《【書籍化】外れスキル『目覚まし』、実は封印解除の能力でした。落ちこぼれの年は、眠りからさめた神達と優しい最強を目指す。【コミカライズ企畫進行中】》4-31:戦闘開始

黃昏(たそがれ)の空をが飛んでいた。

は外周のみを殘して影に覆われ、黃金ののようになっていた。は強いを放ち、暗闇に抗っている。

時間帯としては朝日が昇ったばかり。けれども丘陵地帯は燃えるような夕焼け

王都の城壁も、し離れて孤島のように建つオーディス神殿――の戦士団の拠點も、赤く染まっていた。

――懐かしいのう。

オーディンの使いであるは、空から主の言葉を聞く。

眼下では魔の軍勢が陣地と激しくぶつかり合っていた。

翼を傾けて、はゆうゆうと旋回していく。

――次の世界へ連れていくべき英雄も、この戦いでよりはっきりと素質を示すだろう。

主は地上のあらゆる場所に、配下であるを送っていた。

を氷に押さえつけていた封印が、全世界規模で緩んでいる。

日食による封印の弱まり。そして、『霜の寶珠』を喰らったユミールは、この瞬間も各迷宮へ封印を緩める魔力を発している。

東西南北のダンジョンからも魔が溢れ、王都城壁を守る騎士らと爭っていた。リオン達は、神殿に集まった數千人で終末を戦い抜かなければなるまい。

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は、各地でも続々と目覚めている。魔と人間の戦いは、王都だけでなく、王國中、そしてアスガルド王國の外でも行われていた。

リオン達がまだ知らぬ土地に至るまで、世界中の命運がこの戦いにかかっている。

戦線に沿って飛んでいると、巨大な狼が前線を橫切った。

――ほう。

主神も、関心を抱いたようだ。

――狼骨が最初にくか。

丘ほどもある大狼が、赤く染まった野を駆ける。狼の魔を従え、素早いきで陣をやすやすとかいくぐった。

は翼を神殿へ向ける。

1000名ほどに分けられた4つの防衛陣が、神殿の東西南北を守っていた。上空には、トール、ヘイムダル、ロキ、ウル、シグリスといった神々が浮かび、戦線を支えるだろう。

だが太の娘ソラーナの魔力は、前線にない。信徒の年と共に、後方で控えているようだ。

主神の聲が笑う。

――なるほど、のう。

は陣形の奧、神殿へ飛ぶ。

城壁には、小人達の巨大弓(バリスタ)や、冒険者の弓使い、そして魔法使いが配備されていた。そして城壁の前、30メートルの幅は陣形がまばらだ。

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敵をい招くように、巧妙にいくつもスペースが開いている。

――きの速い魔は、防衛陣をすり抜けて、いち早く神殿を狙う。

――そう読んでのことか。

狼骨フェンリルや、穣神フレイ。そうした強大な上に素早い敵を、陣形で防ぐには限界がある。

だから、割り切った。

城壁前に陣形の隙間を作る。その空間で、飛び込んできた敵をリオン達が迎撃する。敵の速攻で後方が荒らされるなら、後方にそもそも陣形を集させない発想だ。

敵の速攻を警戒し、後方にリオンら主力冒険者を置く賭けともいえた。

前線の負擔が増すが、そのために神々が上空で待っていたのだろう。

実際、トールが世界蛇ヨルムンガンドへ、ヘイムダルが地上をゆくユミールの前へ、それぞれ降り立つところだった。

――戦力は拮抗。

主神はそう斷じる。

――ならば、最初にいずれかの主力を撃破した方が、優位になる。

なぜなら、自由になった主力級が、次の戦場へ援護に向かえるからだ。

は一鳴きしてさらに高度を上げる。戦場を見下ろし、英雄たちの戦いを見守った。

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まずは――陣形をなぎ倒して進む狼骨フェンリルの行く手からだ。

