《【書籍化】外れスキル『目覚まし』、実は封印解除の能力でした。落ちこぼれの年は、眠りからさめた神達と優しい最強を目指す。【コミカライズ企畫進行中】》4-33:最初の勝利

赤い日差しが、巨大な狼を照らしていた。

狼骨フェンリル。

5メートルほどの高は家の屋と同じくらい。僕は、青白いに覆われた顔を見上げる。大狼がにたりと笑ったように見えた。

「では始めましょう! 英雄年!」

馬さえ一飲みにしそうな大口。長い方の牙はロングソード並みで、舌がうねっている。

はまるで火炎だ。僕を食いちぎってやるという意思が、黒々と燃える目全に宿っている。

ソラーナがんだ。

「リオン!」

「……うん! 僕が注意を引き付ける」

ソラーナを上空に逃がしてから、能力『黃金の炎』をかけ直す。

修行してきた連攜を、試す時だ!

「ゴァア!」

フェンリルが地面を蹴った。

すんでのところで回避。猛烈な風が左側を駆け抜けた。

直後、ぞくりと殺気がする。覚で前へ跳んだ。どん!と背後で轟音、土と泥が降ってくる。

すぐさま方向転換したフェンリルが、前足を僕がいた位置に振り下ろしていた。

「今のを回避するとは」

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地面を蹴り下がり、間合いを広く取る。

黃金のが飛來した。

「こちらだ!」

ソラーナが魔力を打ち付けるけど、フェンリルはジグザグにいて回避した。広い戦場って、狼にとってもやりやすい。

城壁から聲がくる。

「リオン殿! 援護は!?」

「僕は平気です! それよりあっちを!」

僕は南東の方角を指した。城壁にいた黒小人(ドヴェルグ)が、大きく頷いて引っ込んでいく。

き回る僕とフェンリルを、城壁から魔法や弓で援護するのは無理だ。他の戦場を支える方を、優先してほしい。

「ははは! 侮られたもの!」

フェンリルが遠吠えを放った。

が総立つ。

前衛を抜けて狼の魔が集まってきた。

「ガァ!」

「ウォン!」

怒濤のように押し寄せる、狼。

前から來る。切り裂く。

左から來る。避ける。

後ろから飛びかかられる。それなら――

「目覚ましっ」

風の霊(シルフ)の突風が僕を中心に巻き起こった。

城壁に打ち付けられる狼達。一部は掘に落ちて流されたようだ。

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「ソラーナ、今!」

「うむ!」

神様は、空から球を打ち下ろす。

「太の輝きを見るといいっ」

黃金の発が連鎖していく。

避けて走るフェンリルの目が、一瞬、戦域の外を見た。

止めろ、と本能がぶ。

「――!」

踏み込み、加速。

フェンリルとすれ違い様、後ろ腳を切りつけた。

大狼の目が見開かれ、僕を追尾する。

「ほう……速い。判斷も的確」

敵が見ていたのは、ミアさん達の戦域だ。さっきから轟音も響いてくる。おそらくして、ミアさん達を殺してしまうつもりだったんだ。

こんな魔に不意打ちされれば、腕利きでも一飲みだろう。

フェンリルは、後ろ足の傷を愉快そうに眺めた。

「……傷を負いましたか」

大狼の青白いが、薄くる。

冷気。

地面も大気も凍てつかせながら、こっちへ寒波が走ってくる。

息が白くなって、歯が鳴った。僕が切りつけた後ろ足では、赤黒いが凍結している。

ソラーナが頭上から言った。

「フェンリルの能力は『氷結』」

が進んでくる。一歩一歩で、凍った草が砕けた。

「全てを凍てつかせる氷の大狼。それが、狼骨フェンリルだ」

大狼を守るように、空中に氷槍が生み出されていく。氷の槍は切っ先を僕に向けて、次々と數を増していった。

「……寒い」

「リオン、これは溫度と共に活力を奪う! 早く止めねば、気象さえ変わり――戦況に影響が出るぞ!」

フェンリルを放っておけば、前線を援護する城壁から力が奪われる。一気に戦況が崩れかねない。

この魔が真っ先に突っ込んできた理由、これか……!

後方から戦線を崩壊させるつもりだったんだ。

「さぁ、どうする!?」

フェンリルが氷槍を撃ち放った。

避けるだけでも大変なのに、近づいて倒さないといけない……!

足がもつれて、僕はかろうじて前転で回避した。

「ごほっ」

冷気がにまとわりつく。手足に重りがつけられたみたいに、いつもの速度が引き出せない。

周囲に次々と氷槍が突き刺さっていく。

肺が、凍りそうだ……!

