《【書籍化】外れスキル『目覚まし』、実は封印解除の能力でした。落ちこぼれの年は、眠りからさめた神達と優しい最強を目指す。【コミカライズ企畫進行中】》4-28:終末の意味
迷宮の大空間は、しんと靜まり返っていた。
僕は何度か淺い呼吸をする。
落ち著こう。敵が手にれた力は規格外で、圧倒されてしまいそうだ。
でも、こういう時こそ基本が大事。
足を肩幅に開いて、意識してし腰を落とす。呼吸はじゃなくて、お腹の深い位置で行う。
世界を食い破る力。
僕は前に浮かぶ裂け目を見る。これから目を逸らしたら、勝利なんて得られない。
ソラーナが聲を震わせる。
「世界を食い破り、を開け、そこを通ることでどこにでも瞬時に移できる力というわけか。事実上の、瞬間転移だ」
薬神シグリスが、青白い顔で頷く。
「を配下の魔も通れるとすれば、どこにでも魔を送り込めます」
「なるほど」
茶髪のおさげを揺らして、狩神ウルが目を鋭くした。
「だから、この迷宮のような拠點だってあっさり捨てるんだね。どこにいても、世界にを開けて、魔の軍勢を王都へ送り込めるんだから」
空間の裂け目から、ひゅうひゅうと冷気が吹き込んでくる。やっぱり、世界ができる前の大空隙に吹き込んでいた、あの冷気に似ていた。
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僕は口を開く。
「……どこからでも攻めてこられるってことか」
王様が王城で呼びかけたり、冒険者を集めたりして、戦いに向けた守りは進んでる。
けれど、そんな力があるのなら、守りの側にユミールが突然に現れたりするかもしれない。
今この瞬間だって安全じゃない。この場にユミールと大勢の魔が移してきて、襲われる可能だってある。
ふと、心に疑問が生まれた。
そんなに強いなら、どうして『すぐ』攻めてこないんだろう。
力をためているのか、それとも仲間を集めているのか。
張をほぐせるように、僕はさらに深く呼吸した。
「報、足りないね……」
ロキがぱちんと指を鳴らす。
「では、もう一度、ここにいたユミールの姿を再現しよう。ルイシアのリクエストどおりにね」
魔神様は片目を閉じてルゥを見やる。
妹はこくりと頷き、空の目で僕を見た。
「気づいたことがあるの」
再び、壁や天井がうっすらと輝いた。の粒が地面から浮き上がってきて、やがてユミールの姿を再現する。
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今回は、幻影はかずに靜止していた。
2メートルを超える巨はそれでも威圧があるけれど。
「ここ!」
ルゥが幻影に駆け寄り、ユミールの左腕を指す。
妹がユミールの近くにいる景って心臓に悪い……。
気を取り直して巨の左腕を見ると、そこには腕がっていた。
「これ、フローシアで私が創った腕!」
みんなでユミールの方へ移し、ぴたっと止まっている相手を囲う。
ソラーナが唸った。
「本當だな」
氷の腕には、覗き込む神様の顔が映りこんでいた。
記憶を整理しよう。
「ええと。フローシアの戦いで、ルゥがこれを嵌めたんだよね?」
「うん。もともとは手枷だったんだけど……」
そのすぐ後の戦いで、右側の枷と鎖は砕けてしまった。だから左手の部分だけ殘って、腕のようになっている。
ということは――ユミールはなぜか片方の枷だけは、未だに砕けていない。
ルゥは拳を2つ作る。
「まだユミールは、この枷を壊せていない。だから――私達の中には、何か、敵でも砕けないものがあるんだと思う!」
妹はおさげを揺らして、まっすぐに僕を見つめる。
僕は頬をかいた。
ユミールがまだ左手側の枷を砕けていない理由は、確かにまだわからない。でも敵でも砕けない――対処できない何かが僕らにあるっていうのは、本當かもしれない。
そこから希を見いだしてくれるルゥも、すごいと思うけど。
「ね、お兄ちゃん? そうだよね?」
自然に笑えた。
「うん。ユミールも強いけど、僕らだってきっと負けてないっ」
聲は自分でもびっくりするほど、広い空間に響いた。
これ、空元気かな……。
でも下を向いているよりずっといい。
