《【書籍化】誤解された『代わりの魔』は、國王から最初のと最後のを捧げられる》70 王妃の戸い 7

私の質問を聞いたクリスタは、「そうなのよね」と顔をしかめた。

「それが、あの子は総督として、ここのところずっとゴニアに滯在しっぱなしなの。でも、お義姉様がお目覚めになったと聞いたならば、すぐに戻って來るんじゃないかしら」

「総督?」

思ってもみない単語を聞いて、私は首を傾げる。

すると、クリスタは顔をしかめたまま頷いた。

「そう、ハーラルトは16歳とはいえ、王弟って立場だから、何かの頭の役職に就かせるのに適任なのよ。お兄様は王宮から出ようとしないから、代わりにいつだって、ハーラルトがこき使われているってわけ」

フェリクス様の話になる度に、必ず彼が非社的のように表現されることに違和を覚えるものの、それよりもハーラルトがゴニア王國に滯在しているという話の方が気になって質問する。

「まあ、それは大変ね。でも、ゴニア王國は獨立した國じゃなかったかしら?」

私の記憶が正しければ、10年前は國境沿いにある鉱山を巡ってゴニア王國と戦っており、その戦いにスターリング王國が勝利したところだったはずだ。

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つまり、ゴニア王國は獨立した別の國だったのだ。

けれど……、通常、『総督』というのは、占拠した土地に置く役職のはずだ。

それに、10年前は戦爭が終結したばかりで、ゴニア王國とはぎすぎすしていた。

だからこそ、フェリクス様が倒れた原因となった毒蜘蛛は、ゴニア王國から持ち込まれたのではないかと疑われていたはずだ。

そんな國に滯在して、ハーラルトの安全は守られるのだろうか。

心配になってぎゅっと手を組み合わせていると、クリスタが思ってもみないことを口にした。

「ああ、ゴニア王國はお兄様が併合しちゃったのよ」

「えっ!」

併合とは、別の國を自分のものにすることだ。

ゴニア王國とは長年爭いを繰り返していたはずだけれど、その相手國をたった10年で制圧したということかしら。

驚いて目を見開いていると、クリスタは何でもないことのように追加報を口にする。

「もっと言うと、その隣にあったネリィレド王國もお兄様が併合したの。だから、今やスターリング王國は、大陸一の広さを誇っているのよね。そのため、現在のルピアお義姉様は、大國の王妃なのだけれど、……お兄様から何も聞いてないかしら?」

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目を見開いたまま、ぶんぶんと首を大きく橫に振ると、クリスタはどういうことかしらと首を傾げた。

「あら、そうなのね。お義姉様が目覚めてから何日も経ったから、とっくにその辺りのことは説明していると思ったのだけど……。詳しい話を聞きたいなら、お兄様に尋ねたらいいわ。突然、強策に出たのはお兄様だし、結局のところ、お兄様の真意をはっきり把握している人はいないのだから、本人に聞くしかないのよね。なぜなら肝心のお兄様の口數がなくていらっしゃるから、私たちはお兄様の考えを推察するしかないのよ」

「口數がない?」

最近のフェリクス様は、前にもまして饒舌に思われるため、不思議に思って聞き返す。

すると、クリスタはおかしそうな笑みを浮かべた。

「ああ、お義姉様の前ではぺらぺらしゃべるのかしら。そうだとしたら、沈黙が怖いのかもしれないわね。だから、無理してしゃべっているのかもしれないけれど、……でも、今のお兄様はお義姉様以外どうでもいいから、他の者の前では全く気を遣わないのよね」

次々に新たな報が飛び出し、どう考えてよいのか分からなくなって沈黙していると、クリスタはさらに話を続けた。

「ほら、お兄様って能力だけは恐ろしく高いでしょ? そして、お義姉様が眠ったあたりから、々な能力を開花させちゃったのよね」

「……そうなの?」

話の中のフェリクス様が、私の知っていたフェリクス様と全く異なるため、段々と別人の話を聞いているような気持ちになる。

そのため、自信なさ気に尋ねたけれど、クリスタにとっては新たなフェリクス様の方がお馴染みのようで、當然だといった様子で大きく頷いた。

「そう。前はできるだけ全部、自分でやっていたお兄様が、お義姉様の枕元から離れたくないと考えて、人を使うことを覚えたのよ。そしたら、お兄様はその部分がものすごく優れていたみたいでね。適材適所っていうのかしら? これ以上はないくらいぴたりとはまる人を、その役職に據えるのがお上手だったのよ。意外のある、ものすごい昇級みたいな人事もいくつもあって、そうしたら、選ばれた人たちがまた頑張っちゃって」

