《【書籍化】外れスキル『目覚まし』、実は封印解除の能力でした。落ちこぼれの年は、眠りからさめた神達と優しい最強を目指す。【コミカライズ企畫進行中】》4-35:戦乙
冒険者達の快哉が、風に乗って戦場に渡っていく。
速攻を仕掛けた狼骨フェンリルとハティ、両者ともが角笛の年らに撃退されていた。
城壁で始まった掛け聲は、赤く染まる丘陵に響き渡っていく。
――押し返せ!
――さぁ、押し返せ!
は翼を傾けた。
主神の使いでもある鳥は、上空で旋回し、戦況を目に映していく。
押し込まれていた前線にも変化が生じていた。人間達が魔を圧し始めている。
後衛が速攻を退けた報が伝わり、士気が高い影響もあるだろう。加えて、戦線の整理も進んでいた。
――武が潰れたやつはいるかぁ!?
――負傷者はこっちだぁ!
疲労した最前線が後衛に下がり、余力のある者が前に出てくる。
後衛にフェンリル達がいた時は、伝達の混とフェンリル自の脅威で、前線と予備の代ができなかった。弓や魔法を放つ城壁が攻撃をけたことも、前線の負擔を増やしたはずである。
今、後方の脅威はなくなった。
事前の準備――陣形同士の協力が機能しだす。
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――誰か、東の親玉、ユミール側の援護に行ってやれ!
――でかい蛇には近寄るな! あれは神々に任せろ!
――後衛が押し返したんなら、俺らもだ!
押し返せ。
さぁ押し返せ。
魔の圧力に、人間達はまず聲で抗う。
押し込まれていた陣形が、しずつ息を吹き返す。
終わりのない戦いに見えても、確実に魔は減っている。その希が、冒険者達を勇気づけていた。
後衛に運び込まれた冒険者や騎士は、薬神シグリスが即座に癒す。戦えないほど傷ついたものは、空を飛べる白小人(アールヴ)が擔架で城壁へ運んでいった。
それでも、上空から見れば黒い波が神殿を取り囲んでいるのは変わらない。
空の裂け目からは魔が降り続け、王都の四迷宮からも魔が溢れていた。
は戦場を見下ろして、飛ぶ。主神の目は、まだ勝負が決したとは見ていない。
何十度目の大範囲の回復を終えた薬神シグリスが、青いを殘してまた前線の鼓舞へと戻っていく。
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◆
薬神シグリスは高く槍を掲げた。
切っ先に黃昏のが宿り、黃金に近いになる。真橫に振り、空を飛ぶ青蝙蝠(セイレーン)を切り裂いた。
「戦士たちよ!」
青の魔力が北側の前線に降り注ぐ。
加護が行き渡り、冒険者達の傷がたちどころに癒えていく。一度に癒したのは數百名。目覚ましの角笛(ギャラルホルン)で力を高められているとはいえ、そう何度もできる治癒ではなかったが、それでも、今の好機は惜しい。
シグリスは聲を張り上げる。
「前へ進みましょう! 魔の群れを、神殿からさらに遠くへ押しやるのです!」
おう、と快哉が波のように広がる。
冒険者達は、鎧に包まれた騎士と共に、戦線を支えている。一でも多く、しでも早く、魔を撃退しなければ、たちどころに押し込まれてしまう。
滝の水をコップでけ止めるようなものだった。
本來なら騎馬で突撃する騎士も、今は地上で戦っている。敵の數が騎兵の倍以上では、突撃をしても飲み込まれてしまうだけだから。
――いくぞ!
――押せ! 押しこめぇ!
