《【書籍化】隻眼・隻腕・隻腳の魔師~森の小屋に籠っていたら早2000年。気づけば魔神と呼ばれていた。僕はただ魔の探求をしたいだけなのに~》03

「やっとついたね。いつまでも目的地が見えない旅路は神的にしんどいけど、港灣都市は近づくにつれての臭いが強くなっていくから気持ち的には楽だったよ」

長年付き添った左の義足を用にかして歩く隻腕の青年エインズが二人の剣士を連れて歩く。

緑がない砂利道を巨大な軀の剣士タリッジと細くしなやかなつきをした騎士ソフィアがエインズを挾んで両隣を歩く。

「エインズ様は港灣都市エリアスに來たことがあるのですか?」

エインズの半歩後ろを歩くソフィアが尋ねる。

「隨分と前のことだから街の名前は忘れたけどね、海は見たことがあるよ」

初めて見たときはその広大さにしたものだと言うエインズ。

「隨分と前って、お前まだ人にも至ってないだろう。なに年寄りみたいなことを言ってんだ」

「いやー、まあ、そうだね。僕って忘れが激しいからさ、隨分と昔のことにじてしまうんだよね」

エインズの正をはっきりと知らないタリッジは、本當にボケた男だなと呆れかえる。もちろんタリッジのそんな態度はソフィアからすれば無禮そのものなのできつい視線が向けられる。

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「タリッジはどうなの? 途中、よく顔をしかめていたけど。海は初めてなの?」

「俺はガイリーン帝國の生まれだからな。四方は陸で囲まれていたし、王國まで遊びに出かけるほど金銭的に余裕もなかったしな」

こんな鼻につく獨特な臭いなのに海を見たがるやつらはなんなんだろうな、と悪態つくタリッジ。

「ということはもしかして魚料理も食べたことがない?」

「一応帝國の方にも魚は運ばれてくるんだ。だがよ、そのどれも保存が効くように加工されたもんばっかでな。価格も割高なうえに保存と変わらねえ。出されれば食べるけどよ、好き好んでは食べねえな」

「僕も魚は食べるのが久しぶりだからね、すでにもう唾が溢れているよ」

三人は話をしながら見えてきた関所の列に並んだ。

適當な検問に列はスムーズに進む。

あっという間にエインズらの順番になったのだが、そこでピタリと流れが止まる。

門番の二人の視線がエインズに留まる。

「そこの剣士と男の剣士は通っていいが、そこのお前、お前はちょっと止まれ」

ソフィアとタリッジはあっさりと通してもらえていたが、エインズだけは引っ掛かってしまった。

「これって、もしかして……」

「お前、……怪しいやつだな」

眠そうな目で列の処理をしていた門番だったが、打って変わって厳しい目でエインズの足先から頭までじろりと睨む。

「またこのパターンか……」

肩をがっくりと落とすエインズをすでに関所を通ったソフィアが駆け寄ろうとする。

「こちらは私の主でして!」

だがソフィアは門番のもう一人に止められてしまう。

「お前たちはもういいんだ。主と言われて、はいそうですかと怪しい人を通すほど怠けた仕事はしない」

確かに彼らにも彼らの職務があるのだ。ここでソフィアが何を言おうとも彼らはただ自分の仕事を全うするのみ、何も間違ってはいない。

ソフィアはおどおどしながらエインズの方を見つめる。

その間もエインズは門番の一人からどこから來たのか、目的はなんなのかなど質問を投げられている。

そのどれにも正直に答えるエインズだが、「いや、怪しい」と門番は返すのみ。

「はっ、そりゃその見てくれじゃあ怪しまれるわな。門番も腐っていないようで何よりだ」

などとそんなエインズの様子を笑い飛ばすタリッジ。

「タリッジ、笑っている場合ではありません! なんとかしないと最悪エインズ様だけエリアスにれないかもしれないんですよ!?」

タリッジに詰め寄るソフィア。

「それもいいんじゃねえか? おいエインズ! 土産を買ってくるからしの間関所の前で野宿でもしててくれよ!」

切羽詰まったソフィアを相手にしないタリッジはエインズに向けて冗談を言う。

タリッジの堅い元にソフィアの拳が飛ぶがタリッジは「いてっ」とエインズの様子にニヤニヤが止まらない。

「エインズ様がれないのでしたら私もエインズ様とともに関所の外へ行きます!」

エインズのことになると冷靜さを欠くソフィアにタリッジはため息を一つこぼす。

「忘れたのかよ。ブランディ家を離れるときにカンザスの旦那から何かもらってなかったか? それはこういう時に役立つんじゃねえのかよ?」

タリッジの言葉にはっとするソフィア。

「剣士には冷靜さが大切なんだぜ?」

と皮を言われ顔を赤らめながらタリッジをキッと睨みつけたソフィア。

肩をすくめたタリッジは早く教えてやれと言わんばかりに顎でエインズの方を指す。

「笑って冗談を言っている暇があるのなら最初からそう言いなさい!」

ソフィアはすぐにエインズに向き直り、タリッジの言葉をエインズに伝える。

「おっ、そうだった」

エインズは指環に魔力を流し、アイテムボックスを展開する。中から小さなポーチを取り出しそこから一枚のメダルを取り出す。

「……なんだこれは? 賄賂のつもりか」

金貨一枚で小賢しいことをすると門番はエインズを蔑んだ目で見るが、メダルをけ取りその模様を確認して顔を変えた。

「カンザスさんからもらったんだけど、これって役に立つかな?」

メダルにはブランディ侯爵家を示す紋様が描かれていた。

これが指し示すことはつまり、目の前のエインズがブランディ家の人間もしくはブランディ家と親な仲にあるということ。加えて、ブランディ家がこの人間の元を保証するということ。

「し、失禮いたしました。業務とはいえ、長く引き留めてしまい申し訳ありません」

打って変わって勢いよくエインズに頭を下げる門番。

エインズの方はやっと終わったとばかりに疲弊した表で門番に大丈夫だと伝える。

「不審に思うのも仕方ねえよ。エインズの怪しさ満點の見てくれが悪いんだからよ」

「タリッジ! 貴様、し言葉が過ぎるぞ」

非難するソフィアだが、タリッジは噓はついていないとばかりにけ流す。

「なんであれこれでれただろう? よかったじゃねえか」

「……エインズ様のお隣は私だけでいいのです。はぁ、どうしてタリッジなんかを連れているのか」

紋様のったメダルを返してもらい、アイテムボックスに収納せずそのままポーチを腰につけたエインズがゆっくりと関所を通る。

「エインズ様……」

「はは、は……。大丈夫だよ、慣れているから……」

とは言うものの、繰り返し怪しいと言われたエインズはしショックをけているようだった。

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