《【書籍化】外れスキル『目覚まし』、実は封印解除の能力でした。落ちこぼれの年は、眠りからさめた神達と優しい最強を目指す。【コミカライズ企畫進行中】》4-30:神々の黃昏
終末の日がやってきた。
やけに靜かな朝だ。
『起こし屋』で習慣になった早起きは、きっといつもどおりの起床時間。
でも、朝の気配がしおかしい。
空気がぴんと張り詰めて、獣も鳥も鳴いてこない。なにか不思議な力が世界中に満ちて、生きを押さえつけているかのようだ。
素早く靴をはき、著替える。僕は神殿の塔から外へ出た。
井戸で顔を洗ってから、短剣、アーマー、籠手(ガントレット)、ポーチ、膝當て、と順番に裝備を確かめていく。
最後にポケットから金貨を取り出した。コインは薄闇でもきらめいて、彫り込まれた神様が笑いかけてくれたように思う。
ポーチの角笛から、ヘイムダルが聲をかけてくれた。
『運命の朝だな』
涼しい風が渡る。
僕は顎を引いて、金貨をぎゅっと握った。
「――うん!」
軽食や準備運を終え、テントが増えた中庭を橫切り、城壁へ駆け上がる。
地平線から朝日がゆっくりと昇っていった。なだらかな丘陵に並ぶ冒険者や、騎士の鎧姿が、きらりとを照り返す。
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僕は目を細めた。
「……こんなに集まってくれたんだ」
言葉がれてしまう。
王都を囲う數萬人と、僕らの神殿を守る數千人。
これほどの人と神々が一緒になって、魔の軍勢とぶつかり合う。
首後ろに鳥が立った。まるっきり神話の景と同じだったから。
『封印』による敗北の先送りが、正解だったのか、失敗だったのか、1000年の歴史に答え合わせが下される。
いつの間にか神殿が騒がしくなっていた。ミアさんやフェリクスさんを始めとする冒険者、そして、サフィ達のような小人が、続々と城壁や堀前で配置についていく。
ルゥは『霜の寶珠』がある大塔の地下に避難しただろうか。母さんは、施療院で働いていた経験を活かして、治療所を兼ねる聖堂で待機する。
大地に満ちる戦意。
きっと王都中の何萬という視線が、空を昇る太に向けられているだろう。異変をわずかでも見逃さないために。
意識を集中させて、僕はその時を待つ。
ポケットで金貨が微震。
神様の聲がした。
『くる』
備えのおかげで、僕はすんなり応じられた。
「ああ」
すっかり昇りきった太。その端がし欠けた。巨大な口に齧り取られていくように、黒々とした欠落の範囲は広がっていく。
丘陵にどよめきが起こった。
日食が起きることも、そこに神々を弱らせる狙いがあることも、戦いの參加者には告げてある。それでも揺が走るのは、きっとそれだけ、太が欠けていく景が終わりを思わせるからだろう。
ヘイムダルが呼びかけた。
『リオン』
金貨から神様が、口々に勵ます。
『今度は、俺も最後まで戦うぜ』
『シグリスも、最後まで』
『無論、ボクも。今度こそ生きを守ろう』
最後にロキが引き取った。
『ふふふ、こちらの準備も萬端だ。日食は本來、「月」が影響するごく自然な現象だ。まだ、恐れることはない』
まだ、ね。
そう付け足すロキの言う通りだ。
太がって、世界は燃えるような夕焼けに染まっている。
やがて黒影が太全を覆い、わずかに殘っていたが、燭臺の最後の明かりみたいに一際強い輝きを殘した。
そして、空から太が消える。
世界は夜明け前、黎明(れいめい)のに染まっていた。
丘陵は靜まり返っている。誰かが咳をする聲が、何百メートルも離れているだろうに、いやに大きく聞こえた。
僕は空を睨む。
太があった位置に、薄いのリングが現れていた。まるで世界にぽっかりと穿たれただ。
――ギシリ。
何かが軋む音。
の円環、その左右にヒビがっていた。亀裂はどんどん大きくなり、天頂から地平線まで屆いてしまいそうなほど巨大な裂け目を生み出す。
はっ、はっ、と息がれる。
丘陵に魔が続々と降りたっていった。
狼の遠吠えや、のたうつ世界蛇の咆哮、そして無數の魔達の聲が、歓喜とも怒りとも聞こえる音で聴覚を塗りつぶしていく。
きっと、城壁や地上で戦う仲間達も同じだろう。
だからこそ、僕が吹かなくちゃいけない。
『――始まりだ』
ヘイムダルの聲で、僕は目覚ましの角笛(ギャラルホルン)を取り出す。
――――
<スキル:目覚まし>を使用しました。
『角笛の主』……角笛の力を完全に引き出す。
――――
僕は目覚ましの角笛(ギャラルホルン)を吹き鳴らした。
音が全世界へ渡っていく。
――――
<スキル:目覚まし>を使用しました。
『封印解除』を実行します。
――――
闇空にのカーテンが躍った。
それは神々の魔力が織りなすオーロラ。
世界中に響き渡った角笛は、各迷宮で眠る神々を起こす。そして今の危機に立ち向かう力を――魔力を貸してもらうんだ。
地平線の上に、數えきれないほどの點が生まれていく。
「……!」
金貨と角笛から神様達が飛び出してくる。
ヘイムダル、トール、ロキ、ウル、シグリス、そしてソラーナ。
はためくオーロラの下に、彼方から無數の虹がかかった。七の橋は全て僕の頭上で合流。
とりどりの魔力がソラーナに注がれる。
目覚めた遠くの神々が、この場へ魔力を送ってくれた。
「ゆくぞ」
神様が腕を振ると、消えかけた太からが差してくる。
太が力を取り戻したみたい。
暗かった大空はもうし明るい、黃昏(たそがれ)のとなる。
燃えるような空と大地だ。
その下で、僕らは襲い來る魔と対峙する。
「いこう!」
僕は角笛を掲げた。
「魔を、終末を、跳ねのけるんだ!」
僕は、魔力を出しきった角笛に息を吹き込んだ。
神様だけじゃなくて、みんなを鼓舞するために。
――勝とう!
鳴り響く角笛に応じるように、王都中で喝さいが起こる。
巨大な蛇が、巨大な狼が、丘陵を進軍した。魔の軍勢の奧に、原初の巨人――ユミールの姿がはっきりと見える。
人間と神々の軍勢が、魔の大波と衝突した。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は9月25日(日)の予定です。
(2日、間が空きます)
いつもよりし間が開きますが、諸作業がありまして・・・。
恐ですが、ご理解いただければ幸いです。
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