鎖が、じゃらりと日を弾く。

神殿の城壁前、ミアは鎖斧をばして狼達を薙ぎ払った。討ちらしはフェリクスが炎弾で対処する。

ミアは鎖で斧を引き上げると、ぐっと口角を上げた。

「へ! 予想通り、いきなり飛び込んできやがったな!」

達の大部分は、集まった兵士や冒険者に足止めされている。前衛には小人達が持ってきた番兵ゴーレムも配置され、文字通り『壁』となっていた。

けれども、それらものともせず、城壁に迫る魔がいる。

高5メートル以上の大狼――フェンリルだった。

「また會いましたね」

巨大な狼が、大口を開け迫る。

ミアとフェリクスは左右へ避けると、牙ががちんと空を切った。すれ違っただけで、突風にをもっていかれそうになる。

「とんでもねぇなっ」

舌打ちするミア。

「ふッ」

フェンリルは素早くをひるがえし、城壁を睨んだ。矢や氷弾が飛んでくるのを避けながら、あえて作られた陣の空隙を駆けていく。

ミアとフェリクスは大狼を追いかけた。

「……やはり、敵は攻撃の主力を決めていますね」

「ああ。そういうことだ」

素早い大狼フェンリル。そして、凄まじい大きさで兵士や騎士を押しつぶしてしまう世界蛇(ヨルムンガンド)。

どちらも他の魔と比較にならない。

はおそらく『萬』という単位で用意されているだろうが、強大すぎる魔は、たとえばゴブリンやコボルトと足並みをそろえて進軍などしまい。

必ず、突出してくる。

戦いは、二つの面に分かれていた。

數で押してくる魔を、大勢の冒険者や兵士で撃退する。

そして防衛陣をものともせずにやってくる強大な魔を、リオンやミア達、そして神々で撃退する。

前者が數で押し合う『決著に時間がかかる戦い』だとすれば、後者は瞬時に決著がつきかねない『速攻』だ。たとえば序盤で世界蛇(ヨルムンガンド)が神殿に突っ込み、城壁を破壊すれば、それだけで一気に瓦解しかねない。

冒険者や兵士で數を揃えても、強大な魔による速攻をしのげなければ、意味がないのだ。

だからこそ、ミア達は作戦を考えてある。

「――フェンリルは頼んだぜ、リオン」

大塔から小柄な影が飛び降り、大狼の正面へ降り立った。

素早い狼には、同じく素早いソラーナとリオンが挑む。

作戦とは――すでに判明している敵の主力に、相のいい味方をぶつけること。

フェリクスが細目をさらに険しくする。

「今のところ、作戦通りです。世界蛇(ヨルムンガンド)にはトール神、ユミールには相対した経験のあるヘイムダル神が挑んでいます。殘るフレイには索敵に優れるウルが、そして狼骨ハティも神々が対処するはずです」

赤髪をかきあげて、ミアが肩鎧を斧の柄で叩いた。

未知の敵がいないとも限らないが――確かに、報は使うに越したことはない。

小聲で付け足す。

「ま、そう完璧にいくとは思えないけどね」

その時、ミアはぞくりと殺気をじた。後ろへ振り返る。

大柄な人型魔が、2人を見下ろすように立っていた。

フェリクスが口元を引きつらせる。

「ミア、余計なことを――」

「あたしのせいかよ!?」

荒布をまとった、2メートル超の巨。右手の錫杖には狼を模した裝飾があり、男の口は耳まで裂けていた。

ぐばりと口が開く。

ギザギザの歯の間から、低い詠唱がれてきた。

「……狼骨ハティ」

続く詠唱。

ミアとフェリクスは後ずさる。

作戦の欠點は……敵のきにより、當然ながら、んだ組み合わせにならないということ。ハティは狼骨フェンリルの背中にでも乗って、ここまで切り込んできたのだろう。

フェリクスが空を盜み見た。

「神々は、來ませんね。別の前線や、フレイ神の対処があるのかもしれません」

ミアは舌打ちして鎖斧を構えた。

――伏せろ!

