《【書籍化】外れスキル『目覚まし』、実は封印解除の能力でした。落ちこぼれの年は、眠りからさめた神達と優しい最強を目指す。【コミカライズ企畫進行中】》4-34:勝利の連鎖
オーディス神殿を守る戦いは、リオン達以外の場所でも進んでいた。
「フェリクス!」
ミアが投じた鎖を、フェリクスが必死で摑む。
赤髪を振りしてミアが思い切り引っ張ると、魔法使いの背後で発が起こった。ぎりぎりのところで、フェリクスを石壁の裏へ引きずり込む。
あとしでも避難が遅れていたら、風で吹き飛ばされていただろう。
ミアは唸る。
「……強いね」
「ええ」
フェリクスは黒髪を摑んだ。頭冠(コロネット)をはめた額から、一筋のを流している。
2人は、壁の左右から狼骨ハティを覗き込んだ。
度重なる魔法で、地面は一部が赤熱している。土煙と黒煙がたなびく丘陵に、狼骨ハティは立っていた。
――オオオォォオ!
咆哮。
裂けた口から奔る聲は、まさに狼だ。荒布に包まれた3メートルに迫る巨は、錫杖をついて立ちはだかっている。
石壁に背をつけて、フェリクスが呟く。
「無盡蔵の魔力。そして力。巨大なは視野が広く、どこに逃げても補足される」
「おまけに」
ミアは言いさした。
「典型的な魔法タイプだ。あたしともあんたとも、得意距離が被ってる」
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「……最悪ですね」
「最悪だ」
「あなたと死ぬとは……」
「あたしだってそんな気はないよっ」
ミアは口を曲げて、懐から投げナイフを準備した。鎖斧を使っているとおり、投擲全般がもともと得意なのだ。
主神が與えたスキルというより、ミア自の鍛錬とセンスのおかげだろう。
「さぁどうしたぁ!」
ハティの聲が轟々と響く。
「冒険者ども! それで終わりか!? 灑落にもならない弱さだぞ」
ちっとミアは舌打ちする。
レベルはミアが35、フェリクスが42。
腕利き、あるいは鋭といってもいい水準だが、神々と正面切って戦える相手とは分が悪い。
並みの冒険者であれば、軍勢といっていい數が必要だ。
「……これで、敵の主力じゃ弱い方なんだろ?」
「そのようですね。まったく、神話時代とは、何もかもが規格外」
そこで、城壁から炎弾が飛來する。
ハティによって破壊された城壁の防備だが、そろそろ立て直してきたのだろう。ただ――
「なんだそれはぁ?」
げらりと笑って、ハティが錫杖を一振りする。
障壁を展開するまでもなく、炎弾はたやすく切り払われた。ハティは堀から水を吸い上げ、逆襲の氷弾を送り込む。
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連鎖する悲鳴と怒號。城壁は再び沈黙した。
「なんてやつだよ」
「城壁はサフィの魔法文字(ルーン)が効いています。たやすく全滅はしないと思いますが……」
ハティが聲を張ってきた。
「斧使いと魔法使いは、死んじまったかぁ!?」
2人はぎくりと壁の後ろにを潛める。
「臭うんだよ。やめな隠れるのは」
ハティが錫杖を揺らし、特大の炎弾を準備する。
ミア達が隠れる防壁にも、魔法文字(ルーン)が刻まれていた。何発かは耐えるだろうが、かないことには勝機もない。
「いくか?」
「ええ」
ミアとフェリクスは頷きあう。
「どこかで、練習した技が活きればいいですが――」
特大炎弾が放たれた。
2人は左右から飛び出す。
「ふっ」
ミアは風に背を押されるまま、短く息を吐いて、投げナイフを投擲。顔を狙えば、意外とこれが嫌がられるのだ。
「小賢しい」
ハティが錫杖を構えるが、邪魔された分だけ、フェリクスの方が早かった。
「氷刃(イバラク)」
地面を氷が走り、ハティの足を絡めとる。
きが止まったところに、ミアは鎖斧を放った。
「ふん」
錫杖でけ止めるハティに、ミアはせせら笑ってやった。
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「今度のは重たいぜ」
スキル<斧士>の能力、重撃。錫杖に防がれながらも、斧はスコルへ突進を続ける。
著弾、そして、刃に貯めこまれた魔力を解き放つ。
吸収した魔力を相手に叩きつけること――それが小人の逸品『緋の斧』の力だった。
衝撃が大気を揺るがして、ハティが片膝をつく。
「もともとはお前の魔力だぜ?」