「ぐっ」

數センチ橫に著弾した氷槍が、僕を吹き飛ばした。転がる。街道を區切る石壁に背中をぶつけて、なんとか止まった。

けなくなった瞬間、冷気がさらにを蝕んでくる。

耳がちぎれそうな寒さだ。霞んだ視界。白いものがちらつく。

「……ゆ、雪?」

もう春なのに。

吹雪に巻き込まれたみたいに、フェンリルの姿がかすんでいた。

「すまないリオン」

僕の前にソラーナが降り立った。

魔力障壁で、氷槍を防いでくれる。遅れて腕とに痛みが走った。

骨は――折れていない。腕も足も問題なくく。

「空気中の水分が、魔力で凝固してる。吸わない方がいい。人間が、魔の魔力を取り込むことになる」

僕は慌てて口を拭った。それくらいで防げると思えないけれど。

どんどん寒さがにしみ込んでくる。

大狼の遠吠えが響く中、神様が僕の肩に右手を置いた。

「わたしは君と常に共にある。ルイシアを癒した加護が、役立つだろう」

――――

<スキル:太の加護>を使用します。

『白い炎』……回復。太の加護で呪いも祓う。

――――

白い炎がを包み込んだ。視界が明るくなる。

神様の微笑が、何より僕に元気をくれた。

こんな時に僕の方でも笑えるくらい。

「……ありがとう、ソラーナ」

次々と飛來する氷柱が、障壁を砕かんとする。きは直線的だ。

僕と神様は視線をわす。

「出よう」

「ああ、反撃開始だな!」

ソラーナと別れて駆ける。

「それ、當たらないね!」

聲を張って挑発してやる。

柱のような槍が次々と土を巻き上げて丘陵に突き刺さった。氷柱を隠れるのに利用しながら、足を回して霜の降りた地面を走る。

ソラーナの『白い炎』は呪いを――魔力による狀態異常を祓ってくれる。魔力でを蝕む雪も、<太の加護>なら怖くない。

空では、ソラーナが飛來する氷柱を魔力で抑え込んだ。そのまま黃金のに包み、フェンリルへ打ち返す。

「お返しだ!」

フェンリルが目をむく。

「ちぃ!」

大狼が氷弾を無數に生。標的がソラーナへ変わった。

神様の姿が見えなくなる。

その隙に、僕は大狼と並走した。

「こっちだ!」

牙を避け、爪を短剣でいなす。巨軀を活かした當たりは、スライディングで潛り抜けた。

大狼が飛び退く。直後、氷の槍が豪雨になった。それでも前に進み続ける。

じわじわと大狼を堀へ追い詰めていた。

フェンリルの唸り。

「……想定よりも力が強い……!」

強化された耳が拾うのは、敵の揺だ。

「神は急速に力を増さないはずだが……」

大狼の目が赤くった。

前が見えないほどの氷の粒が、僕に叩きつけられる。猛吹雪に突っ込んだみたい。

粒は一つ一つが鋭くて、出した頬や耳が切り裂かれた。

「目覚ましっ!」

ルゥが作ってくれた籠手(ガントレット)から炎の霊(サラマンダー)を呼び出した。

炎で冷気を押しのける。

溶けた氷。

一瞬、周囲にたくさんの『水』が生まれたことになる。

「目覚まし――!」

さらに、一度。

今度は水の霊(ウンディーネ)を呼び覚ます。

「霧をお願い!」

吹雪に生まれた水を、霧みたいにたちこめさせてもらった。フェンリルの姿が、霞んで見える。

大狼がく。

「これは……幻?」

僕は、いくつもの僕自を、魔力で霧に映し出していた。

――――

<スキル:魔神の加護>を使用します。

『魔神のたぶらかし』……魔法の力で、まぼろしを生む。

――――

隙は一瞬。フェンリルはすぐ本の僕を見つけただろう。

――顎の下に。

「そこかぁ!」

振り下ろされる前腳を短剣でけ止める。

「……なに!?」

――――

<スキル:雷神の加護>を使用します。

『戦神の意思』……自分よりも強大な敵と戦う時、一撃の威力が強化。

――――

離れて戦っているけれど、加護を通して神様をじた。

スルトにも勝った。フレイにも勝った。

背中を支えてくれる神様がいる。

フェンリルが前腳に力をこめる。打ち破られそう。

曲剣のような爪が、頬と腕に突き刺さった。流が瞬時に乾いて凍っていくのがわかる。

でも……僕には仲間がいるから、今は、耐えるだけでいい。

「わたしの信徒を傷つけるな!」

隙を、今度は神様がついていた。

氷弾をいなしきったソラーナ。フェンリルの脇腹で、弾を生み出す。

髪もも傷ついているけれど、瞳は生み出したくらい強かった。

「……貴様、本當に敗殘の娘か……!」

愕然とするフェンリルを、橫合いから黃金の鎚が穿ち抜いた。

お読みいただきありがとうございます。

次回更新は10月1日(土)の予定です。

(1日、間が空きます)

【コミカライズ版 コミックノヴァで連載中!】

・9月23日(金)からコミックノヴァ公式で連載をしております!

コミカライズ版ならではの戦闘描寫などもありますので、

第1話からソラーナとリオンの活躍をお楽しみいただければ幸いです!

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