後方から、聲。

城壁からハティの巨に向かって、矢や炎弾が降り注ぐ。けれどもそれらは全て魔法障壁に防がれた。

ハティが錫杖を地面に突き刺すと、ミア達の足元が揺らぐ。

「うおっ!?」

地面から巖が浮かび上がり、城壁に向け投された。

城壁で悲鳴と破砕音が連鎖する。砕かれた巨大弓(バリスタ)の破片が降ってきた。

ハティがぐばりと裂けた大口を開ける。

「カァ!」

の周囲に、炎弾や氷弾が生じる。次々と城壁に打ち込まれ、小人達が刻み込んだ魔法文字(ルーン)が悲鳴をあげるように輝いた。

フェリクスが端正な顔を歪める。

「この距離から、あれほどの大威力で城壁を攻撃するとは……!」

魔法使いの力量は、威力と範囲。神話時代の怪は、どちらも規格外だ。

裂けた口を歪めて、相手はミア達へ杖を掲げる。

ミアは、口の端を引きつらせた。笑えないのに、笑えて來る。

「……こっちは、普通の冒険者だってのによ」

冒険者の強さを示すレベルは、ミアが34、フェリクスが42。リオンのように神(ソラーナ)が共にいるわけでも、加護が複數あるわけでもない。

かつて駆け出しだった年は、先輩だったミアを、英雄として追い抜こうとしていた。

緋の斧が勵ますようにうっすらと輝く。

フェリクスが杖をついて手を差しべてきた。

「私達もこの戦いでは英雄にならないといけない。そういう事のようですよ」

「……おう。仕方ないね」

ミアは右手の鎖をぎゅっと巻きなおした。

左に立つフェリクスと、頷きあう。

この最初はいけ好かなかった細目の魔法使いとも、何度か視線をくぐり、一緒に訓練した。

今なら――負けない!

ハティを睨みつけた。

「……あんたの狼骨スコル(親戚)には、痛い目に遭わされたんだ。ここらで、借りを返させてもらうよ!」

どん、と大きな音がして地面が揺れた。

僕はソラーナと巨大な狼に向けて対峙する。ちらりと視線だけ右へ向けると、ミアさんとフェリクスさんが、離れた位置で別の大――おそらくは狼骨ハティと戦っていた。

宙に浮かびながら、ソラーナが腕を組む。

「わたし達は狼に縁があるな」

大狼フェンリルは、荒々しく息をしながら僕らを見據えていた。

家よりも大きな狼は、存在するだけで僕を威圧してくる。

「……結局、魔に降るでもなく、新しい世界に逃げるでもなく――」

フェンリルは獰猛な牙を見せて、笑った。唾に濡れた一本一本が、剣並みに大きい。

「本當に、何の関係もない人間を守るため、我々と戦うとは」

フェンリルは言いながら、僕の周りを円を描くように歩く。

に飛びかかるタイミングを計っているようで、とても怖く落ち著かない。

「あなた方の考える『群れ』は、我々とはかなり異なっているようだ」

短剣を構えたまま、僕はフェンリルから目を逸らさなかった。大狼はそれきり靜かになる。

激戦の音が空に響いて、地面も振を続けていた。でも、フェンリルとの対峙はおそろしく靜か。

集中だ。

水一滴が落ちる音さえ、今なら聞こえる。

フェンリルが一つ、吠え聲を放った。

それが合図だったのだろう。

周囲から影が走り寄ってくる。戦線を突破した、狼の群れ。

僕に向かって飛び上がり、爪と牙で引き裂こうとしてくる。

「目覚ましっ」

周囲に炎が起こる。

裝備のクリスタルから風の霊(シルフ)と炎の霊(サラマンダー)を呼び覚ました。

「わんっ」

「ぴぃ!」

2種類の霊を、ロキの加護『霊の友』で組み合わせたんだ。風が火を強めれば、単なる炎も炎になる。

弾き飛ばされた狼達は、一瞬で黒い灰となった。

僕は右手の籠手(ガントレット)から水の霊(ウンディーネ)も呼び出す。堀から水を巻き上げ、即席の水壁をフェンリルへ向けた。

「……勝つ、つもりでいるということですね? フレイに勝ったからといって……」

敵との戦力は拮抗してるなら、僕自の戦いだって落とせない。

「當然っ!」

びに呼応するように、フェンリルが飛びかかってきた。

轟音があらゆる方角から響いてくる。きっと、みんなも、戦ってる――!

お読みいただきありがとうございます。

次回更新は9月27日(火)の予定です。

(1日、間が空きます)

【コミカライズ版 コミックノヴァで連載中!】

・9月23日(金)からコミックノヴァ公式で連載をしております!

コミカライズ版ならではの戦闘描寫などもありますので、

第1話からソラーナとリオンの活躍をお楽しみいただければ幸いです!

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