ヘイムダルが大笑した。
「はっは! その通りだ、敵は確かに大きく見えるが……」
涼し気な目を細める。
「疑問もある。ユミールの世界喰らい――面倒だな、瞬間転移とでもしようか、これができるなら脅威だが、なにか制限があると考えるのが自然だ」
ヘイムダルは空中に走る亀裂を指さす。
「有力なのは、ユミールとて転移に多くの魔力を消費することだ。決戦まで力を貯めているのだとすれば、今が靜かなことの説明もつく」
ソラーナが口を開いた。
「その點なのだが。ユミールが、なぜ王都での戦いから3週間後に攻めて來るのか――その理由がわかったかもしれぬ」
驚いて僕は神様を見返す。
ソラーナは苦笑して、頭を振った。
「正確には、『思い出した』というべきかもしれない。太の娘として、もっと早く気づくべきだった」
ソラーナはに手を當てる。
「みんな、目を閉じてほしい。わたし達、神々の記憶を見せたい」
僕はルゥや、ミアさん達と視線をわす。
そして目を閉じた。
頭にソラーナの聲が響く。
「これから、君たちに大昔の景を見せる。神話時代、わたし達が敗れた時の戦いだ」
閉じたはずの視界に、何かが浮かぶ。
炎だ。
一點の火はまたたくまに広がって、辺りを照らす。気づくと僕は空高くに浮かんで、戦火に燃える地上を見下ろしていた。
近くを見回すと、ルゥやミアさん、フェリクスさんにサフィもいる。神様達は僕らよりもいくらか低い位置にいて、同じように地上を見下ろしていた。
それは――1000年前の戦い。神様と魔がぶつかり合って、でも、勝てなかった。
今の戦いへと通じる、始まりの景だろう。
あまりにも高くから見下ろしているせいか、緑の丘陵で戦う一人一人の姿や、一一の魔は見分けられない。人間側も、魔側も、巨大な波のようだ。波はぶつかっては互いに押しのけたり、あるいは片方が砕かれ飲み込まれたりする。
ある時、そんな世界が急に暗くなった。
ルゥが囁く。
「夜……?」
ソラーナが、僕らの真下で応じる。
「いや。太だ」
神様は空を指していた。
丘陵を照らしていた太が、どんどん欠けていく。最後には、消えてしまった。
地上は夜のように暗くなって、魔側が勢いを増したように見える。
ソラーナが言った。
「……わたしの母さん、太の神が魔側に倒された時だ。わたしが役目を引き継いだゆえ、やがては回復したが、地上はしばしの間は暗くなった」
おそらく、このタイミングでソラーナは金貨に逃がされたのだろう。
太の神様がいなくなると、太から來るもおかしくなるってことか――。
「前の終末でも、敵は母さんを真っ先に狙った。太から降り注ぐ魔力は生きを強化する。わたしの『太の目覚めの』が、神々や、小人を目覚めさせているように。敵はまず、太を狙った」
ソラーナはし浮き上がって、僕らと目線を合わせた。
ぐるりとみんなを見渡して、神様は告げる。
「今回も、そうする」
「……ソラーナを狙うってこと?」
僕は慌てて口を挾んだ。
「なら、絶対に守るよ」
「むっ!? い、いや……わたしではないのだ」
ソラーナはちょっと頬を赤くして首を振った。ルゥがぐっとを乗り出して、フェリクスさんもずっと咳払いをしている。
「ご、ごほん。わたしは、し前から太の様子がおかしい気がしていた。それで、し様子を見ておったのだ」
そういえば――ソラーナは、そう言って金貨からいなくなる時が、たびたびあった。
『太の様子が気にかかる』って、何度か言っていた。
「結論から言う。近々、太のが弱まる。魔はそのタイミングを狙っている。逆に言えば、太が弱まる日が決まっているからこそ、終末は3週間後と決められていたのだ」
僕は首を傾げた。けど、トール以外の神様達は、納得したように頷いている。
ミアさんが尋ねた。
「……そんな日があるのか?」
「ある。日食だ」
僕も、父さんから聞いたことがあった。
ごくまれに、太が欠けて見える日があるらしい。その時は魔力が揺らいで、冒険者も注意をして過ごす。
偉い先生によれば、日食が起きる日はある程度予想できるらしいのだけど、実際に予知が可能なのかどうかまでは、僕もわからない。
「……過去、敵が太を狙った。そして、太が月のように満ち欠けすることがある。太の娘として、この2つはすぐに気づくべきだったが……」