「……一応、腕利きってわけか」
ハティは錫杖を地面に突いた。何度も、何度も。
地面の振は次第に大きくなり、立っていられなくなる。空中に浮きあがった土は魔力によって固められ、フェリクスとミアへ降り注いだ。
「ミア、防壁へ!」
「おう!」
小人が造った防壁は、戦場のあちこちに置かれている。
ゴーレム技を応用し、遠距離から崩したりもできる優れものだった。殘したまま攻め込まれた時、魔に逆利用されてしまうから。
「炎よ! 上天の火球よ!」
それは、おそらく神話時代の魔法。
10メートルを超える火球が頭上から落ちてくる。スルトの火炎さえ思わせる熱が、ミアの鼻を焼いていた。
「やっべぇ……」
防壁の裏に逃げ込むが、果たして持つか。
ハティがにやりと笑う。
「ぜろ(ガラフ)」
上空で、巨大炎がぜた。
降り注ぐ熱波。上空で弾けた風は、壁の裏にいるミアやフェリクスにも屆く。
フェリクスががしっとミアの頭を押し下げた。
「土葬(グラフト)」
地面がへこむ。上にうっすらと魔力の気配があるのは、フェリクスが防護魔法でもかけたのかもしれない。
熱波が終わり、ミアが目を開けると――左半にやけどを負ったフェリクスがいた。
細目がかつてない苦痛に歪んでいる。
「……さすがに、2人分は無理でしたね」
フェリクスは痛ましく笑う。
ミアは瞬時に狀況を察した。1.5メートルほどだった防壁が――數瞬前よりも、明らかに高くなっている。
魔法で土をえぐって、より深く隠れられるようにしたのだろう。おかげでミアは風と熱波の直撃は免れた。
だがフェリクスまでは、十分な遮蔽をとれない。左半に大やけどを負っている。
「あたしの方が頑丈なんだ。押しのけりゃよかったんだ……!」
「なに、神々がいます。怪我など、怪我のにもらない」
フェリクスは珍しく筋の通らないことをいった。
杖を支えにして立ち上がる。
そこに、ぬうっと影が差した。
「ここにいたか」
振るわれる錫杖。ミアはフェリクスを庇うが、二人同時に吹き飛ばされた。
「がっ……」
フェリクスの怪我は重い。ミアは仲間を庇うように立つが、果たしていつまでこの化け相手に凌ぎきれるか。片方がけないのでは、防壁便りの逃げ策はとれない。
走れないフェリクスを置いていくことになる。
「くそっ……」
近くの前線は、かなり魔に食い込まれていた。巨人兵や熊型魔が、陣形の中にはっきり見える。
ミア達を救いにくる余力はあるまい。
「どこもやべぇか」
故郷のことが頭に過ぎった。
普通の冒険者で、普通に稼げればよかったのに。あたしはなんだって――こんな連中と戦っているんだろうね。
城壁から聲が來なければ、ミアは破れかぶれの突撃でもやっていただろう。
「ミア!」
鼻にかかる甲高い聲。
杖を支えに、フェリクスが顔を上げていた。
「サフィ……?」
サフィ含め3人の黒小人(ドヴェルグ)が、両手で樽ほどもある寶珠を抱え上げていた。
寶珠が城壁から下に投げ込まれる。
相変わらず、小人はとんでもない力だと思う。
輝く3つの寶珠は、それぞれ近くの土や巖を集めていく。周りの小人達がさらに武を下に放り込んで、そのゴーレムを完させた。
「番兵ゴーレム……!」
――の、改良型よ!
ミアの呟きに、サフィがそう合わせていた。
ずんぐりした3メートルほどの巨は、でかさだけならハティにも劣らない。鎧をまとったゴーレム達。その頭部分に、青いが宿った。
サフィはさらに城壁から飛び降りて、手に持った鎚を真ん中の一機に叩きつける。
「祝福(ブレッシュ)!」
真ん中のゴーレムが武を掲げた。
「オオオォオオ!」
咆哮と武鳴りを響かせて、3のゴーレムがハティに突撃する。
ハティは錫杖を振るって氷弾を叩きつけるが、ゴーレムの斧に切り払われた。
「ちっ」
ゴーレムが速度を増して接近。
一が斧、一が剣、一が槍。
全てを錫杖でけ止めて、ハティは吠える。
「細工師どものオモチャじゃねぇか!」
一喝。
杖をついた地面が揺らぎ、ミアもよろける。ゴーレムが勢を崩した瞬間、ハティはゴーレムらを錫杖で薙ぎ払った。
石突から走る炎がゴーレム達を包み込む。
フェリクスがんだ。
「ミア!」
ミアは打たれたように頷いた。
「あ、ああ! だけど、あんた……!」
「言ったでしょう。我々普通の冒険者も、たまには英雄的にやりましょう」
傷を負った細目の顔には、いつもと違うすごみがある。へっとミアは笑ってやった。
