね。ただ――」
ロキは言い淀む。
「ユミールの場合は、『』同士の距離はほとんどない。瞬間移、と言ってもいいだろう。なぜなら間に挾まるのが、世界創世前の何もない空間――大きい小さい、遠い近い、そういう概念さえない空間だからだ。結果的に、瞬間移になる」
……ロキの言葉は、不明な點も多い。
でも、僕はし納得した。だって、王都のど真ん中に魔を呼び出すなんて、そういう手でもないと無理だもの。
迷宮にはユミールが生み出した魔が大勢いた。おそらく生きを魔に変え、裂け目を通して王都へ送り込んだのだろう。
ソラーナが唸った。
「世界を喰らい、をあける力か」
世界喰らい。
人も、神様も、スキルも、何もかもを食べてしまう巨人は、とんでもない力に手をかけているのだろうか。
――勝てるのかな。
そんな弱気の風が、心に吹き込んでくる。
でも――
「ルゥ……?」
顔を上げた時、ルゥと目が合った。妹は僕を見つめている。
「大丈夫」
ルゥはに手を當て、ほほ笑む。一瞬、妹の顔に、言葉にできない壯絶なものが過ぎった気がした。
「お兄ちゃん」
ルゥは僕に背を向けて、今までユミールの幻影がいた位置を指した。
「さっき、気づいたことがあるの」
妹は、ユミールの幻影をもう一度出してみるよう、神様に求めた。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は9月18日(日)の予定です。
(1日、間が空きます)
【コミカライズ版 コミック ノヴァ様で近日連載開始!】
お待たせいたしました。
コミカライズ版の続報でございます。
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コミックノヴァ様に、すでに本作『神の目覚めのギャラルホルン』のバナーが出ていますので、
よければ見ていただければと思います。
(規約の都合でリンクがれなくて恐ですが・・・本當に素敵なバナーになってます!)
躍をさらに増したリオン達の冒険を、漫畫でもぜひお楽しみください!
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