ソラーナは顔を伏せて苦笑した。
「昔のことを振り返る勇気が、なかったのかもしれない。けないことだ」
だんだんと、眼下に広がっていた丘陵が薄くなっていく。
僕らは気づくと元の大空間に戻っていた。空間の裂け目からはまだ冷気が吹き込んでくるけれど、どこからか、暖かい風が流れ込んでくるのもじた。
迷宮の外では風向きが変わったのかもしれない。
「いい? まとめてみるよ」
僕はみんなの注意を引いてから、をした。
「ユミールは、魔を大勢連れて、瞬間転移ができる。でもそれにはたくさんの魔力が必要になる」
ロキが軽く手を叩いた。
「……太のが弱まる時、反対に、魔は強くなる。太の魔力を苦手とする魔は多いし、大昔に冷たい魔力と熱い魔力がぶつかりあったように、ものごとには相反する力が必ずある。太が弱まれば、相反する魔力――つまり魔を強化する魔力の方が、強まるのだ」
魔神様は指を振って、続ける。
「何より、世界を覆う封印はまだ有効だ。封印は神々がなしたものだから、太が弱まり、神々も弱まれば、一時的に封印も弱まるだろう」
その言葉で、はっきりと繋がったと思う。
僕は顎を引いた。
「大群の転移に、たくさんの魔力が必要になる。だから、ユミール達が強化される日食まで待つってことか」
それなら、筋がはっきりと通る。
日食を待ち、強化された力で魔を大勢王都の近くへ送り込む。そこから戦いを始めるのが、ユミールの策略なのだろう。
ヘイムダルが微笑んだ。
「敵の出方がわかった。なら、日食がきても王都の城壁には転移を許さない、そういう仕掛けをすればいい」
ロキが早速、腕を組んでいた。
「うーん。僕としては、封印をる霜の寶珠に、全力で魔力を注げば、王都と戦士団の神殿くらいは、魔の転移を防げそうな気がするね。設備の準備は小人に任せるとして……」
「……大変だけど、無茶ってほどじゃないわね」
サフィも鎚をくるくると回す。
うん、迷宮へった目的は、達できただろう。敵の出方がわかった。
僕はみんなへ呼びかけた。
「みんな、外へ出よう」
聲が上ずらないように心掛けながら、それでも、言葉を張る。
「勝とう!」
僕らは『の夕焼け』の迷宮を後にする。
父さんが命を落とした迷宮に、け継いだもの守ります、と角笛を握って誓いを立てた。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は9月20日(火)の予定です。
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【書籍発売中】【完結】生贄第二皇女の困惑〜敵國に人質として嫁いだら不思議と大歓迎されています〜
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8 73魔力ゼロの最強魔術師〜やはりお前らの魔術理論は間違っているんだが?〜【書籍化決定】
※ルビ大量に間違っていたようで、誤字報告ありがとうございます。 ◆TOブックス様より10月9日発売しました! ◆コミカライズも始まりした! ◆書籍化に伴いタイトル変更しました! 舊タイトル→魔力ゼロなんだが、この世界で知られている魔術理論が根本的に間違っていることに気がついた俺にはどうやら関係ないようです。 アベルは魔術師になりたかった。 そんなアベルは7歳のとき「魔力ゼロだから魔術師になれない」と言われ絶望する。 ショックを受けたアベルは引きこもりになった。 そのおかげでアベルは実家を追放される。 それでもアベルは好きな魔術の研究を続けていた。 そして気がついてしまう。 「あれ? この世界で知られている魔術理論、根本的に間違ってね?」ってことに。 そして魔術の真理に気がついたアベルは、最強へと至る――。 ◆日間シャンル別ランキング1位
8 199【書籍化】解雇された寫本係は、記憶したスクロールで魔術師を凌駕する ~ユニークスキル〈セーブアンドロード〉~【web版】
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