「……あんたも冒険者らしいところあるね」
鎖斧を、投擲。
ハティによりゴーレム達はなぎ倒されていくが、その姿で死角となるエリアを、斧は弧を描いて進んでいった。
「さて――私も」
フェリクスが魔法を解き放つ。瞬時に、2つ。
「猛炎(バル)」
突き進む炎弾は、ハティそのものではなく、魔力を吸収する『緋の斧』へと吸い込まれた。
「氷刃(イバラク)」
地を這う氷もまた、斧の近くに寄った瞬間、その刀に魔力を吸い込まれる。
2つの魔力を宿した斧は、鎖を鳴らして飛んだ。
「なっ」
どん、と音を立てて、鎖斧がハティの脇腹に食い込んだ。
ミアは口角を上げる。
「スコル(親戚)と違って、あんたは守りが甘いねぇ」
「……小細工を!」
そうさ、とミアはんだ。
「大を殺す小細工だよ!」
緋の斧の刀が輝く。
最初に解き放った魔力は、氷刃(イバラク)。ハティの脇腹が瞬時に凍り付く。
斧によって表皮を破っていた分、魔法の冷気は特に浸したようだ。
「次です、ミア!」
「おうよ!」
鎖を引き、斧を叱咤する。
緋の斧がさらに輝いて、炎を解き放った。
「グガァァァアアアアア」
ハティが苦悶にをよじる。冷気で凍り付かされたところ、炎の衝撃が襲ったのだ。
緋の斧で2種類の魔法を解き放たれるのは、傷口からに発を押し込まれるようなものだった。
「ぐ、お……」
ハティが錫杖を杖にして立つ。左の脇腹が、アバラが見えるほど大きく抉れ、ぼどぼどと滝のようなが流れていた。
「お、おのれ……」
ハティの目にぎらりと危険なが宿る。
その背中に矢が突き刺さった。
「応援に來たぞ!」
同じく後衛に控えていた、腕利き冒険者達だった。フローシアで見た顔もある。
彼らは神々との共闘経験を買われて、ミア達と同じく、速攻を防ぐ後衛に配置されていた。
石鎚を掲げた冒険者、ロイドが大きく聲を張る。
「敵は死にだ!」
ミアは鎖を引き、緋の斧を巻き上げる。
フェリクスと目線をわし合った。
「行ってください」
「……ああ! 死んだら許さないよ」
ハティは錫杖を振るっている。
「フェンリル! 狼骨の長はどこだ! た、助けを……!」
その時、ミアのを冷気がなでた。リオン達が戦っている場所に、吹雪が舞っている。狼の遠吠えが、何度も聞こえてきた。
ハティが瞠目する。
「……お、長が苦戦だと?」
冒険者達の剣が、槍が、ハティに向けられる。
初めて狼骨ハティの顔に揺がみえた。
「押せ押せ押せぇ!」
「倒せるぞぉ!」
「斧と剣は前に出ろ! 槍は橫からやっちまえ!」
「さぁ、誰が英雄だ!?」
ぐらりとよろめくハティ。
魔法を使おうと、錫杖を地面に突き立て、大振を起こす。冒険者達が一気に跳ね上げられた。
「邪魔を、するな……!」
ミアは走った。番兵ゴーレムの殘骸を駆けあがり、ハティの真正面へ躍り上がる。
「邪魔はあんただ!」
緋の斧による一撃が、ハティの大木のような眉間に叩き込まれた。巨大な腕が振るわれる。ミアは跳ね飛ばされるが、確かな手ごたえがあった。
「ぐ、ア……!」
伝説の魔がよろめき、崩れる。
ミアにもけを取れる余力はない。誰かに引き上げられたと思えば、後ろに置いてきたフェリクスだった。
「……あいつは」
「あれを」
顎で示した瞬間、フェリクスは顔を歪める。激痛が走ったらしい。
緋の斧を額にけて、ハティにもう起き上がる気配はなかった。巨大な目はぐるりと上を向き、手足がゆっくりと灰になっていく。
典型的な魔の最期。
いずれ特大の魔石を殘して消えるだろう。
冒険者の快哉が、夕焼けに響き渡っていく。
――押し返せ!
――押し返せ!
――さぁ、押し返せ!
冒険者達は、魔達の速攻を撃退しつつあった。
「……やったな」
微笑むミアに、フェリクスも頬を緩めた。
「お互い、ちょっとは年にを張れそうですね」
◆
歓聲は、丘陵全に広がっていく。
守られるだけでも、滅びるだけでもない。
リオンもまた、ソラーナと共に敵に向かい合う。
傷を負い、じりじりと前線方向へ下がっていく狼骨フェンリル。リオンは短剣を突きつけた。黃昏のが刀に宿って、金に似た輝きを帯びる。
れる息を無理やりに肺に押し込めて、聲を張り上げた。
「押し返そう!」
角笛の年の激勵で、戦線はさらに勢いを増した。
速攻から、逆襲へ。
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