連鎖する聲が、シグリス自をも鼓舞していた。
冒険者の剣が、槍が、大盾が、魔達を押しのけていく。
シグリスは自もまた地上に降りて、槍を振るった。2メートル超の人型魔、巨人兵の首筋を切り裂く。
戦乙の戦に、士気はさらに上がっていった。
「……これならば」
口元に、微笑が宿る。
シグリスの頭に聲が響いた。西の戦場で戦っているロキからだ。
『ちょっといいかな?』
戦線同士の距離は離れ、地上からは互いが見えない。だが、神々同士は魔力で連絡できる。
『リオンとソラーナ、そしてフェリクスとミアが狼達を退けた』
ええ、とシグリスは応じる。
「今がチャンスです」
『そうだ。ミアやフェリクスも、うまくやってくれた。任せた甲斐があったよ』
シグリスはふと眉をひそめた。
槍で炎魔犬(ガルム)を數突き倒し、返りが來る前に空へ飛び上がる。ロキがいる西の戦場を見た。
「……あえて助けにいかなかったのですか?」
『そんなことはない。こっちもギリギリだった、だから、結果的に任せる形になったというだけさ』
シグリスは嘆息する。
つまり、無理をすれば救援に行けたということだ。
『人間だけで魔を撃退した方が、士気は格段に上がる。実際に英雄になるわけだからね』
とはいえ――賭けに近かろうと、大事な場面で外さないのがこの魔神だ。今頃はたれ目の目をさらに下げて満足していることだろう。
シグリスは問いただした。
「それで?」
『うん、本題だ。今、トールは世界蛇(ヨルムンガンド)と戦っていて、ヘイムダルは東でユミール戦、ウルはフレイを押さえている』
どん、と南側で轟音が轟いた。間に神殿の城壁を挾んでも、巻き上げられた土砂と、トール神の雷が見える。
『シグリス、君にはユミールを注意してもらいたい。僕は反対側の西にいるから』
「……當然、油斷する気はありませんが」
『それ以上を求めたい。フェンリルは退いて、ハティも死んだ。だが僕の勘は、「うまくいきすぎてる」とじている』
シグリスは東の戦場を見やる。
空気が微震を続けているのは、ヘイムダルとユミールの打ち合いが、何合も、何合も、継続しているせいだ。ヘイムダル神は、仲間の援護を待って、ユミールを押さえ続けている。
リオン達がフェンリルを降した今こそ、好機のはずだ。
「……ですが」
『わかってる。慎重すぎれば勝機を逃がす。君はとにかく、回復で戦線を維持しつつ、急変にも備えてくれ』
そこでロキからの言葉は終わった。
抜け目ない魔神は、おそらくウルやソラーナにも、微妙に言い回しを変えて同じ警戒を伝えるのだろう。
シグリスは再び戦線へ向かい、冒険者や騎士と共に、飛び込んできた魔を薙ぎ払う。
空に雷鳴がとどろいた。
「あれは」
南の空に、雷雲をまとったトールが飛び上がる。振りされる赤髪が、鎚にまとう雷に照らされているのがわかった。
しかし――雷神はかなり、傷ついている。
薬神としての覚が、トールからじる魔力がおかしいことに気づかせた。
「……毒をけている?」
相手は蛇だ。それくらいの細工はやるのかもしれない。
シグリスは念じ、トールへ呼び掛けた。
「トール、狀況はどうですか? 毒をけたのであれば、私が――」
空中にあるトールが、一瞬、彼方からシグリスを見返してきた。
『へ! 不要だ!』
城壁の向こう側に、トールが隕石のような勢いで消える。
落雷のような轟音。
反対側のこちらまで地面が揺れた。
世界蛇(ヨルムンガンド)の悲鳴が響いてくる。
「しかし……」
『周りの冒険者が、うまく邪魔を除けてくれてやがる。こっちは大に集中できるってわけだ』
トールは遠雷のように笑った。
人間に小型の魔を任せて、トール自は世界蛇(ヨルムンガンド)に集中しているのが、功を奏しているのだろう。
『謝してるぜ。こいつらにも、お前らにも!』
「……謝ですか。まったく、恐ろしかった雷神が」
人も変われば、神も変わる。
シグリスは口元を緩め、槍を振るった。
「では私達も、もう一押し!」
んだ直後、シグリスは震えた。
何かの気配を、東側から――ユミールとヘイムダルの戦場からじる。
瞬間、聴覚を塗りつぶすような雄(おたけ)びが大気を震わせ丘陵に渡った。
ユミールからだった。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は10月6日(木)の予定です。
(本業多忙のため、2日、間が空きます)
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