《お薬、出します!~濡れを著せられて治療院から追放された薬師さんが辺境で薬屋を開きました。極めたポーションは萬能薬と呼ばれて回復魔法を超えるようです~【書籍化コミカライズ企畫進行中】》急事態!
「あなたの治癒魔法の完度は高いが、治癒師として失格だろう」
村長がレリックを竦める。
レリックは震いしそうになるが、かろうじて目を逸らさない。
目の前にいる老人が何者なのか、そればかり考えていた。
村長が厳格で知られた前國王であることなど、夢にも思っていない。
「……失格とは隨分な言い草ですな。この治癒魔法は治癒師協會の上層部にも認められており、王都の民も求めている」
「治癒師協會の真意や方針まではわからん。しかし、あなたの治癒魔法が求められるのは當然だ。王都は國でもっとも人が行きう場所。ざっくり言えば軽度の癥狀でも一日に數えきれない人々が治療院の世話になっておるからの」
「それがどうしたというのか」
「わからんか? 人々は治療院の世話になるしかないのだよ。求められているのは當然だ」
老齢の人間相手とはいえ、レリックはプライドが高い人間だ。
ここまで反論されることなど、彼の人生においてほとんどなかった。
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ストレスで眉が痙攣して、握り拳を作っている。
「治癒師全盛期とはいえ、患者に対してまだまだ治癒師は足りん。あなたもその一人、ただそれだけだ」
「私がその他大勢と言うのかッ! たかが田舎の村長ごときが頭に乗るなよ!」
「自らを特別などと思いあがるなと私は言いたいのだ。必要とされているのは事実だからの」
「ならばそこの薬師の娘はどうなのだ! 私の治癒魔法よりも優れていると!?」
村長が何か言う前にメディがレリックの前に立った。
白十字隊(ヘルスクロイツ)がレリックの両脇に立っているにも関わらず、微塵も恐れていない。
いつものメディではなく、その目には蔑みや怒りともつかないようなが籠っていた。
「あなたの治癒魔法は患者さんを苦しめています。しでも早く苦しみから解放されたいのが患者さんなんですよ」
「下らん。大切なのは結果だろう? 結果的にお前の薬以上の果を上げている」
「下らない……?」
レリックは絶句した。
そこにいるのが田舎娘ではないと錯覚したからだ。
白十字隊(ヘルスクロイツ)や書のヘーステイすら、村長以上の圧をじている。
レリックは自の後ずさりにすら気づかない。
「患者さんを苦しめることが下らない……ですか」
「な、なんだ、この娘は……」
その時、遠くから轟音が響いた。
音の発生源が山のほうからということで、一部の者達の行は早い。
「地すべりか崖崩れだ!」
「アイリーンさん! 山にってる狩人の人達っている!?」
「いたはずだ! エルメダも來てくれ!」
アイリーンとエルメダに続いて、獣人部隊の獣人達が走る。
その際にアイリーンはメディを背負っていた。
以前はメディが山へることを渋ったアイリーンだが、今は否定しない。
むしろ一秒でも早くメディの薬を屆けなければいけないとわかっていた。
「先日の雨の影響で地盤が緩んでいたのだろう。私も警戒しておくべきだった……」
「アイリーンさん……。誰も山にってないですよね? きっと大丈夫、ですよね……?」
メディの本心だった。
元より患者が出ることなどんでいないのだ。
ましてや最悪の事態など想定したくない。
その様子をレリックが呆然として見ており、そして走り出した。
* * *
地すべりの影響で土や木、巖がり混じっている。
殘っていた狩人が青ざめて立っており、アイリーンがすぐに瓦礫の撤去を始めた。
ドルガー達、獣人達も作業を開始して間もなく、二人の救出に功する。
奇跡的に目立った損傷はないが、気を失っていた。
「ショックで気絶しています。細かい傷などの外傷以外はありません。お薬、出します」
「こっちはどうだ?」
「左足の骨折とあばら骨が折れて重癥です。お薬、出します」
「頼む」
追いついたレリックはその景が信じられなかった。
薬師であるメディが見ただけで的確に癥狀を言い當てたことに驚いている。
その跡、次々と救出されて最終的な人數は十六人にも及んだ。
中にはロロと共にやってきた移民も含まれており、彼らが狩人を志していたことをメディは思い出す。
十六人という重傷者にレリックは心、白旗をあげていた。
「無理だ……。これだけの人數であればすべては救えん」
「そう思うか?」
「極剣、私を侮るなよ。あの薬師の娘は今日、現実を思い知るだろう」
「フ……」
「何がおかしい?」
アイリーンの冷笑にレリックは苛つく。
現実が見えてないのか。そうまでして小娘を擁護するのかとアイリーンを軽蔑した。
「メディは全員を救う」
「できるものか!」
「ではそれが実現した時、お前は思い知るだろう。メディという薬師をな」
極剣といえど、しょせんは冒険者かとレリックは平靜を保つ。
しかしアイリーンの様子は一切変わらない。
白十字隊(ヘルスクロイツ)もまたアイリーンを睨みつけていた。
「レリック様、気にする必要はありません。あれは我ら白十字隊《ヘルスクロイツ》への招待を何度も蹴ったです」
「そうです。何の思想も持たない野良犬の戯言ですよ」
彼らの言葉などレリックには屆かない。
メディが手際よくポーションを飲ませて、時にはその場で調合する様に魅っているからだ。
その手腕に迷いなどなく、やがて怪我人が目を覚まして立ち上がる。
「た、助かったよ」
「よかったです。念のため、休んでいてください」
バカな。
レリックは心の中で呟いた。
その男は間違いなく重傷者であり、レリックの治癒魔法ですらここまで手早く完治させられない。
薬師ではなく、実は治癒魔法を使ったのではないかとすら考えていた。
「こちらの方は臓が激しく損傷しています! 更に圧が高く、胃腸も強くない人です! イエローハーブとクラホフの実を調合したポーションですね!」
「見ただけでそこまでわかるものか!」
「うるさいですッ!」
ついにレリックはメディに怒られてしまった。
もはやメディに対して口出しする材料がない。
震える拳のやり場がなく、せっせと治療に勤しむメディを見ているうちに段々と力が抜けていく覚を覚えた。
「……やれるものならやってみろ! 一人でも死なせた時點で笑わせてもらう!」
「三流治癒師は黙ってなよ! あんたは本來、ここにいる資格すらないッ!」
エルメダの一喝でレリックはいよいよ黙ってしまった。
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