それから、クリスタは優雅な仕草で肩を竦めた。

「だから、お兄様の煌びやかな実績はどんどん積み上がっていったわけ。たとえば、併合したゴニア王國は食糧不足にあえいでいたから、大規模な灌漑工事と土壌改良策を行った結果、たくさんの作が実るようになったのよ。だから、大勢の農民たちがお兄様に謝したけれど、お兄様は嬉しそうな様子も、得意気な様子も見せず、『ああ』とだけ口にしたのよね」

「まあ、そうなのね」

クリスタは簡単に口にしたけれど、一國の食糧不足を解消したとしたら、それはものすごいことだ。

それ以前に、2つもの國をたった10年で併合したのだとしたら、それこそ歴史に殘る偉業に違いない。

初めて聞く事実に、ただただ驚いていたけれど、クリスタにとっては人間味をなくしたフェリクス様の方が問題のようで、「そうなのよ!」と勢い込んで返事をした。

「あまりにも無口を貫くから、誰もお兄様が何を考えているのか分からないのよ。でも、実績自は疑いようもなく素晴らしいものだから、いつの間にか、みんながお兄様の分からない部分を好意的に解釈し始めたの。さっきのゴニアの農民たちがお兄様に謝した件も、『「ああ」とだけ答えるとは、フェリクス王にとって人民を救われることは當然のことなのだ、素晴らしい!』みたいな話になってしまったんだから」

それから、クリスタは腕を組むと、皮気にを歪めた。

「そして、そういうことがいくつも積み重なった結果、お兄様は伝説の生きみたいな、すごい王として皆から讃えられているのだから、世の中、分からないものよね。『真王』とか『神心王』とか、とんでもない呼び名が付いているんだから」

「まあ、さすがフェリクス様ね」

10年前のフェリクス様は『虹の神のし子』と呼ばれていたけれど、それは神から恩寵を與えられていることに由來していた。

けれど、10年経った今では、彼自の行が評価された呼稱で呼ばれているのだ。

やっぱりフェリクス様は立派な方なのだわ、としみじみと納得していると、クリスタが警告するような聲を出した。

「お義姉様はそうやってすぐに、他人のいいところをれるんだから。用心した方がいいわよ。お兄様は人としては問題が大ありだけど、ものすっごく有能なのは間違いないから。そして、その能力の全てを使って、お義姉様を手放すまいとしているのだから」

私が目覚めて以來、フェリクス様が私に対してものすごく手厚い対応をしてくれていることは間違いない。

けれど、その理由が分からなかったため、クリスタならば何か知っているのかもしれないと考え、尋ねてみる。

「フェリクス様はどうして、私を引き留めようとしているのかしら?」

すると、クリスタから間髪をいれずに答えが返ってくる。

「それは、お兄様が心の底から、自分が一番お義姉様を幸せにできると信じているからよ! ふふふ、問題なのは、あながちお兄様の思い込みでもないかもしれないということね。誰よりもお義姉様をよく見ていて、誰よりもお義姉様が幸せであることに心を砕くとしたら、お兄様のスペックの高さも手伝って、実現できるかもしれないもの」

クリスタは「だけど」と続けると、ぱちりと片目を閉じた。

「10年前のお兄様には々と腹立たしいことがあったから、もうし焦らして、やきもきさせてもいいと思うわよ。決定権はお義姉様にあるのだから、々と試してみた結果、最終的にお兄様を選ばなくてもいいのだし」

「クリスタ、フェリクス様はそのように扱われる方では……」

言いかけた言葉を、クリスタから途中で遮られる。

「でも、イエスの答えを出す時は慎重にね。そうしたら間違いなく、お兄様は二度とお義姉様を手放さないと思うから。……この場合、ノーと答えても、手放す未來が見えないところが恐ろしいのだけど」

クリスタは一度言葉を切ると、真っすぐ私を見つめてきた。

それから、生真面目な表で続ける。

「でも、結局のところ、幸せをじるかどうかはお義姉様のお心次第だから、お兄様がどれだけ獻的に盡くしたとしても、お義姉様が嬉しくじなければ意味はないのよ。……お義姉様は目覚めたばかりで、まだ々と混しているはずよ。だから、もうし落ち著いたらでいいから、その時は、お義姉様がどうしたいのかを考えてみてほしいの。私はお義姉様の味方だから、お義姉様がまれることを何だってお手伝いするわ!」

いつも読んでいただきありがとうございます!

ノベル発刊に向けて作業をしているところですが、「誤解された代わりの魔」の章(プロローグ~35誤解8)で、追加で読みたいお話はありますか。

がありましたら、コメントやメッセージをいただけると助かります。

參考にさせていただきますので、どうぞよろしくお願いします(❁ᴗ͈ˬᴗ͈)”

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